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マジックアワー

#ショートショート #超短編小説 #朗読シナリオ  
#恋愛 #大人の恋 #お台場


「もう終わりにしよう」 
と彼が言った… 
「そうね、終わりにしましょう」と私は答えた 

お台場のレインボーブリッジを車で渡り始めた時に彼が呟き…そして 私は その橋を渡り終わる前に まるで明日の天気の話しでもしているかのように 「そうね」と同意した。 

この景色と夕陽が沈むタイミングが好きな私に 
彼は 別れ を告げて来た… 
それは私が時より彼に感じる自己中なところ 

(最後まで、貴方らしい…)と思いながら  
私は お台場の観覧車を見ていた。 

強がっていた私だったのだが
しばらくの間、私はレインボーブリッジを使う事が出来ないでいた… 
TVで あの場所が映っただけでも 瞬間にリモコンを手にしていた自分が まだ癒えない心の傷を私に教えていた。 

新年度が始まり…皮肉な事に 私はお台場への転勤の配属になった 本社が お台場にあるのだから 本来なら嬉しい事なのに 気持ちが沈む  
睡眠不足の日が続いた私は
通勤途中の電車の中で酷い めまいを感じ 隣りに居た人に倒れかかってしまった 
その人は 冷静に「次の駅で降りて少し休みましょうか⁈ 大丈夫ですよ」と言いながら 私を隣りの駅で降ろして ベンチに座らせてくれた 
「すぐ戻ります お水を買って来ますね」と言って駅の中にある自販機の冷たいお水を私に渡した 
彼は「私は仕事に行かないといけないので 駅員さんにお願いして来ましたから もう大丈夫ですよ」と言って去って行った… 
もう大丈夫ですよ その言葉が私の張り詰めていた心に 優しく浸透していった… 
きっと、もうすぐ大丈夫になれるんだ 
見ず知らずの人の優しさと何の根拠も無い一言で 
人間は どれほど救われるのだろう… 
次の日 仕事の帰りに一人でお台場のマジックアワーの 景色を風に吹かれながら 見ていた 
「綺麗」と思えた… 

新しい環境に少し慣れた頃… 電車の同じ車両に 
あの時の彼の姿を見つけた  
リモートワークが多い 昨今 昔のようにラッシュでも車内を歩く余裕はあった 
私は 周りの人達に「すみません」と言いながら 
彼に辿り着き「先日は、ありがとうございました」とお礼を伝えた 
彼は 「申し訳ない どちら様でした⁈」と不思議そうな表情をした 
私は(覚えて無いの⁈それとも人違い⁈) 
と、突然 不安になった… 
曇った私の顔を見て 彼は思い出した様子で 
「あ〜あの時の」と言って 笑った 

その日がキッカケで私達は、よく電車の中で話しをするようになった  
そんな金曜日に 彼が言った「今日仕事の帰りに食事でもしませんか⁈ 美味しい定食屋があるんですよ、 そう言えば連絡先も知らなかったんですね 教えて頂けますか⁈」 
私は 電車の中だと言うのに 思わず笑ってしまたった… 
初めて誘う食事は 定食屋さん そして、私の連絡先も必要に迫られて聞いてくる…  

彼の中には何の計算も無い、もし彼とマジックアワーの美しい輝きを一緒に見る事があっても 
それは、きっと偶然で…彼は「綺麗だなぁ〜」と心から言うのだろう 

そんなピュアな彼が今 私は一番好きなのだ。

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