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死亡ENT

先日、勤め先の病院で患者自身の縊首による死亡ENTが発生した。ENTとはドイツ語のEntlassenを略したものであり、退院を意味する。縊首による死亡ENTとは文字通り、首吊りにより亡くなられて退院扱いになった事を示す。

当院は精神科であるので、様々な問題を抱えている患者が入院している。統合失調症、アルコール中毒、自殺未遂、認知症などが患者の主な症状だ。

その中で認知症患者は専門病棟があるのだが、それ以外は一緒の病棟に入れられている。症状によって急性期と慢性期、包括と出来高病棟に分かれている。

当該患者が入院していた病棟は、慢性期の出来高病棟であり、服薬指導の算定が取れるので、自分もよく足を運んでいた。

何回か服薬指導をした事もある。当該患者は40代で今回が7回目の入院であり、統合失調症で幻聴が聞こえ、自殺未遂を繰り返していた、と記憶している。

詳細は省くが入院後に抗精神病薬を2種類、抗うつ薬を1種類投与されており、鬱状態から躁転して自死に至ったと考えられる。何故なら、今まで気力がなく行えなかった自死を、薬により気力を取り戻したら行えるようになるからだ。

今回の入院時に、私は当患者への服薬指導を行っていないが、仮に行っていたとしても自分に何か出来るのか、とつい考えてしまう。

私は精神科病院に勤めながら、自殺未遂を起こした過去があり、その際に勤務先とは別の精神科病院に入院した経験がある。そういう経験も活かせなかったのか、いや無理だろう、と悶々とした気分になった。

さて、話は変わるが、院内で自死が発生した事から、当日の午後から医療安全管理委員会が開かれる事となった。

普段なら薬局長が参加するのだが、薬局長は有休が溜まりすぎて、午後は帰宅していた。なので、代わりに私が委員会に参加することとなった。

薬剤師としての知見から、また精神科病院に入院した経験から、何か発言を求められるだろうと考え参加したのだが、実際には何も求められず終始、蚊帳の外に置かれていた。

そう、委員会ではソーシャルワーカーと外来看護師と病棟看護師の三すくみで責任転嫁が行われていた。

精神科病院では入院時に、紐の類は全て没収される。パーカーやズボン、靴紐まで全て抜き取られる。また金属類も持ち込み禁止なので、金属探知機で体の隅々まで確認される。

私が他院の精神科病院に入院した際は、日記用に持ってきていたノートの金属リングまで危険という事で没収された記憶がある。

当院ではそのような事は行っていなかった。ソーシャルワーカーは外来看護師が持ち物検査をしていると言い、外来看護師は病棟看護師の担当だと言い、病棟看護師は入院時にソーシャルワーカーが行うはずだと言い、とにかく自分たちのせいではないと、ずっと口論をしていた。

更に院内の環境も問題だった。縊首した場所は和式トイレなのだが、立ち上がる為の手すりが用意されていた。手すりは何故か縦方向ではなく横方向にコの字型に設置されており、紐を引っ掛けるにはもってこいな高い位置に設置されていた。

また、病棟の見回りであるラウンドにも問題があった。ラウンドは決められた時間ではなく、各々が勝手に行っていたらしく、縊首が行われた直近2時間は誰もラウンドを行っていなかったとの事だ。

この様な事は患者の自殺企図率の高い精神科病院ではあってはならない事だ。前々から思っていた事だが、当院は離島という環境もあってか、職員は仕事に対してルーズだし、マニュアルも整っていない。更に施設設備自体にも問題がある。

まあ、私も人の事を言えた義理ではないし、そもそもがパートの身である。正職員ですらない私が、他部署の事柄に口を挟める訳もない。そこに一抹の口惜しさと、しょうがないという無力感を感じるのだが。

もし、身近な人に自殺企図があり、精神科病院に入院、となった時には当院には入院させないほうが良い。とはいっても勿論、病院名を明かすことなど出来もしない事であるが。



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