【極超短編小説】旅の途中
この時期、陽が早く傾き始める。今日もずいぶんと歩いた。俺は旅の途中だった。
背中の荷物が肩に食い込む。少し休もうと思って、前方に見える高い塔の下へ向かった。
そこには先客がいた。俺よりもずっと大きな男が、地面に腰を下ろし、塔にもたれていた。男の目はぼんやりとしていた。うつむいて、疲れているようだった。
「やあ、こんにちは」
俺はその男に声をかけた。
「こんにちは」
男は少し驚いたように答えた。
「そういうわけで、俺の旅も終わりが近い……いや、もうすぐにでも終わるかもしれない。さあ、今度は君のことを聞かせてくれないか?」
俺は男に向かって言った。
「私は旅に出たばかりだ。」
と男は私を見て微笑んだ。
「どこに行くんだい?」
「いろんなところさ。世界中を旅したい。どこにでも自由に行きたい。いろんな人に会って、いろんなものを食べて、見たことのない景色を見たい」
男はキラキラと目を輝かせて言った。
辺りが少し薄暗くなった頃、俺たちに向かって来る人影があった。その人影は表情が分かるくらいまで近づくと、急に歩を早めた。
「おじいちゃん!探したのよ。こんなところにいたのね」
声の主は若い女だった。
「あんた、誰だね?」
大きな男は首を傾げて言った。
「もう、おじいちゃんったら、靴も履かないで急にいなくなっちゃったから、心配したのよ。あら?この子は誰?」
若い女は俺の方を振り向いて言った。
「俺は……」
「ボク、何歳?お家はどこ?」
若い女は男の腕を掴んだまま、俺の目線までしゃがみこんで尋ねた。
俺が何と答えようか思案していると、遠くから聞き覚えのある声がした。
「あなた、ランドセル背負ったまま、こんなところまで来てたの!」
俺のママだった。
俺の旅は、俺の今日の旅は終わった。
男は孫娘に、俺はママに手を引っ張られながら、お互い振り返った。
「また、いつか」
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