「2日後に死ぬ」

〇都内某橋の上(昼)

青い空を虚ろな目で見つめる少年。黒田朝日(17)

朝日は橋の上から今にも飛び降りようとしている。

朝日「すー、はー、」

ゆっくりと目を閉じる朝日、呼吸が荒くなってゆく。

飛ぶ覚悟を決め、カッと目を見開く朝日。

突然目の前に現れた謎の死神ワイト(20代後半ほどの見た目)と目が合う。

ワイトは朝日から魂を抜こうと鎌を胸元にスタンバイしている。

朝日「・・・え?」

ワイト「・・・え?」

一瞬固まる二人。

ワイトは左手を橋の下の方へ差し出し、少しむすっとした顔をして。

ワイト「・・・どうぞ?」

困惑する朝日。

朝日「え?」

ワイト「俺死神だから、気にせずに飛び降りて」

目をそらして気まずそうに頬を掻く朝日。

朝日「え、いやその・・・なんか気まずいっていうか」

さらに眉をひそめるワイト。

ワイト「大丈夫、俺気にしないから」

朝日はもう一度橋の下を見下ろすが、下に落ちた自分の姿を想像して顔を青ざめ、柵の内側に戻ろうとする。

その様子を見て大きくため息を吐くワイト。

ワイト「はあー!、飛ぶ気ないなら最初からこんなことすんなよー、多いんだよねぇ最近こういうの。寿命が来る前に自殺されると色々困るんだけどなこっちは!」

朝日「・・・そんなこと言われても」

ワイト「いや、別に俺は簡単に命を投げ出す奴がけしからんって怒ってる訳じゃないからね!全然」

気まずい空気になりとりあえず安全な場所まで移動する朝日。

朝日「・・・僕帰ります」

帰ろうとする朝日の目前に移動し、霞んだ朝日の目をまっすぐ見て質問するワイト。

ワイト「待てよ・・・何で死のうとしたんだ?」

ワイトから目をそらしてぼそっと答える朝日。

朝日「軽くなれる、楽になれると思って・・・」

冷ややかに返すワイト。

ワイト「じゃあなんでやめた」

朝日「・・・痛いのが、怖いって思って」

また大きくため息を吐くワイト。

ワイト「はぁ・・・君名前は?」

朝日「・・・黒田朝日です。」

ワイト「黒田朝日・・・そんなに死にたい?」

下を俯き黙る朝日。

朝日「・・・」

ワイト「そうか、二日後中央病院に来い、俺の責任だしな、お前の死ぬ手助けをしてやる」

朝日「え、それってどういう・・・」

ワイト「だから、俺がお前に死ぬ覚悟付けさせてやるってこと!」

〇朝日の自宅(夜)

一人で住むには少し広めのアパート、かなり散らかっている。

母親の仏壇に合掌する朝日の後ろから、突然ワイトが現れ、迷惑そうな朝日。

ワイト「ここにクロの写真も増えるわけかぁ」

朝日「・・・三日後にまた会うんだから家に来る必要ないと思いますけど」

ワイト「えー、だって明日までここら辺で死ぬ人いないし暇なんだから、遊びに来たって良いじゃん」

朝日「家に来たってテレビくらいしかないですよ」

ワイト「大丈夫!俺夜11時から始まるアニメをここに見に来ただけから」

夜11時、アニメを見ながら奇声を上げているワイト。

ワイト「やれー!ぶっ倒せーー!」

眠れず頭から布団をかぶる朝日。

朝日「・・・眠れない、明日追い出そう」

〇学校の教室(昼)

休み時間。机に突っ伏し、ちらちらと周りを伺う朝日。

朝日Ⅿ「僕以外の人には見えてないのか」
 
クラスで一人の朝日に話しかけるワイト。

ワイト「友達いないんだね」

朝日「僕は忙しいんだ・・・遊んでる暇なんかない」

ワイト「ふーん」

ワイトの事をめんどくさそうに見つめる朝日。

朝日Ⅿ「なんでついてくるんだよ」

授業中、突然バッグをもって立ち上がる朝日。

朝日「先生、気分悪いんで早退します・・・」

先生「お前またっ・・・早く行ってこい、宿題はちゃんとやれよ」

朝日「はい」

クラスメイトの不満げな視線から逃げるように教室を後にする朝日。

朝日が帰ったクラス内を意味ありげに一瞬見つめるワイト。

〇朝日のバイト先

和風の飲食店で、店長に怒鳴られる朝日。
 
店長「おい、黒田!何で昨日の昼来なかった!」

朝日「・・・すいません」

朝日の態度に眉を顰めるゴツイ男店長
 
店長「やる気がないなら辞めろ」

目をそらして答える朝日。

朝日「いえ、すいません・・・これからはないようにします」

朝日の態度にため息を吐く店長。

店長「はぁー、なら早く仕事してくれ」

バイト先着替え室。

店の制服に着替えながらワイトと会話をする朝日。

朝日「・・・死神ならさ・・・僕の気に入らないやつ殺してたりできる?」

ワイト「できる・・・けど絶対にやらない。寿命が来てから殺すのがルールだからね」

朝日「・・・そっか」

無言でせっせと懸命に仕事をする朝日と、(皿洗い)。それを見守るワイト。

〇朝日の家(夜)

洗濯物を畳む朝日。

ワイト「クロも大変だな」

朝日「まあ、でもしょうがないし」

ワイト「やりたいこととかないの?」

朝日「考える暇もない」

朝日「ねえ、ワイト・・・人って死んだらどうなるの?」

ワイト「魂だけの存在になる。意志や、感情がなくなったただの魂。その状態で次の人生を待つんだ」

朝日「・・・なんか、楽そう」

ワイト「はは、暇だろうけどな」

朝日「・・・なんかちょっと怖くなってきた」

ワイト「平気だって。明日は早いんだからちゃんと寝とけよ」

〇中央病院(朝)

翌日
 
ワイトが待っている所に、よれよれの服を着た朝日が右手に漫画雑誌を持って到着する。

ワイト「何もってんだ?」

朝日「・・・漫画、妹がここで入院してるんだ」

ワイト「そうか・・・ついてきな」

病室の前で部屋番号を見て立ち止まる朝日。

朝日「ここって、比奈の・・・」

ワイト「そう、これからクロの妹は寿命で死ぬ」

朝日「は?ちょっと待ってくれよ・・・急にそんな」

扉をすり抜け部屋に入るワイトを追って、扉を開けて病室に駆け込む朝日。

真っ黒な木の枝のようなものの先端が横たわっている比奈の胸元に刺さっている。

朝日「・・・なんだよ、これ」

ワイト「あれは三途の川。寿命を迎えた魂のありかを示してくれる・・・」

朝日「・・・そんな、だってまだ余命は一か月以上あるって」

ワイト「これが世界のルールだ、クロの妹は今日寿命を迎える」

膝から崩れ落ち、悔し涙を流して歯を食いしばる朝日。

朝日「そんな・・・何でだよ、これまでずっと・・・僕、ずっと頑張ってきたのにっ・・・」

ワイト「別に良いじゃん、クロもこの後死ぬんだし」

朝日「まさか、死ぬ覚悟・・・」

ワイト「これで固まる」

朝日「分かったから、僕自殺辞めるから・・・僕頑張って生きるから、だからやめてくれ、ワイト」

右手に持つ大鎌を振り上げるワイト。

ワイト「悪いな」

朝日「やめろー!」

鎌を突き刺された比奈の胸から放たれた謎の光に朝日たちは飲み込まれる。

朝日「くっ」

回想

朝日の頭の中に比奈の走馬灯が流れ込む。

朝日Ⅿ「これは、なんだ?比奈の声が聞こえる」

〇かつての朝日の自宅(昼)

赤ちゃんの比奈を囲み、母親と朝日、そして父親の四人で写った写真を見る幼少期の比奈。

比奈Ⅿ「私の家族は二人・・・お母さんとお兄ちゃん。お父さんは私が物心つく前に出て行っちゃったらしいから、家族じゃない」

写真を見る比奈のから、その写真を悲しそうな顔で取り上げ押し入れにしまう母親。

比奈Ⅿ「寂しくはなかった。私にとっては最初からいなかったから。でもお母さんに苦労をさせたことは許せない」
 
〇都内某公園(昼)

比奈が母親と朝日の三人でお花見に行く。母親の顔はやつれている。

比奈Ⅿ「私達の為に仕事も家事も頑張って大変なのに、お母さんは私とお兄ちゃんをいろんな所に連れて行ってくれた。今でもみんなで見たいろんな景色が頭に残ってる」

〇中央病院(昼)

病院の天井を見つめる比奈。

比奈Ⅿ「・・・ずっと続くと思ってたけど、中学に入ってすぐ病気になって、そこからは病院の天井しか見えない」

病室で友達と撮った写真を眺め、一人で泣く比奈。

比奈Ⅿ「最初は友達も遊びに来てくれたけど、みんなしばらくしたら来なくなって、このまま忘れられて消えてしまうと思うと怖かった。だからと言って私には何もできない、不安と退屈が交互に際限なく私を襲った」

病室のテレビにゲームをセットする朝日。

比奈「ありがとうお兄ちゃん。でも無理しないでね?」

やつれた顔から無理に笑顔を作って返答する朝日。

朝日「僕は大丈夫、比奈はなにも気にしなくて良いよ」

それを見て不安そうな顔をする比奈。

比奈Ⅿ「お母さんは私の入院費を稼ぐために働いて、働いて働いて、過労で死んだ。私より先に。それなのにお兄ちゃんは私の為に毎日漫画とかゲームとか持ってきてくれて、心の底から、その気遣いが嬉しかった。だけどお兄ちゃんの顔もどんどんやつれていく・・・私のせいで」

比奈Ⅿ「・・・でももう大丈夫、私はいなくなる。本当はこの先も、ずっと一緒にいたかったけど、もういいの、今までありがとう。だからお兄ちゃん。これからは自分の為に生きてほしい私は・・・私は大じ・・・」

頭の中で、朝日は比奈に語り掛ける。

朝日「比奈!」

比奈Ⅿ「・・・私は・・・まだ一緒にいたかったよ、お兄ちゃん」

回想終わり。

比奈の体から突然黒い蒸気のようなものが溢れ出し、その蒸気は徐々に巨大な人の形をかたどった怪物(未練)となって暴れ出し、何かを追い求めるように朝日のもとに向う。

叫びながら朝日を襲おうとする未練。

未練「じyうnいきtあ・・・いいい!!」

朝日はその未練に比奈の面影を見て悲鳴を上げる。

朝日「うわああああ!!」

未練が朝日を捕まえようと腕を伸ばした瞬間、ワイトがその腕を大鎌で切り裂く。

ワイト「クロ、あれは比奈の未練だ。だから最後を見届けるまで、目をそらすなよ!」

未練の切り落とされた右手がみるみる再生してゆく。

未練「い・・・きtあい!!」

巨大な未練の突進を鎌で受け止め、力を受け流して体制を崩し、背後から足を切り落とす。が、尚も朝日のもとへ手で這いずって向かおうとする未練。

ワイトⅯ「クッソこっちにこいよ!」

未練が朝日の目前にまで迫った時、ワイトが未練の胸を後ろから一突きして呟く。

ワイト「おつかれさん」

未練、液体へとゆっくり形状崩壊しながら呟く。

未練「じy・・・にい・・・きt・・・」

朝日を襲おうとしていた腕は、朝日の事を最後まで抱きしめていた。

朝日Ⅿ「自由に生きたいと、そう叫び続けていた比奈の未練は、最後僕に、自由に生きて・・・と、そういってくれたような気がした」

涙をこぼす朝日。

朝日「ごめん・・・ごめん比奈・・・ありがとう・・・」

ワイト「まあ、なんだ。見ての通りこうやって未練も払うし、俺が痛みを感じる前に殺せば苦しまないから、クロも楽に死ねる」

朝日「・・・最初からそんなつもりなかったくせに」

ワイト「へへ、ばれてる」

朝日「・・・ありがとう、ワイト」

ワイト「おう、頑張れよクロ・・・じゃあな」

朝日「うん」

数日後。

肩を回しながら空を飛んでいるワイト。

ワイトⅯ「全く今日は死ぬ人が多くて大変だなぁ」

突然、ワイトは朝日に声をかけられる。

朝日「あ、ワイト」

橋の柵の向こうに立つ朝日。

ワイト「お前・・・何してるんだ?」

朝日「ごめん、やっぱり・・・無理だった・・・」

清々しい顔で言う朝日に、ワイトはショックの表情を浮かべる。

ワイト「そんな、自由に生きてって言われたはずだろ?」

朝日「自由に生きても・・・疲れるだけだった、辛いだけだった・・・ごめんな、比奈」

一粒涙をこぼし、迷いなく一歩を踏み出し橋から落ちる朝日。

ワイト「クロ!」

落下する朝日の手を掴もうとするが、死神であるワイトの手は朝日の手をすり抜け、悔しげな表情を浮かべ、ワイトは落下する朝日の胸に鎌を刺す。

回想

朝日の走馬灯を見るワイト。

朝日Ⅿ「必死に生きようとした・・・でも、ちゃんと自分の人生を生きてこなかった僕に、世界は冷たかった」

〇学校の教室(昼)

無理に笑顔を作って同級生と喋ろうとする朝日。

朝日Ⅿ「段々何のために生きているのか分からなくなった」

バイト先(夕方)

店長に怒鳴られながらも仕事を淡々とする朝日。

朝日Ⅿ「僕の周りには誰もいない・・・先の事を考えるだけで、辛くなる・・・あれ?何のために僕、生きてるんだっけ。希望も、未練も、生きる理由も、僕にはなくなってた・・・考えれば考えるほど苦しいみが続く」

〇朝日の自宅(夜)

たった一人で寝る朝日。

朝日Ⅿ「ああ、ここから飛んだら全部、楽になれそうだなぁ」

橋の上で空を眺める朝日。

回想終わり。

走馬灯が終わり何かに気が付き、呟くワイト。

ワイト「・・・嘘つけ、」

ワイトの周りを朝日の巨大な未練の影が覆っていた。

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