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挑戦すると想定外のことに出会うから、年齢を理由にあきらめない。白骨温泉 お宿つるや副支配人・大口みきさんインタビュー

「日本の温泉旅館を元気にする」を掲げる温泉旅館再生ベンチャー 女将塾で働くメンバーを紹介していきます。今回は、同社直営施設である白骨温泉 お宿つるやの副支配人・大口みきさんが登場です(記事の内容は2024/04/02取材時点での情報です)。

白骨温泉 お宿つるや副支配人に至るまでの経緯

──女将塾に至るまでの経緯についてお聞かせください。

長いですよ(笑)。バブル時代に大学生になり、流行りの英米文学科を選びましたが、結局留学することもなく。就職を考える頃になって、税理士だった叔母に憧れ、簿記の勉強を始めました。やってみるとおもしろかったため、勉強を続け、新卒で会計事務所に就職しています。

その後、会計士になろうと思い立って会社を辞め、専門学校に入りました。ところが、周りは東大・慶應のような受験戦争を勝ち抜いてきた人たちばかりで、それほど長い時間勉強しなくても、サクサク受かっていくわけです。一方のわたしは、1日10時間勉強しても、短答式は受かったけれども、論文がなかなか受からない。そうこうしているうちに、妊娠が発覚し、会計士の道はあきらめて、出産・子育てをすることにしました。

実家に戻りシングルマザーとして育てる選択をしたのですが、ちょうど父が亡くなるなど、さまざまな出来事が重なりました。子どもが2歳になった頃、当時は外へ出て働くことなど考えられない精神状態だったのですが、友人に「社会復帰しなさい」と強く勧められ、仕事を紹介してもらってまた働き始めます。

その後も、職場で出会ったさまざまな人たちから励ましや紹介を受け、お給料が上がったり、資格を活かす部署へ異動したり、正社員に昇格したりとキャリアアップを重ねていきました。個人的には出世意欲みたいなものはないのですが、「この子を自分の稼いだお金だけで大学まで出す」との一心で、約20年間がむしゃらに働いてきました。

いちばん長かったのは、介護関連の会社の社長秘書の仕事です。もともとは経理として入る予定だったのですが、入社当日に「大口さん、今日から社長室ね」と言われ、未経験で社長秘書をやることになりました。わたしが来るまで、秘書のポジションも社長室もなかったのに、突然作られたと聞いています。裸一貫でやってきたモーレツ創業社長に常に同行して、毎日バタバタ走り回っていました。

娘の大学卒業が近づいてきた頃、社長秘書の仕事について「やりきった」と思えました。40代で何度か病気を経験したこともあり、別の仕事に就こうと考え始めたのです。頭に浮かんだことのひとつが、温泉旅館で働くことでした。社長秘書をしていた会社の社員旅行は、いつも同じ温泉旅館でした。社員旅行の仕切りはわたしの担当だったことから、旅館の方たちとの交流する機会も多く、「うちのスタッフと旅館で働く皆さんとで、交換研修をしてみたらおもしろいかもしれない」とアイデアが浮かぶくらい密接な関係ができていました。自然に、自分がその温泉旅館で働くことも思い浮かべたりしていたのです。

年齢的にも、おそらくこれが最後の就職になる。それなら、やりたいことをやらなければと思いました。とはいえ未経験ですから、どうしたら温泉旅館で働けるのか、インターネットで検索するなど調べ続けていました。そのうちに女将塾にたどりつき、複数施設を直営していると知りました。ある施設でうまくいかなくとも、別の施設に異動してやり直せるチャンスがもらえる会社かもしれないと考え、それなら思い切って挑戦してみようと、女将塾に応募することにしました。

白骨温泉は最初から第一志望でした。20代の時、同じ年に二度泊まりに行く機会があり、強く印象に残っていたからです。仲居さんになりたかったのですが、年齢的には仲居さんをまとめるマネージャーのような仕事は任される可能性があるかと考え、管理職の求人に応募しています。

20代の頃の大口さん@白骨温泉
20代の頃の大口さん@白骨温泉・その2

──女将塾に至るまで、さまざまなことがあったんですね。そして希望どおり白骨温泉のお宿つるやに配属、サービススタッフから始まったわけですが、実際に働いてみていかがでしたか?

自分で言うのはおこがましいかもしれないけれど、わたしには合っている仕事だと思います。お客様が喜んでくださるとうれしいし、なにかお困りごとがあればなんとかして解決したいと思う。自分が行動することでそれらが実現できる、こぢんまりした規模の旅館で働くのが、合っているなと思うんです。

娘を育てているときには、より稼ぐためにいつも「もっと上」を目指して、正直なところ、自分の器を超えた仕事をやらせてもらったこともあると思います。でも今は、ただただ、お客様のためを考えて行動できるのが楽しいですね。

──白骨温泉は本当に素晴らしいですが、山奥にある秘境なのは確かです。20代の頃泊まって印象に残ったとはいえ、第一志望に選ぶのはめずらしいパターンかと。

当時の支配人にも、エリア部長にも、面接の際に「本当に白骨が良いの?」と何度も念押しされました。事前に、現地にも見学に行かせてもらいましたし。それでもわたしの気持ちは変わらず、「白骨温泉に行きたいです」と言い続けました。だって本当に白骨温泉が好きなんですもの。

お宿つるやでの日々は、「今日はうまくいったな」と納得できる日はまだ1日もないけれど、「もう嫌だ、帰りたい」と思ったこともないんです。クレームをいただこうが、肉体的にヘロヘロになろうが、白骨温泉のつるやに来られて本当に良かったと思っています。

──そして、入社から約半年で副支配人になります。

介護関連の会社に入社した当日に「大口さん、今日から社長室ね」と言われたことを思い出しました。「また来たか」と。光栄だと思いましたし、うれしかったですよ。わたしのように未経験でもチャンスをいただけるのなら、採用していただいたご恩もあるし、期待に応えたいと思いました。そこから毎日、怒涛の日々が続きましたけれど。

実は、転職を考えていた頃に、キャリアコンサルタントの資格を取得して独立することも考えていたんです。自分の経験を活かして、女性、とくにシングルマザーの方に、その人に合った仕事や働きかたがアドバイスできたらお役に立てるかなと思っていました。

結局のところ、自分は経営者には向いていないと考え就職しているのですが、副支配人という役職をいただいた時に、これからお宿つるやに配属される若いスタッフを育成したり、その後のキャリアをアドバイスしたりできる立場なのかなとも考えました。

お客様をおもてなしする際に、その場で働いている人たちのコンディションは伝わるものだと思います。また、未知の出来事が起きた時に、臨機応変に自分で考え対応できるようになるには、それぞれの人にあった形で水をあげて、育てなければいけないですよね。副支配人が担うべきは、その場で働くスタッフのコンディションを整え、育成していくことなのではないでしょうか。

わたし自身は、今は支配人(女将)を目指して頑張っていますが、将来的には若い人がどんどんとこの世界でリーダーになってもらい、若い世代を支えていきたいと思っています。

白骨温泉 お宿つるや副支配人のプライベート

──お休みの日は何をしているんですか?

長野をあちこち探検して、温泉旅館に泊まりに行きます。もともと好きでしたが、今はまったく別の見方ができるので、サービススタッフの動きやお風呂の様子など、チェックするわけではなく見ているだけで楽しいんです。

車の運転は苦手だったんですが、白骨温泉に来てからはなくてはならないものになりました。今では、名古屋までの往復も苦ではありません。副支配人になった直後に、新車にもしたんですよ。

つるやのスタッフと飛騨高山にお出掛け

──女将塾は自分の足で走るランニングが好きな人も多いのですが、大口さんはいかがですか?

走るわけではないのですが、100kmウォークには出たことがあります。制限時間内に100km歩くというものです。名古屋の女性経営者の友人がいて、たまにそういう過酷な目標を掲げて、自分を追い込むのが好きなようです。「時間が空いているなら一緒に歩こうか」と誘われ、トレーニングをして臨んだのですが、残念ながら91キロでリタイアしてしまいました。あと9キロと思うかもしれませんが、本当に、足が前に出なくなるんです。

ほかにも、「SPARTAN RACE(スパルタンレース)」に参加したこともあります。過酷な障害物をチームでクリアしていくレースです。介護の関連の会社にいたときに、ある部署の業績が悪くなって、どんどん縮小していく一方だったんですね。その部署の若手スタッフが「部署のチーム力を高めるために、スパルタンレースに出たい」と言い出し、さすがにちょっと……と思ったのですが、熱意に屈する形で、参加することにしました。

スパルタンレースで障害物に取り組む大口さん
スパルタンレースで障害物に取り組む大口さん・その2

チームのだれかひとりでもクリアできないと、連帯責任になるのが特徴です。たしかにチーム力は高まると思いますが……。完走した人だけがもらえるTシャツや横断幕も手に入れましたが、もう二度と出ないと決めています。でも、ちょっと無謀な挑戦が好きなんでしょうね。そうやって生きてきましたから。

スパルタンレース完走Tシャツなど

白骨温泉 お宿つるや副支配人からのメッセージ

──これから一緒に働くことになるかもしれない人たちにメッセージをお願いします。

挑戦して本当に良かったと思っています。子どもが成人したとか、何らかの責任を果たし、その後の人生は好きなように生きて良い立場にあって、ずっとやってみたかったことがあるなら、年齢を理由にあきらめることはないと思います。たとえ途中でやめることになっても、挑戦してみると、自分で思いもしなかった展開が起きて、次につながっていきますから。

娘からは、やりたいことをやっている今のわたしは好きだと言ってもらえます。むしろ、娘のためだと言って、自分の器を超えてガッツリ働いていた頃のわたしは、見ていてつらかったと。娘からのその言葉が、何よりうれしいですね。

赤ちゃんの頃の娘さんと
大人になった娘さんと温泉旅館
白骨温泉 お宿つるや前にて

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