雪国

雪が ちらついていた

少し、寝ていたようで
涙か 霞か 見上げると こちらに落ちてくる雪が 散り行く春を思い出した....

少し、まぶたが ぬくい
これが 欠伸か 涙かは どうでもよかったし

この気持ちに 名前があったかすら 忘れた。



いま すこしだけ この世界にいなかった


鈍色の空 海は色が濃く 波は刃物のように白かった

重めの 波の音が 頭を洗う 脳を占める

人格が 解け、溶けていく

それほどに 静かで 何もない町

おかげで、取り残された 自分の気持ちと
向き合わざるを得なかった.....



刺すような風に 少しばかり感覚を無くしていた足を叩いてみた。

何気なしに。



宿から 少し 海沿いを歩き 点滅信号の十字路沿いに個人商店が あった


タバコの販促ステッカーは色褪せ
窓は少し曇り 赤い誰も廻さないガシャポンが ガラス戸の奥内に見えていた



『...ごめん くださぁい 』と二度目を言おうとした時に

駄菓子、カップ麺 別の島には 洗剤が置かれた 棚の奥から

『は〜い』と 声がした

ガラス張りの襖が キュイ っと軋む

その奥から ヤカンの湿気と 石油ストーブの香りがしてきた

つっかけ、を土間に 擦る音と ともに 老婆の店主が出て来た....

『すいません、すこし 眠っておりまして お声で 目が覚めました』

『それは こちらこそ、お昼寝を邪魔してしまい申し訳ございません』

『いえいえ、毎年では ありますが こうも、冷え込むと コタツが気持ちよくてですねぇ ウトウトしてました なにか?お買物ですか?』


と、すこし 照れ笑いを隠しきれないような会話と 物色


『 泊まってる 宿が近くて 少し 散策をしてまして....』

『あらぁ、県外... どちらからで?』


『南の方から ですね 』

『それは それは 私たちからしたら日常ですが お寒いでしょう 大丈夫ですか?』

『もう、寒い の感覚が更新されましたよ まるで、別の惑星に来たかのような気分です。ですが、その環境化でしか見れない景色は 厳しくも美しく 正直に、来てみてよかったなぁ とも思います。』

『そうですかぁ? 何もない町ですよ? 年々 人が離れていく 店をたたみ、営業を終わらせる お店も多くて 車が無いと堪える距離に コンビニエンスストアが幾つかあるくらいで これでも10年くらい前は まだ、お店もあったんですけどね 淋しいもんです お客様は わざわざ 南からとの事ですが.... 観光?でしょうか? こんな町に。』

老婆が 店の壁際に 備え付けられた テーブルとソファに どうですか?こちらに と言った感じで 座るように促す。

それを、軽く会釈し 利用させてもらう
カーペット状の座布団が置かれた座面に
少し懐かしい気持ちになりながら 座らせてもらう。


『目的は、特に無いんですが 見た事ない景色を見てみたいと思いまして 下調べも、ろくにしないまま来てしまいまして いやぁ、大事ですね... 下調べ 笑』

気づくと、お茶まで 用意して頂き 会話は弾む

亡くなった旦那さんの話 故郷には、家も残ってない話 夏に会えた孫の話 来月、入院もあり 店を閉めるか考えてる話....

忘れ物だった吸わないタバコの火を探すつもりで、お邪魔もした面もあった為 面食らってしまいつつも そうだよなぁ と妙に納得してしまった。

『ライターは もう無いのですが あ、そうだ ストーブに使うマッチがあります。』

そう言って 奥に戻り また、戻ってきた。

『タバコ、吸いますか?』

『それでは、お言葉に 甘えて』

ソフトパッケージを、破り 残り1本になるのを確かめたら 箱を潰した。

老婆が、2、3回 擦ったことで点火されたマッチを 手を添えて こちらに向けてくれた。

隙間風で 消えないように

こちらも 両の手で その気持ちが消えないように
手を覆い フィルターを、吸った....

.
..
...

噎せる形で、吸ったタバコは 久々すぎて
咳込んだ


吐き出す煙が バニラの香りを 立ち登らせていた

『大丈夫ですか?』

老婆が心配する。

『久々なもんで、噎せてしまいました 大丈夫です  火、ありがとうございます』


『懐かしい香りですね』

『これね、忘れ物だったんですよ 知り合いの 今回、旅するにあたり 気づいたら 持ってきてました と言うより、ジャケットに 入ってたんですがね』


『あら、じゃ普段は 煙草は吸わない?』

『吸いませんねぇ 随分前は吸ってたんですが どれくらいぶりだろ 噎せてしまいました。』


老婆が 窓の向こうの景色に 目をやる。

『忘れ物ですかぁ』

『ええ、知り合いのね 腕白なやつでした。』


老婆が 笑う

『そうですか。』

『そうなんです。』

一頻り 静かになった後 古めかしい時計の時報がなる。

その後 なぜか、二人で笑顔になり バニラの香りが 立ち込めた店内には 甘い空気が漂っていた.....

ほどなくして 頂いた お茶を飲み干した。


『それじゃ、また お身体に気をつけて 』

『ええ、それじゃ また ありがとうございました。楽しかったです。』


引き戸を開け、閉めた

少し、空を見た 先ほどと 表情は変わらない


『お元気で』

と、無言に唱えて


雪景色の中を 歩いた。




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