見出し画像

ヴィッセル神戸24シーズンの補強動向と戦力分析

1月10日、ヴィッセル神戸は新シーズンへ向けてチームを始動した。前年に悲願のリーグタイトルを獲得したヴィッセル。24年シーズンへ向けてクラブはリーグとACLを並行して戦う過密日程に備えるべく、積極的な補強を進めた。

始動後も移籍市場は開いているため選手の動きはまだ予想されるが、今回は本稿執筆時点(2024年1月10日)での補強動向をまとめた。各ポジション別の戦力分析と合わせて、ヴィッセル神戸のオフの動きをふり返ってみたい。


「2チーム分の編成」を実現したヴィッセル

「同レベルの2チーム分の編成が必要になる」。シーズン終了直後、新シーズンへ向けての編成について問われ永井SDが語った言葉だ。

2024年シーズン、ヴィッセルは20クラブに増加するJ1リーグに加え、ACLを戦う過密日程に挑むことになる。過去2度ACLへ参戦しているヴィッセルだが、2020年は8位→14位、2022年は3位→13位と、いずれも前シーズンから大きく順位を下げた。とくに22年シーズンは泥沼の残留争いに巻き込まれ、リーグ戦でのコンディションを優先したクラブは、ACLのラウンド8で主力選手を温存。アジア制覇を掲げるクラブのビジョンと矛盾する決断は、チーム内外で大きな波紋を呼んだ。

今オフのクラブの動きからは、過去のアジアへの挑戦から学び、失敗を繰り返さないという並々ならぬ覚悟が伝わってくる。クラブは選手層に厚みを加えるべく、レンタルバック2名を含め12名の選手を獲得。とくに注目すべきはその顔触れだ。

川崎の次期エースと期待された若手FWの宮代。鹿島の右SBでレギュラーを務めた広瀬。吉田監督の秘蔵っ子で長崎の中盤を支えたハードワーカー鍬先。浦和からは古巣復帰となるCB岩波。GKにも横浜FMからオビ・パウエル、千葉からベテラン新井を獲得。各ポジションに満遍なく実力者を迎え入れ、選手層は厚みを増した。新卒にも有望選手を加えており、神戸ユース出身で筑波大を経て加入するMFの山内翔は、パリ五輪候補にも名を連ねる世代屈指のプレイメーカーだ。

そして1月9日にはかねてから噂に挙がっていた元日本代表の井手口をセルティックから完全移籍で獲得。昨季福岡でプレーした井手口は、ルヴァン杯初制覇に大きく貢献。高いインテンシティと推進力のあるプレーぶりは、ヴィッセルの戦術にぴったりとフィットする。今オフの目玉とも呼べる補強となった。

その一方でクラブは余剰人員の整理も積極的に進めた。昨夏に加入したマタやヴェーチェイをはじめ、出場機会が限られていた8名を放出。生え抜きの若手5名はレンタル移籍に出し、現状のスカッドはほぼ無駄のない人員を揃えた。主力級の流出はエミレーツ(UAE)に移籍した大﨑のみ。とはいえ大﨑が務めたCBとボランチのポジションには岩波、井手口、鍬崎
らを加えており、昨季怪我で稼働できなかった菊池もCBのポジションで復帰が見込まれる。影響は最小限だ。

手薄なポジションをしっかりと見極め「名より実をとる」補強を進めたヴィッセル。永井SDが語った2チーム分の編成を見事に実現してみせた。

チームのベースアップを図るための編成

これだけ大胆な人員整理に取り組んだのはチームのベースアップを図る狙いもある。

昨季主力メンバーの活躍が光ったヴィッセルだが、シーズンを通してピッチに立ち続けたメンバーは固定される傾向にあった。昨季の躍進を支えたハイプレス戦術は、ピッチ上で一箇所でも綻びが生まれると、連鎖的に守備が後手に回るリスクをはらんでいる。必然的にスタメンに名を連ねるプレイヤーには一定水準の強度が求められ、起用されるメンバーも限られた。

もちろんカップ戦やトレーニングマッチを通して、チームのベースアップを図る取り組みは続けていた。しかし、なかなか主力として起用できる「ラージグループ」を広げきれず、主力選手のポリバレント性に助けられた部分も大きかった。

今季もハイプレスをベースとして戦うと予想されるが、主力メンバーに30代の選手も多く、昨季の「勤続疲労」も考慮しなければならない。こうした要素を並べれば、大胆な人員整理でベースアップを図った意図がより明確に見えてくる。

さて、シーズン始動日に発表されたスカッドリストにはリンコンと齊藤未月の名前がなかった。前者は昨季出場機会が激減しており、移籍を含め交渉中と予想する。齊藤は昨季湘南から期限付き移籍で加入。8月の大怪我で現在リハビリ中だが、クラブは完全移籍を含め齊藤の復帰を全面的にサポートする姿勢を表明している。今季どのような形で契約を結ぶのか、クラブからのリリースを待ちたい。

仮にリンコンが移籍となればヴィッセルの外国籍枠はパトリッキとトゥーレルの2枠。最大5人までベンチ入りできる(チームへの登録は制限なし)ため、残り3枠が空席のままだ。Jリーグの移籍市場はまだ動いており、今後外国籍選手を獲得する可能性はある。とはいえ、ほぼすべてのポジションを満遍なく補強できた現状を踏まえれば、よほど計算できる選手でなければ獲得は見送るはずだ。

ただ、大迫のバックアッパーは依然として不在のまま。このポジションに関しては引き続きリサーチを続けてほしい。

ヴィッセル神戸2024 ポジション別戦力分析

ここからは各ポジション別に詳しく戦力を分析していきたい。

2024年ヴィッセル神戸スカッド(1月10日版)

GK:正GKの前川を軸にオビと新井が2ndGKを争う

各ポジションの中でもっとも動きが大きかったのがGKだ。昨年在籍した4人のうち3人がチームを去り、新たに3人の選手を迎え入れた。

正GKは前川が有力。昨季レギュラーポジションを掴むと、シーズンを通してハイパフォーマンスを披露。課題だったプレーの安定感も改善され、日本代表にも返り咲いた。始動日にはアジア杯に招集されており不在だが、今季も彼がGKの軸となる。

2ndGK争いは、横浜FMから加入したオビ・パウエルと千葉から加入した新井の争い。オビ・パウエルは各年代別代表にも招集されてきたスケールの大きいプレイヤー。セービング能力に長けており、昨季も横浜FMで開幕戦に起用された。持っているポテンシャルは間違いなく高く、前川にとっても刺激となる。

新井は36歳のベテランGK。2019年川崎在籍時にはルヴァン杯決勝でPKストップを連発し、大きな話題となった。翌年から千葉へ移籍し正GKとしてプレー。昨年こそ7月以降ポジションを譲ったが、4年間で計133試合プレーしており実績は十分だ。ヴィッセルのGKでは昨季最年長だった廣永(33歳)が退団。新井には廣永が担っていたGKチームの精神的支柱の役割も期待される。

筑波大から新卒で加入した髙山は190cmのサイズ感が魅力の左利きGK。まずはプロに慣れる段階からだが、強豪筑波大で正GKを務めた実力は本物だ。数年後の成長が楽しみな逸材。

LCB:本多とトゥーレルのハイレベルなポジション争い

LCBは昨季に引き続き本多とトゥーレルがハイレベルなポジション争いを繰り広げそうだ。

本多は左利きCBならではの対角のフィードに加え、173cmとは思えないヘディングの強さが魅力。LSBとしても水準以上のプレーを披露するなど、年間を通してヴィッセルの堅守を支えた。トゥーレルは序盤こそコンディション不良に苦しんだが、復帰後は対人の強さに加え、ビルドアップにも貢献。最終ラインからドリブルで持ち上がるシーンは攻撃のアクセントになるなど、本多とは違う持ち味を持っている。

このポジションには琉球へ期限付き移籍していた寺阪も復帰した。神戸ユース出身の左利きのCBは、移籍先で7試合に出場。十分な出場機会を得たとはいえないが、貴重な経験を持ち帰ったはずだ。まずはカップ戦が主戦場となる。

RCB:山川はDFラインの軸に成長。岩波、菊池と実力者が揃う

LCB以上に層が厚いのがRCBだ。山川は昨季本職のCBで開幕から起用されると、DFリーダーとしての才能が開花。メンタル的なひ弱さがなくなり、最終ラインからチームを鼓舞した。持ち味の守備能力の高さはもちろん、一昨年までRSBで起用された経験が攻撃面でも発揮される。現実的な目標として、代表を見据えてほしい。

浦和から古巣への復帰をはたした岩波は、昨季こそ出場機会が少なかったものの、持っている実力はJのレギュラークラス。スタメンで起用されても不思議ではない選手だ。右足のロングフィードの精度が高く、攻撃の起点としても期待できる。

長期離脱から復帰を果たした菊池も、負傷前には代表入りを期待された実力者だ。昨季終盤には全体練習に合流しており、今季はレギュラー奪還への想いも強いはず。圧倒的なエアバトルの強さは、アジアの舞台でも武器になる。

LSB:初瀬がスタメンに成長。控えの層に厚みも

LSBのスタメンは初瀬が一番手だ。高精度のキックはストーミング戦術を採用した神戸で大きな武器となった。課題の守備面も改善傾向にあり、酒井が年間を通して右サイドでプレーできたのは彼の成長が大きい。

本職の控えこそいないが、このポジションをプレーできる選手は多い。左利きの本多は守備寄りの時間帯では頼りになる存在で、スタメンでの起用にも対応できる。RSBの酒井はもちろん、今季新加入の広瀬も数は少ないものの鹿島ではLSBでもプレーしている。人材が不足し、本職が起用できないといったリスクは大幅に改善されそうだ。

RSB:広瀬の加入により酒井のターンオーバーが可能に

RSBのレギュラーは今季も酒井が濃厚だ。昨季はボランチやCBでもプレーするなど縦横無尽の働きぶりで、ヴィッセルに悲願のリーグタイトルをもたらした。チームリーダーとしての存在感も絶大。

一方で2年連続フル出場が続いていた酒井も、昨季はコンディション不良により戦列を離れる機会も増えた。そこで、酒井のターンオーバーを促しつつ、右サイドの質を保つ役割を期待して獲得したのが広瀬だ。鹿島ではシーズン途中からRSBのレギュラーとしてプレー。高精度のクロスやビルドアップ能力の高さは折り紙付き。ここにプレー強度の高さが加われば、さらに一段ステップアップできる。

飯野も酒井の代役争いに名乗りを上げる。ヴィッセル加入後はコンディション不良もあって鳥栖時代のような爆発的なプレーが影を潜めている。ただタイトル争いへの大一番となった横浜FM戦では右WGで対面するエウベルを封殺。過密日程の今季こそ、本領発揮を期待したい。

U-18からは本間ジャスティンが昇格を果たした。神戸ユースで早くから期待を集めたSBはアジア杯のトレーニングパートナーにも選出されている。将来のヴィッセルを背負う逸材だ。

本職はRWGの浦も昨季はRSBで試されている。ただ今季はRSBの選手層がぶ厚く、どちらのポジションでプレーさせるのかクラブの判断にも注目したい。

DH:扇原をはじめ選択肢が一気に増えた

ヴィッセルの基本システムは4‐1‐2‐3。ここでのDHはいわゆるアンカーポジションとなるが、シーズン序盤は齊藤未月が絶大な存在感を発揮した。しかし8月の大怪我により離脱すると、なかなか適任者が見つからずチームに停滞感をもたらした。

最終的にポジションを掴んだのが扇原だ。一昨年のヴィッセル加入以降コンディション不良もあり、長く難しい時期を過ごしていた。序盤戦はカップ戦が主戦場だったが、プレーが重くコンディションが上がり切れていない印象だった。しかし28節のC大阪戦でチャンスを掴むと、その後はシーズン終了までスタメンで起用。盟友山口との阿吽の呼吸もあり、タイトルレースのラストピースとして輝いた。

昨季は人材難に悩まされたDHだが、今季はしっかりと戦力を補強している。まず長崎でプレーした鍬先は、運動量やボール奪取能力に長けた選手でハードワーカーの名がよく似合う。長崎では吉田監督とプレーしており、プレースタイルは熟知している。

徳島への2年のレンタルから復帰した櫻井は、持ち味であるゲームメーカーとしての配給やボールコントロールだけでなく、フィジカル面でも逞しさが増した。ただレギュラーポジションを掴むにはアピールが必須。

ヴィッセルユースから筑波大へ進学し、世代屈指のゲームメーカーへ成長した山内翔もこのポジションが適性か。配給やボールコントロールに加え高い戦術眼も期待される。ボールの出し入れでリズムを生み出す選手で、櫻井と似通った部分も多いか。

本職は一列前だが、井手口もアンカーでプレーできる。齊藤同様に圧倒的な運動力とボール奪取能力を持つだけに、ヴィッセルの戦術ではこのポジションにハマる可能性もある。

RIH:山口蛍が絶対的な存在

RIHは山口蛍で不動だ。昨季終盤はコンディション不良で戦線を離れ苦しい時期を過ごしたが、キャプテンとして優勝の瞬間にはピッチに戻ってきた。あらゆる場面に顔を出す八面六臂のプレーぶりは相変わらず。決定機に絡む非凡な攻撃センスも忘れてはならない。

井手口はあえてこのポジションで紹介したい。本来はスタメン起用が濃厚な選手だが、ヴィッセルのIHは左右で役割が違う。LIHは守備時に4-4-2のツートップを担うため、ボール奪取よりハイプレスが優先される。井手口であれば十分に役割を担えるが、彼のボール奪取能力の高さを活かすなら山口のいるこのポジションが適性と考えた。いずれにしても、本来はスタメンでプレーする選手だ。

昨季6月にスペインからレンタル復帰した日髙は、出場機会こそ少ないものの個人的に若手ではもっとも期待値が高い選手だ。スペイン移籍で逞しさを増し、ハードワーカーへと成長している。徐々にプレースタイルの色が定まり、今季はカップ戦で主戦を担いつつリーグでの出場機会を増やしたい。

LIH:成長株の佐々木と終盤にポジションを掴んだ井出が競い合う

前述した通り、ヴィッセルのLIHは戦術的に重要な鍵を握るポジションだ。周囲の選手の動きを把握しながらポジションを変化させつつ、自分の色を発揮しなければならない。

もっともこのポジションに近いのは、昨季7得点でブレイクした佐々木か。豊富な運動量と気の効いたポジショニングに加え、フィジカルの強さを生かしたキープ力にも優れている。昨季は決定機にこだわるプレーでチームの主軸に成長。両WGやCFでも質の高いプレーを披露し、これまでの器用貧乏なイメージを払拭。上質なプレイヤーとして才能が開花した。

昨季千葉から加入した井出は、もともとパスやドリブル、フィニッシュに絡むアタッカータイプだ。ヴィッセル加入当初こそそうした面がフォーカスされたが、シーズンが進むにつれ献身的なハードワーカーとしての才能も披露。佐々木がWGで起用された終盤戦はLIHのスタメンに抜擢され、タイトル獲得に貢献している。

ポテンシャルを開花できずにいるのが中坂だ。ファンタジスタとして攻撃の局面で生きるタイプだが、今のヴィッセルでは適性ポジションが見当たらないジレンマを抱えている。それでもカップ戦では中盤で献身的なプレーを見せ、チームへ適応しようとする姿が見られた。現在のチームで彼を生かすなら、攻撃参加も多いこのポジションを推したい。

LWG:汰木とパトリッキが再度レギュラー争いを繰り広げる

昨季前半戦LWGのレギュラーは汰木だった。緩急を交えたドリブルで局面を打開し、大迫・武藤と強力な3トップを形成。間違いなくチームに欠かせない存在だった。ただシーズン終盤はコンディション不良に悩まされスタメンから外れる機会が増加。齊藤未月の負傷離脱により、守備の形がやや変化したため攻撃のタスクが制限されたのも影響した。

汰木とは反対にシーズン終盤へ向けてコンディションを上げていったのがパトリッキだ。理不尽なほどのスピードはロングボール一本でチャンスになり、試合終盤のジョーカーとして怖い存在だった。苦しい場面で印象に残るゴールを決めるのも強み。RWGや流れの中でLIHを務めるなど、試合を経るにつれて柔軟性が増していった印象だ。ただ守備のタスクに不安があり、スタメン起用は限定的だった。

汰木とパトリッキはプレースタイルに違いがあり、対戦相手によって決断するプランも考えられる。ただ全体的なバランスで言えば、汰木をスタメンで起用しパトリッキをジョーカーで使うのがベターか。

この争いに割って入る可能性があるのが佐々木。LIHだけでなく、昨季はLWGでも度々プレーしている。井手口や鍬崎が加わり充実した中盤の人員をフルに生かすなら、彼をサイドにおいてより攻撃に絡んでもらう策も考えられる。

武藤、宮代、井出らもこのポジションでプレーでき、選手層は厚いポジションといえる。

RWG:武藤が軸だが本職の控えが不在

RWGは今季も武藤が一番手。スピード、テクニック、フィジカル、メンタルいずれをとっても日本人でトップレベルにある選手。90分をフルで走り切る献身的な姿には頭が下がる。10得点10アシストのダブル・ダブルを達成し、彼のキャリアの中でも1、2を争うハイパフォーマンスを見せているのは間違いない。

このポジションは本職の控えが不在。ただ昨季もプレーした佐々木やパトリッキ、新加入の宮代も右サイドに適性がある印象だ。

RSBの飯野も昨季はこのポジションでプレーしているが、広瀬が加入した今季はより攻撃能力が生かせるWG起用が増えるかもしれない。もともと適性は3バック時のWBや4-4-2のSHあたりと、SBよりも前目でのプレーを好む。WGで本格起用となれば、新たな可能性を披露するかもしれない。

若手の浦はRWGが本職だ。抜群のスピードは彼の武器だが、まだまだリーグで起用できる段階には到達していない。カップ戦を主戦場に成長曲線を描きたい。

CF:大迫依存が強いポジション。新加入の宮代が存在感を見せられるか

CFは大迫が不動だ。むしろここに大迫がいない状況が、ヴィッセルにとってもっとも怖いシチュエーションといえる。国内では異次元のポストワークやキープ力に加え、ハイボールに競り勝つ高さも備える。得点能力は言わずもがなだが、ヴィッセルの戦術を支えるハイプレスでの守備タスクもハイレベルでこなす。まさに替えが利かない存在だ。

昨季ヴィッセルが苦戦したゲームは、大迫へのマークを強化するか、ボールの供給ルートが遮断され、彼のストロングを消された試合がほとんどだった。反対に大迫が持ち味を発揮したゲームではほぼ負け知らずだった。ただ昨季の大迫は間違いなくキャリアハイの活躍。絶えず議論されている大迫依存を脱却するプランはしっかり準備しておきたい。

プランの1つとして期待されるのが川崎から新加入した宮代だ。プレースタイルは大迫とは違い、嗅覚に優れたストライカーという印象を持っている。独力で突破するよりも、味方からのパスやこぼれ球に素早く反応し、左右を問わず高いシュート精度でフィニッシュを決める。裏抜けも得意だ。その一方で強度の部分は未知数だ。相手を背負うよりもひっくり返すようなプレーを好むため、どこまでポストワークができるのか見定める必要がある。

CFではこの他にもフィジカルに長けた佐々木や武藤の名前も挙げておきたい。

まとめ:新シーズンへ向けて用意したいプランB

CFの分析の流れから、まとめとして話しを続けてみたい。

宮代のポストワークを見定める必要があると述べたが、宮代に大迫のプレーをコピーさせる必要はない。強度を高める要求は必要だが、むしろ彼が生きるスタイルが構築できれば、ヴィッセルにとっては新たなオプション=プランBの誕生につながる。

今季ヴィッセルは間違いなく相手チームからのマークが厳しくなる。大迫を軸とした戦術にも、より強固な対策を練ってくるはずだ。ならば、昨季は形にできなかったプランBを仕込み、戦い方に幅を持たせながら、大迫依存から緩やかな脱却を図るのはアイデアの一つだ。いわゆるストーミングのような過度な割り切り方ではなく、局面や時間帯によってはボールを繋ぐスタイルがあってもいい。

今季の編成を見ていると、軸となるハイプレス戦術は踏襲しながら、未来を見据えた動きにも気付かされる。例えば櫻井や山内、広瀬や宮代らはパスワークでも生きる選手だ。あるいはレンタル移籍に出した冨永、安達、泉らもハードワーカー路線ではない。もちろん現代サッカーにおいてプレー強度は必須スキルだ。その一方で、強度に対抗する戦術やプレースタイルが生まれるのも、フットボール史のおもしろさといえる。

ペップ・グアルディオラはパスワークだけを追求せず、強度へベクトルを向ける時期もあった。反対にクロップがストーミング戦術にこだわらず、ボール保持に傾く時期もある。

何が言いたいかといえば、ヴィッセルも昨季のプレースタイルを「絶対」とせず、グラデーションのように戦術に幅を持たせる選択肢はありだ。近い未来に、ヴィッセルには世代交代の波が訪れる。そこへ向けて編成もある程度中期的なビジョンを持っている印象だ。これも優勝という一つの節目を迎えた恩恵かもしれない。


さて、つらつらとヴィッセル神戸のオフの動きを書き綴ってみたが、選手評をしていると昨季の戦いぶりが蘇ってくる。本来は昨年末に2023年のシーズン総括として記事を執筆するつもりでいたが、筆者の都合により(副鼻腔炎で寝込む…)投稿が年明けになってしまった。「このタイミングならば新シーズンを見据えた内容がよい」と判断し、補強動向をまとめる内容へと方向転換した。

チームの始動日にあわせて、ヴィッセルサポやJリーグファンがチームの動向を把握する一助になれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?