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【極超短編小説】二つの本当

 彼女と一刻も早く結婚して残された短い人生を有意義に過ごしたい。
 今夜、彼女と初めて出会ったこのレストランで、プロポーズするつもりだ。
 僕の背広の内ポケットには、指輪と婚姻届が入っている。

 
 彼女が店に入ってきた。僕を見つけて、キリッとした表情でこっちに歩いてくる。
 なんて美しいんだろう。人によっては、きつい顔立ちと感じるかもしれないけど、僕にはそれがすごく知的で魅力的に思える。実際、彼女は頭が良くていつも冷静だ。


 「あなた、どうして嘘をついていたの?」
 彼女は僕の向かいに座ると、すぐさま言った。
 「ん?何のこと?」
 僕は聞き返した。
 「とぼけないで!何から何までよ!」
 と彼女は冷静な口調で言ったが、顔は紅潮していた。
 「悪いと思ったけど、あなたの身辺調査をしたのよ」
 彼女は僕から目をそらした。
 「そうか、調べたのか……」
 「あなたはこの世に存在しない人だった。名前も生年月日も、働いている会社も。あなたが言っていたのは全部嘘だったのね」
 彼女は再び僕を睨みつけた。
 「隠しておかなければならなかったんだ。全てを……」
 「なぜ?どうして嘘をついていたの?」
 彼女はテーブルに両手をついて、身を乗り出した。
 「僕はね、ある機関で働いている。いや、働いていたんだ。決して表に出てはいけない、存在さえ知られてはいけない機関でね。だからそこで働く人間は存在しない事になっているんだ」
 僕は彼女の目を見つめながら、彼女だけに聞こえるよう声を落として言った。
 「な、何、それ?」
 と言って彼女は僕を初めて見るかのように目を丸くした。
 「でも、僕は今日、その機関を辞めてきたんだ。ある成果、いやある結論が出たから……」
 僕はそう言って、一呼吸置こうと思った。店の窓から外に目をやると、夜空の遠くに鉄塔の黒いシルエットが見えた。鉄塔の先端にはいつもと同じように赤黄色のライトが明滅していた。
 「ちょっと待って、どういうこと?」
 彼女はいつもの冷静さを失って言った。
 「僕のことを愛しているかい?」
 僕は彼女の手を握りながら尋ねた。 
 「愛して……、分からない。あなたのこと、何も知らないの。何を信じればいいの?お願い、何か本当のことを教えてよ」 
 彼女は首を振りながら言った。目から涙がこぼれていた。
 

 
 「……分かった。二つだけ本当のことを話そう。一つ目は僕は君を誰よりも愛していること」
 僕は彼女の目を見つめて言った。
 「もう一つは?」
 彼女は穏やかな表情で尋ねた。
 「1週間後、この町は灰になるんだ」

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