秋山わたり

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  • 呪いの魔法

    「呪いの魔法」各話です。 一番上の記事にまとめました。 4話以降の話はそこに載ってます。

  • 金銀花

    「金銀花」の各話です。

  • 崩御の王冠

    「崩御の王冠」各話まとめています。

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金銀花 第1話

幼い頃に近くで火事があった。燃え盛る建物の2階に人影が見えた。炎の向こうで少女が一人、前に歩み出る。そして、空に向かって何かを投げ出した。弧を描いて落ちていくそれが、炎の光に照らされて鈍く輝く。私は、一歩、前に出ると地を蹴って、それを両手で掴んだ。 「ママ、私将来は洋ちゃんと結婚する!」 幼い少女は頭一つ分大きな少年の手を握って高らかに宣言した。 「あら。」 「ぶっ!」 縁側に腰掛けて、庭で遊ぶ子供達を見ていた少女の母親は頬に手を当てて驚く。後ろで茶を飲んでいた父親は口に含

    • 呪いの魔法

      第1話 フローリストの亡霊 石畳を蹴って元気に広間を走り回る子どもたちに近づく影が一つあった。ふらふらとおぼつかない足取りで歩み寄る。そして、一人の子供に目をつけると呟いた。 「やっと、見つけた・・・。」 太陽が照りつける昼前、立ち並ぶ家の一つ、壁に蔦を絡ませた少し古びた古家から一人の女性が出てきた。 この国によく見られる薄茶色の髪を一つにまとめ上げ、太陽の光が当たり、輝く若葉色の瞳を窄める。 「眩しっ。」 「やぁ、マリアンナ。いつも通り朝は動くのが遅いね。」 向かい

      • 呪いの魔法 第4話

        まだ太陽が真上に登っている正午、マリアンナは落ち葉を踏みしめて、坂道を登っていた。息が上がり、日頃の運動不足が悔やまれる。 視界が開けて、大きな屋敷が見えた。裏手に回ると、見事な庭が広がっていた。 「ここになんの用だ。」 男の低い声が後ろから聞こえて振り返る。 そこに、長い髪に枯れ木のような細い体の男が全身を黒く包んで立っていた。 「久しぶり、ハンネス。」 ハンネスと呼ばれた男はフン、と鼻から息を出すとマリアンナの隣を通って庭に向かう。 「また、何か厄介なことでも起きたのか?

        • 呪いの魔法 あらすじ

          この世界には魔法を使える人間と使えない人間が存在する。 ある町の一角で薬を作って生計を立てているマリアンナ・ユリは近所の悪ガキであるユッカ・ライラックの腕に呪いが刻まれていることに気付く。それを見て、マリアンナは呪いを解くために動くのだった。 ユッカの呪いが解決した後、家の前に赤ん坊が置かれていることに気付く。その赤ん坊には体中に呪いが刻まれていた。マリアンナは赤ん坊を保護することにするが・・・。 《魔女》と呼ばれる女性と、体中に呪いが刻まれた少年の物語。

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        金銀花 第1話

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        • 呪いの魔法
          6本
        • 金銀花
          4本
        • 崩御の王冠
          4本

        記事

          呪いの魔法 第3話

          黒く艶のある長い髪を揺らして、女はベッドに眠る男に近付いた。 ベッドに片手を着くと、落ちる髪を押さえて、男の額に顔を近付ける。そして、浅く口付けした。 女は起き上がって寝息を立てる男を見つめる。それから、踵を返して部屋を後にした。 部屋の脚の低い机の上には一枚の手紙が置かれていた。 小さな体が廊下を走り抜けていく。部屋の扉を開けて入ると、ベッドで寝ている人物の体を揺すった。 「マリィ!朝だよ!!」 「ん〜・・・。」 マリアンナは寝ぼけた声で返事する。が、起きないマリアンナに

          呪いの魔法 第3話

          呪いの魔法 第2話

          「マリ!暇か!?」 近所の悪ガキ、ことユッカが欠けた歯を覗かせて元気良く扉を開く。 「・・・あれ?」 が、店には誰もおらず静かに埃が舞っているだけだった。 「マリー? 出かけてんのかな。」 頭を搔いて、扉の外、市場の方を見る。 「あれ、ユッカ?」 「!?」 驚いてもう一度店の中に目を向けると、奥の部屋と店の中を区切る壁に空いた空間に下げられた布をめくって、この店の主人であるマリアンナが顔を覗かせていた。 「・・・どうした?その顔。」 ユッカはマリアンナの顔を見て目を見開く。

          呪いの魔法 第2話

          呪いの魔法 第1話

          石畳を蹴って元気に広間を走り回る子どもたちに近づく影が一つあった。ふらふらとおぼつかない足取りで歩み寄る。そして、一人の子供に目をつけると呟いた。 「やっと、見つけた・・・。」 太陽が照りつける昼前、立ち並ぶ家の一つ、壁に蔦を絡ませた少し古びた古家から一人の女性が出てきた。 この国によく見られる薄茶色の髪を一つにまとめ上げ、太陽の光が当たり、輝く若葉色の瞳を窄める。 「眩しっ。」 「やぁ、マリアンナ。いつも通り朝は動くのが遅いね。」 向かいの道から洗濯籠を持ったふくよかな女

          呪いの魔法 第1話

          金銀花 あらすじ

          幼い頃に近くで火事があった。そこまで大きなものではなかったが、死者が10人も出たため当時はとても騒がれた。その火事を目の当たりにした海は2階から投げ捨てられたブレスレットを掴む。 それから10年後、14歳になった海は家族と変わらない日々を送っていた。 幼馴染で兄の大和の同級生である洋太は2歳年上の高校生。いつも通りの日を過ごした次の日、大和を迎えに家へ行くと、縁側をはく海の姿があった。話しかけた洋太に帰ってきたのは冷たい一言であった。 「どちら様ですか?」

          金銀花 あらすじ

          金銀花 第3話

          満点の星が瞬く空の下、海は今まで見せたことのないような静かな微笑みを携えて、ゆっくりと口を開いた。 「それは、まだ言えません。」 「・・・は?」 思ってもいない言葉に場にそぐわぬ間抜けた声が出る。 「ごめんなさい、私達もまだ余りよくわかってなくて・・・。」 海は申し訳無さそうに下を向く。 「ただ、貴方が知ってる、“海”ではないことは確かです。」 それを聞いて洋太はため息を吐いた。 「・・・他の家族は?」 「同じです。」 予想通りの答えに別段驚かない。 「原因は。」 「分かりま

          金銀花 第3話

          金銀花 第2話

          「どちら様ですか?」 その一言に体から血の気が引くのを感じる。固まって見ていると、海は間を置いてから、思い出したように慌てだした。 「なっ、な~んて!そんな訳ないですよね!え〜と・・・。」 だが、その後は言葉が続かず頭の後ろに手を当てたまま固まる。 「もしかして、洋太君?」 聞き馴染みのある声に反射的に顔を向けると、こちらを伺うように見る、海の母である妙子の姿が見えた。 「やっぱり、洋太君よね。」 妙子は安心したように確かめる。 「どうぞ、上がって待ってて。」 その、どこか他

          金銀花 第2話

          崩御の王冠 あらすじ

          ブランシール帝国の皇女ヴィヴレはわがままで自分勝手なことで有名であった。デビュタントでは辺境伯家の令嬢であるレナータに理不尽な怒りをぶつけ、騒ぎを起こす。しかし、その日の夜に夢の中で未来での出来事を思い出す。その日から、人が変わったように優しく、思慮深い皇女へと変わった。 その日からヴィヴレは未来を変えるために動き出す。周りはヴィヴレの変化に戸惑いながらも喜んだ。そして、誰もがヴィヴレを将来の国の担い手として期待するようになる。ただ、一人を除いては。変わった皇女を変わらず嫌い

          崩御の王冠 あらすじ

          崩御の王冠 第3話

          窓から朝日がさす部屋でヴィヴレは鏡の前に座り侍女に朝の支度をしてもらっていた。 「これからの予定、わかる?」 もう一人の侍女に尋ねる。 「はい。今日はいつも通り朝食後に授業があり、昼食後は自由です。ただ、昼食後すぐに一月後にある隣国との会談に関して陛下からお話があるそうです。」 尋ねられた侍女は淀みなく答える。 (隣国との会談に関するってことはあの話ね。) 侍女にお礼を言いながらヴィヴレは思う。 昼食が終わるとそのまま父の執務室に向かう。戸を叩いて部屋に入ると、椅子に座る父

          崩御の王冠 第3話

          崩御の王冠 第2話

          自分のデビュタントから2年が経ったブランシール帝国の皇女ヴィヴレ・シピー・ドミナシオンは今年に12歳を迎えた貴族の子息子女達のためのデビュタントに皇帝の娘として出席していた。玉座の間で開かれる国主催のパーティーでヴィヴレは父と母とともに上座の椅子に座っている。皇帝への貴族の子供からの挨拶が行われているのだ。ヴィヴレは皇帝である父への挨拶の後に自分に向けられる言葉に微笑んで応える。 (これで最後かな。) 今しがた去っていった貴族の後ろを見やって思う。 椅子の背に体重を預けると息

          崩御の王冠 第2話

          崩御の王冠 第1話

          はるか昔、ブランシール帝国は3つの国に分かれていた。そして長い間、国同士で領土を巡り争いが続いていた。そんな中、神からお告げを受けた初代皇帝は神の使徒との間に誓いを立てる。初代皇帝はこの国の平和と平等を約束し、代わりに神の使徒に国の未来を託した。そして、神の使徒の力を借りて国々の争いを次々とおさめ、三国を一つにまとめ上げ現在のブランシール帝国を建国したのである。最後に使徒は初代皇帝に告げた。この先も約束を果たすように、と。約束が破られたその時は・・・ ゆうに奥行き60メート

          崩御の王冠 第1話