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『ぼくが生きてる、ふたつの世界』

仕事で試写を見た。感動して、試写サイトに感想を送ったけれど、せっかくだから自分のnoteにも残しておくことにします。映画評です。(ネタバレありあり)



冒頭から圧倒されました。
主人公の五十嵐大が誕生し、初めて家に帰って来た日に交わされる祖父母や親戚たちの率直すぎる物言いのなんと残酷なことでしょう。ところが、聞こえない夫婦には、そんな言葉はいっさい届かない。ふたりだけの無垢な幸せのなかに居続けているのです。
ひとつの部屋で繰り広げられるこのふたつの世界がとても印象的で、聞こえない世界というものを初めて実感できました。 

この映画では、生まれつき聞こえない人たちの日常を非常にリアルに、繊細に描いているので、聞こえる世界の私たちに対して感じている壁や無理解への嘆息までがひしひしと伝わってきます。ふたつの世界を同時に生きる大(吉沢亮)を通して、健聴者が「よかれ」と思ってすることの傲慢や押しつけ、偏見、勝手な思い込みがよくわかります。

目黒蓮が演じた中途失聴の青年とそれを取り巻く周囲の人々の日常を描いたドラマ『イノセント』が話題になりましたが、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』も負けず劣らず、いや、それ以上に丁寧で、冷静かつ客観的に描かれたろう者の世界は秀逸です。

その狭間で悩み、傷つくCODAの 青年を吉沢亮が見事に演じきっていました。手話のことはわかりませんが、生れたときから両親の手話をみて育ったという設定どおりの、自然で流れるような手話も見事でした。

そして、ろうの女優・忍足亜希子の美しいこと。出産したばかりという20代の役もまさに20代という若々しさにビックリです。さらには、クライマックスでもある彼女の声の演技。これにはほんとうに圧倒されます。魂が揺さぶられました。

昨今の映画やドラマ、アニメもそうですが、刺激的かつ暴力的なシーンに流れるばかりに、人間の感情のやりとりは理屈っぽく説明的で、リアルな感情の伴わない作品が多くなった気がしていました。でも、この作品や『イノセント』のように、繊細な感情の機微が描かれた作品も再び次々と出てき始めた気がして、ホッとしています。日本の映画って、こうじゃなきゃ!
是非、観ていただきたい映画です。




⭐️9月22日追加
20日の公開日に、NHKのあさイチにて映画が紹介されていました。
番組中、映画のシーンがいくつか紹介されたので、写真を撮ってところどころに挿入。冒頭のタイトル画面で使わせていただいたイラストも変更します。
女性の二面性をも感じる絵で、映画のふたつの世界とは違うのですが、印象的だったのでタイトルならと使わせていただいていました。Tome館長さん、ありがとうございました。


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