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【極超短編小説】裏:序幕

「『しばらくの間、お休みします』だって……」
 ドア1枚を隔てて、外から若い女の寂しそうな声が聞こえた。どこかで聞いた声。
 僕はその声を聞いて、ドアから離れて奥にいればよかったと思った。



 昨夜、ベッドで毛布をかぶり、右半身を下にして横になり眠りについた。朝日から逃げる僕の前に、夜を纏った鉄塔が屹立する夢を見た。
 夜中、少し汗ばんでぼんやりと目が覚めると、彼女が目の前に僕を見つめて横になっていた。彼女は僕の名前を呼び、涙を流した。その涙の意味は、あまりに多すぎて、僕はまた目を閉じるしかなかった。



 世界はバラバラにされて、人と人は切り離され、その関係性は完全に絶たれたはずだ。それなのにどうだ?やっぱり誰かが誰かを求める。でも、求めても求めても、それはまるで金網越しに写真を撮っているようだ。


 「私は薬を飲むのやめたよ」
 再びドアの向こうから若い女の声がした。
 「そうか。君はやめたのか……」
 連れと思しき男の声。少しの喜びと、戸惑いの混じった声。聞き覚えがある。



 今朝、僕が目を覚ますと彼女はいつも通り、ガラスのコップに入った水と錠剤の入ったガラスの小瓶を持ってきてくれた。
 「これでしょ……」
 彼女の声はどこまでも僕に優しい。しかし今日のその声は、いつも以上にとても悲しげで、涙が滲んでいるようだった。そして、その声はどこかで聞いた声だと僕は気づく。「私は薬を飲むのやめたよ」とドアの外で聞こえた声だ。
 「今日から飲まないよ……いや、とりあえず今日は飲まないでおくよ」
 僕は言い訳の予防線を張ったけど、ようやく彼女のくれたきっかけにすがりついた。



 コン、コン、コン。
 ドアをノックする音がした。
 「どんな物語にも終わりはないんだぜ」
 ドアの向こうから男の声がした。 僕の声だった。

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