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【スーパーダイニチ】

「はい、あんたら、何にするんや?」とおばあちゃんは私と弟、従姉弟のふーちゃんに声をかける。カウンターの下の方で「僕チョコ」「私バニラ」「私ミックス」と皆口々に言うと、


「はいはい、ほな、黒1つ、白1つ、ミックス1つ、お願いします」とおばあちゃんはオーダーした。


ソフトクリームを、黒、白でオーダーするおばあちゃんにも、フードコートのお姉さんは顔色一つ変えず、慣れた手つきでクリームをコーンに絞りいれてくれる。


夏に牛頭町のおじいちゃん家にいくと、歩いて五分程のところにある『総合スーパーダイニチ』のフードコートに、ソフトクリームを買いに行くのが定番だった。

クリームを買うと、大概フードコートでは食べずに、皆が急いでおじいちゃんの家に戻ってから食べるのだが、ダイニチを出て、夏の暑さに容赦なく溶け始めるクリームに、子供たちはいつもキャーキャー言いながら、ベロベロ、ベロベロと首を右に左に

曲げ、コーンにつたうクリームを舐めながら、おじいちゃんの家へと急ぐ。私は、どうしても舐めたくない。とにかく牛頭町についてから食べたい。という変なこだわりがあり、クリームが傾かないように、態勢を維持できる最大限の早さで駆けるのだが、容赦なく溶け流れ落ちてくるクリームに観念し、しぶしぶ舐めて牛頭町の玄関をくぐったりもした。


ダイニチはショッピングモール程大きい規模ではない総合スーパーで、1階は食品フロア―で、地階には本屋さんがあり、2階から上階には衣料品、食器、雑貨、手芸用品、おもちゃ等が置いてあった。たまにマッサージチェア等のポップアップストアが出たりしていた。屋上もあって、私が初めてのエア遊具で遊んだのもダイニチの屋上だし、始めてのキャラクターショウを見たのもそこだった。左手を高く掲げたヒーロインと、当時、ほっぺたがまだ真っ赤でまるまるとしていた弟と私が、写真に納まっている。


そのダイニチのフードコートは、私とおばあちゃんが攻防を繰り広げた思い出深い舞台でもある。私が保育園に上がるか上がらないかの頃だったか、いつものように買い物に出るおばあちゃんにくっついて、ダイニチに来ていた私は、レジを済ませたおば

あちゃんを、レジ奥のフードコートへと誘導する。そこで軽く「おばあちゃん、ソフトクリーム食べたい」とジャブを打つ。不意打ちをくらったおばあちゃんも負けてはおらず、「え、はな子ちゃん、買っても全部食べられへんやんか、やめとこ。家に

帰ったらお菓子あったで」とフードコートから気をそらせようと家のお菓子で釣ってくる。

「ソフトクリームがいい、ソフトクリーム、ソフトクリーム食べる」私も負けてはいない。


あれやこれやと手を変え品を変え、家に連れ帰ろうとするおばあちゃんとクリームを食べると言って聞かない私との押し問答が続く。が、結局根負けしたおばあちゃんは「全部食べるんやな?絶対食べるな?」と私に念を押し、私は「うん。食べる!」と

言って、買ってもらうことになった。

おばあちゃんは、「いややわぁも~」とフードコートの店員さんにきまり悪げに笑いながら、「白一つ」とオーダーした。

すぐにバニラのソフトクリームがおばあちゃんに手渡され、「さ、はな子ちゃん、ここ座って食べ。」とフードコートにある席に腰かけた。


と、ちょうどその時、出汁の良い香りがプ~んと漂ってくる。『あ~良い匂い』口はソフトクリームを舐めながら、その香りの元を目で探ると、おっちゃんが、湯気が立ち上る熱々のキツネうどんをもって、少し離れた席に座った。
おっちゃんが割り箸をパンと勢いよく割って、ズルズルッハフハフッ言いながら食べる様子に、私はすぐに「おばあちゃん、あれ食べたい」と言った。


「えッ、、、、、、、、、」動揺を隠せないおばあちゃん。
「ソフトクリームあるやんか、これ食べなあかんやろ」必死に言うおばあちゃんを横目に、

「あれがいい、おうどんがいい、食べた~~~~~~~~い。」と第二ラウンドのゴングが鳴る。「何言ってるん、ソフトクリームあるやんか、これ食べるって言ったやろ。」「おうどん食べたい」「クリームどうするんやな」とそのやり取りがしばらく

続き、「これ、おばあちゃんにあげる」と私はソフトをおばあちゃんへ突き出す奇策にでた。


「あげるってあんた、、え~~~~~~」おばあちゃんは倒れそうな声を出した。

「おうどん食べたい」と言い続ける私に、とうとう根負けしたおばあちゃんは、

「絶対食べるんやな、」「食べる」と私。

店員さんや他のお客さんの様子を伺い、おばあちゃんは恥ずかしそうに、ソフトクリームを一旦私に持たせて席を立つ。

しばらくすると、お出汁の良い香りがして、おばあちゃんはおうどんを持って戻って来た。おうどんからは湯気がモクモクあがっている。


おばあちゃんは「ちょっと待ちや、熱いから」と言って、小さい子供用のお椀におうどんを少し移し、おつゆを入れてくれる。フーフーと少し冷ましてくれ「はい、熱いから気を付けや」と言って私の前に置いてくれた。ソフトクリームは溶けてきていて、おばあちゃんはソフトクリームをペロペロ食べ始めた。私は、おうどんを前に、おばあちゃんの真似をしてフーフーと吹いてから一筋をそっと口に運んだ。お出汁の香りと相まって美味しい。一筋二筋食べ進めたところで、何かジュウジュウと言う音と共に、ソースの焦げた香ばしい香りがしてくる。ふとその音の方に目をやると、鉄板の上、焼きあがったお好み焼きに、フードコートのおにいちゃんが、最後の仕上げに鰹節と青のりを振りかけていた。待っていたおじさんが、それを受け取り、キツネうどんのおじさんとは反対側に座った。鰹節がお好み焼きの上で踊っていた。


その後どうなったかが思い出せないのだが、おばあちゃんからは事あるごとに、

「はな子ちゃんはもーーーーーーーーーー大変やったんやで、もーほんまに、、大変

やった」とフードコートでの攻防は語り草となった。


『スーパーダイニチ』はそんな忘れられない大切な思い出の場所だ。




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