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掌編小説

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2023年8月の記事一覧

掌編小説 月光

掌編小説 月光

 女には影がなかった。それは陽の光で出来る影ではない。月光で出来る影のことである。
「私は明日死ぬ」と女は言った。
「何故」と僕は言った。
 女の長い睫毛に縁取られた黒い眸から涙が落ちた。女が泣くのを見るのはもうたくさんだと思った。 

 川のほとりを歩き続けた僕達は、葦が生い茂る川のふちで足を止め蒼白く輝く月を眺めた。果ての町には沢山の火が灯っていた。僕は生まれ変ったらあそこに帰りたいと思った。

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