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外国人社員研修と労務管理

シンガポールでの新たな挑戦が始まりました。そこで私は、ある企業の苦戦している事業部門の立て直しを任されることになりました。具体的には、店舗リノベーションを進めつつ、人材教育も同時に一から見直すというタスクが待ち受けていました。

まずは、お店の雰囲気をガラリと変えることで、新しい顧客に気軽に立ち寄ってもらえるような環境を整えることから始めました。そして同時に、スタッフの教育にも力を入れました。知識や技術を教えるだけでなく、会社の理念を共有し、一丸となって業績向上を目指すためのチームワークを育てていくことにも注力しました。

すでにマネジメント人材については、ヘッドハンティング会社を通じて面接を行い、人材の採用に必要なマインドセットが共感できているかを確認させていただいたところです。

採用におけるマインドセットは、企業の成功と密接に結びついています。それは単に能力を評価するだけでなく、人材の可能性を見つけ出し、それを育てるための柔軟性と創造性を求めています。次に、採用に必要なマインドセットをいくつかご紹介します。

まず、「ポテンシャルを見る」マインドセットが求められます。経験や技術は重要ですが、その人がどれだけ成長可能で、学習意欲があるかを見極めることが、組織の成長と長期的な成功につながります。

次に、「カルチャーフィット」を重視するマインドセットも欠かせません。スキルだけでなく、候補者が企業の価値観や文化にフィットするかを見ることは、チームの調和と生産性を維持する上で不可欠です。

国内外に限らず、そもそも「採用は投資」であるというマインドセットも重要です。人材は、資本や設備と同様に、企業の価値を創出する重要な投資です。採用にかかる時間、資金、エネルギーは、将来的な成功に直接寄与する投資と捉えるべきです。

同時に、「失敗を恐れない」マインドセットも必要でしょう。全ての採用が成功するわけではなく、時には失敗することもあります。しかし、それらの経験から学び、改善し続けることで、よりよい採用戦略を練り上げることが可能となります。

採用は、一見単純なプロセスかもしれませんが、実は深遠で複雑なアートです。それは企業の将来を左右する、極めて重要な決断です。ですから、人材採用の際には、このようなマインドセットを持つことが、その成功に直結します。

これから新しくマネージャーとして採用した彼を通じて、外国人社員の研修について現地社員に共通認識を持っていただくために、「成功する外国人社員研修」と題して、新しいマガジンを連載させていただくこととなりました。

外国人研修の目的

近年、多くの日本企業が海外へとビジネスの視野を広げ、グローバルな採用が一般的な行為となりました。

そして現地で採用された外国人スタッフに対して、日本で研修を提供する企業が増えてきました。以前は主に、彼らが外国人研修生として特定の技術を習得することが研修の目的でした。

しかし、最新の傾向として、研修の内容が変化してきています。特に、日本独自のビジネスマナーや社内の文化を理解し、受け入れるための教育が、ホワイトカラーの社員を対象に行われることが多くなってきました。これにより、企業はより効果的にグローバルな人材を組織に取り込んでいます。

コンプライアンス

外国人研修生の受け入れには、入国管理法、労働法、税法といった多岐にわたる法的コンプライアンスが求められます。

特に、ホワイトカラー職に対する研修では、その滞在が従業員としての長期滞在なのか、それとも短期的な研修目的の滞在なのかによって、企業の法的義務も大きく変わります。しかし、この区別は、多くの場合、曖昧でグレーゾーンが多いのが現状です。

このような理由から、ホワイトカラー向けの研修を行う場合、その目的や研修受け入れの具体的な体制をはっきりと定めることが必須となっています。

入管法の改正

2009年の入国管理法改正により、以前は問題を多く抱えていた外国人研修制度は廃止されました。

その代替として、「技能実習ビザ」が新たに設けられました。これにより、技能実習生を受け入れる企業に対して、労働法に則った適切な雇用契約の締結が強く求められるようになったのです。

その結果、他の種類の就労ビザとの間で明瞭な区別が曖昧になり、特にホワイトカラーの研修に関しては、「人文知識・国際業務」、「技術」、「企業内転勤」、「研修」といった多様な選択肢が考慮されるようになりました。

企業単独での研修

AOTS(財団法人海外技術者研修協会)が事業の一部として外国人研修を取り扱うようになり、企業単独で研修の実施を考えるケースが増えてきました。

しかし、企業が自主的に研修を行う場合、そのすべてが自己責任となります。これは、入管法や労働法、税法といった各種法令の順守はもちろん、労務管理や給与計算、健康管理なども企業側で行う必要があるという意味です。

例えば、研修生が日本での生活に不慣れである場合、企業側が生活支援を提供する必要があります。また、労働時間の管理や安全衛生の確保、給与の適正な支払いなど、日本の労働法を遵守するための対策も必要となります。さらに、技能実習ビザを保有する研修生の在留資格の変更や更新、税金の申告など、法的手続きも企業側が行わなければならない場合があります。

これらは一部の例ですが、企業が外国人研修を単独で行う場合には、研修全体の運営を適切に行うために、多岐にわたる情報を整理し、コンプライアンスに留意しながら研修を進めることが必須となります。これは企業にとって大きな課題であり、研修を成功させるためには十分な準備と理解が求められます。

外国語への対応

あなたの企業が外国人を研修目的で受け入れる場合でも、日本の労働法などが適用されるシチュエーションでは、手続きを行う際には相手が理解できる言語での対応が必要となります。

特に、研修目的で来日する外国人社員の中には、日本語に不慣れな人が多く、このことが「言った言わない」や「理解していない」といった後のトラブルの原因となりやすいです。

たとえば、就業規則や雇用契約、安全衛生に関するガイドラインなどの重要な文書は、研修生が理解できる言語、たとえば英語や研修生の母国語で作成し、提供することが求められます。これにより、労働時間、休暇、給与などの基本的な条件や、安全対策、健康管理などの企業の方針を明確に理解でき、後のトラブルを避けることが可能となります。

また、各種手続きや日常のコミュニケーションにおいても、研修生が理解しやすい形で行うことが重要です。これは研修生の意欲を保つためでもあり、効率的な研修の実施を可能にします。たとえば、研修生とのミーティングでは、必要に応じて通訳を立てる、あるいは重要なメッセージは書面で残すなど、研修生が情報を正確に理解できるように配慮することが求められます。

これらの対応により、研修生が安心して研修を受けられる環境を整え、後のトラブルを防ぐことが可能となります。これは研修生だけでなく、企業自身の成長と成功にも直結する重要な要素であると言えるでしょう。

保険制度へ加入のすゝめ

外国人社員の保険制度への加入は、その受け入れ形態によって大きく異なる要件があるということを認識することが重要です。

もし外国人社員を直接雇用する形態を選択した場合、日本の労働法により雇用保険や社会保険への加入が求められます。これは日本で働くすべての労働者に適用される規定であり、国籍にかかわらず雇用された場合は、必ずこれらの保険に加入する必要があります。

例えば、あなたの企業がソフトウェアエンジニアとしてスキルの高いインド人を直接雇用した場合、その人は日本の社会保険、つまり健康保険と厚生年金に必ず加入しなければなりません。また、雇用保険にも加入する必要があります。

そしてこれらの保険加入は、ビザ申請の際にも入国管理局で確認されることがあります。ビザ申請を行う際、企業は雇用契約や社会保険への加入証明などの各種書類を提出する必要があります。

それゆえに、企業が外国人を雇用する際は、国内法の要件に精通し、適切な手続きを行う必要があります。それは企業が外国人労働力の活用を最大限に引き出し、法的リスクを最小限に抑えるための重要なステップであると言えるでしょう。

最初に決めておくべき「賃金額と支払方法」

外国人の社員を研修目的で受け入れる際、賃金や支払い方法はただ単に人件費を規定するものではなく、研修生のビザ取得や滞在資格の範囲を大きく左右する要素となります。

例えば、ある企業が海外から研修生を招く際に「技術」ビザを考えていたとしましょう。しかし、詳細な計画を立てていく中で研修生への賃金が規定を下回ることが明らかになった場合、そのビザの取得は困難になります。そこから再度ビザ種類を見直し、研修計画を再構築する必要が出てきます。これは時間的な損失だけでなく、ビザ申請やその他の手続きにかかる費用など、経済的な影響も考慮しなければなりません。

また、ビザ取得後に賃金や研修内容を大幅に変更すると、これは不正行為と見なされる可能性があります。例えば、ビザ取得のために一定の賃金を設定したものの、実際にはその半額しか支払っていないというケースです。このような行為が発覚した場合、罰金や将来のビザ申請の拒否など、企業にとって重大な影響を及ぼす可能性があります。

つまり、外国人研修生の受け入れを検討する際には、賃金や支払い方法については初期段階でしっかりと決定し、適切なビザを選択することが重要です。それぞれのビザ種類が求める条件を理解し、適切な賃金設定や研修計画を透明性とコンプライアンスを保ちながら立案することで、スムーズな研修受け入れと成功につながるビジネス展開を実現することができます。

メンタルケアは日本以上にケアレス

新たな環境に身を置く外国人社員は、未知の文化、新しい職場のルールや習慣、そして言語の問題により多大なストレスを感じることがあります。

特に、自己表現が難しい状況下では、社内のささいな出来事がストレスやトラブルの原因となる可能性があります。例えば、日本の会議における黙示的なコミュニケーションや、直接的な意見を抑える文化に馴染めず、意見を上手く伝えられない外国人社員がいます。彼らは自己の意見が理解されず、そのことでストレスを感じるかもしれません。

そこで、企業としては人事・総務部門が主導となり、定期的にミーティングを開いてこれらの問題を共有し、解決策を模索することが重要になります。例えば、月一で「国際スタッフミーティング」を設け、そこで言語の問題、文化的な違和感、仕事の困難さなどについて話し合う時間を持つことで、外国人社員が感じるストレスを軽減し、社内の問題解決につなげることができます。

さらには、専門のケアスタッフを置くことで、一層のサポートを提供することも可能です。これは心理カウンセラーやエンプロイー・アシスタンス・プログラム(EAP)の導入などが考えられます。これらの専門スタッフが定期的にカウンセリングやワークショップを提供することで、外国人社員のメンタルヘルスを支え、より良い職場環境を作り出すことができます。

これらの取り組みは、単に外国人社員のストレスを軽減するだけでなく、異文化間の理解を深め、より多様な視点や意見が社内で共有される環境を作り上げることにもつながります。これは、組織全体の成長に寄与する重要な一歩と言えるでしょう。


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