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難病だと発覚した義母の話12

2016年8月〜

義母が紹介してもらったのは
『Yの家』という少し広い一般の家で6人〜8人くらいの少人数だけを受け入れてくれる所だった。

普通の住宅街の中にある家で、庭が広く、樹々や花に囲まれた、トトロとかに出てきそうな家だった。

お風呂のサービスは無いけれど、午前中は体操をしたり、散歩をしたり、車に乗って近所のスーパーで買い物をして、お昼ご飯は手作りの野菜たっぷりのご飯をいただく。
午後はそれぞれの能力に見合った手芸や工作をしながらおしゃべりを楽しむ。

そういうプログラムのデイサービスだった。

田舎のおじいちゃんちを思わせるような広い玄関には木の実や木の枝などで作られた作品が飾られていたりしてアットホームな感じ。

玄関を入って右手にある部屋に入ると大きなダイニングテーブルがあって、それを取り囲むように利用者の人達が座っていた。
そこでバイタルチェックを受け、みんなで音読みたいな事をして、イスを引いて広げたスペースで軽い運動をしたりしていた。

義母は他の利用者さんと一緒に参加していて、私は少し離れたところで様子を見学させてもらっていた。

『はい、じゃあ片足をゆっくり上げて片足で立って下さーい』
利用者さんたちがカカシの様によろよろとポーズを決めていく中、義母はスッとそのポーズを決める。

その時の表情がドヤ顔とでもいうのか…
『これぐらいできますけど?』みたいな誇らし気な表情だったのがなんだか微笑ましくて、記憶に残っている。

この頃はこんな事も余裕で出来ていたんだよなぁ。

デイサービスに参加していた義母が楽しそうで、そのまま参加させていても大丈夫そうだった為、義母をデイサービスに残して私は帰宅する事になった。

そして義母がデイサービスの送迎車で帰ってくる時間に合わせて実家へと行ったが、ほんの少し義母が帰ってくる方が速かった。

ちょうど玄関先で送迎の車に手を振っている所だった。
『お義母さん、おかえり。デイサービスはどうだった?』
義母の顔を見れば、楽しかったんだな〜というのはわかったけど、聞いてみた。

『おかげさまで、楽しかったよ』
『じゃあ、デイサービス始めてみようか?ケアマネージャーさんに伝えておくね』
『よろしくお願いします』
そう言って義母は笑っていた。

ケアマネージャーさんからも
『デイサービス側からも受け入れOKの返事をいただきました』
と連絡が入り、毎週金曜日は『Yの家』のデイサービスに通う事に決まったのだった。

始めの頃はデイサービスの前日になると
『起きれるか不安』
『起きるつもりではいるけれど、起きているかどうか、確認の電話をしてほしい』
と不安を訴えていた。

それでも、義母はちゃんと早くに起き、身支度しっかりと整えていた。

髪を整え、化粧をして、腕時計と指輪を必ず付けていた。

『前の晩は白髪が気になるみたいで、鏡ばっかり見てるぞ』という義父からのタレコミもあった。

『起きれるか不安』
『ちゃんとデイサービスに行けるか不安』
そういった『不安』な気持ちが悪い方に作用しないといいなぁ…とこちらも不安に思っていたけれど、『きちんと身支度を整えて外に出る』という行為は義母に張りをもたらしてくれていた様に思う。

O病院へ診察に行くと、義母は
『デイサービスの前日は不安で、ドキドキする。行ってしまえば楽しいんだけど』といった話をした。
そこで、先生からは不安が強い時用の頓服が処方された。

義母が不安になるのはデイサービスの前日の夜である事が多いため、その頓服は義父に預けた。
『義母が不安を口にした時に一錠飲ませてあげて』と伝えた。

しかし、これが良くなかった。
義父は薬を渡しておしまい。
飲んだか飲んでないかの確認はしていなかった為、後日、デイサービス用のカバンの中から何錠も見つかる事になるし、タンスの引き出しからも出てくることがあった。

おそらくは『後で飲もう…』と思ってカバンやタンスにしまったのだろうと思うのだけど、不安に駆られた義母が一度に何錠も飲んでいたら…と思うと恐ろしい。
幸いそういったことは無かったのだと思うけど…。

頓服だけでなく、普段の朝、昼、晩の薬もいつのものかわからないものが出てくることがあった。
病院から処方される薬は朝、昼、晩と書かれた小袋に入れてもらっていたのだけど、それが今日の薬なのか、昨日のものなのか全くわからない。

義父には飲んでいるところを確認してほしいと何度もお願いしたが、なかなかやってもらえず、イライラした。

今思えば、仕方がなかったと思う。
義母は機嫌が悪くなると義父を無視する様な人だった。
おそらくは『今飲め』と薬を渡されても無視をして部屋に持って行ったりしていたのだろう。
嫁からは『ちゃんと見て』と言われ、義母には無視されて…義父には可哀想なことをしたな…と今ならば思う。

とにかく、いつの薬なのか把握しなければならなかったため、薬の小袋にはマジックで日付けを書く事にした。(それが当時はちょっと面倒くさい仕事だった)

この事がきっかけで、義母はデイサービスにて壁掛けのお薬ポケットを作る事になる。
半年ほどかけて作られたそれは、義母の状態に合わせて使い方は変わったりしていたけれど、義母が施設に入所するまで使っていた。

薬の話はさておき、義母はだんだんと週に一回あるデイサービスにだんだんと慣れていき、なんとなく生活リズムが落ち着いてきた2ヶ月経った頃、また新たな問題が出てくる様になったのだった。


(2016年 8月〜9月)



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