「赤と死神のクロ」 第1話
あらすじ
死神は、人を死の苦しみから解放するために存在している。
ある日、死神として生まれたクロは、先輩死神であるワイト共に、死神としての初仕事に向かった。だが、死神の仕事は、クロが想像していた以上に過酷なものだった。死神が人を殺す際に見ることになる、走馬灯。死神は、その人の人生、感情を全て知った上で、その人間を殺さなければならない。更に、死んだ人間の未練が巨大な怪物となり、魂を取り返そうとクロに襲いかかる。未練との戦いや、人を殺したことで、心と体に大きな傷を負ったクロは、人を殺すことがトラウマになってしまう。誰よりも優しく、誰よりも弱い死神の少年は、果たして死神である自分を受け入れる事が出来るのか。
あらすじの補足と世界観の設定
三途の川 死神界に存在しており、真っ黒な水が滝のように地面から空へと向かって流れている。人の寿命を知らせる役割と、殺した人間の魂をあの世に運ぶ役割等、様々ながあり、その際は川が木の枝のように分かれて、死ぬ人の方へと向かっていく。
キャラの補足
ワイト クロに死神の仕事を教えてくれる師匠敵キャラ。
あかね 死神を見ることが出来る女子高生。第一話でクロの死神としての初仕事を偶然目撃する。晴れの日なのにびしょ濡れだったり、母親に嘘をついていたりと、不可解な部分がある。
シロ Viと書かれたクリフォトの樹のクリファーを彷彿とさせる謎の仮面を付けた死神。死神でありながら、何故か羽は天使のように白い。
〇マンションのすぐ隣にある小さな公園(夜)
雪が降っている。
死神シロ(男 19歳くらい ツンツンした黒髪)の、黒い翼が映し出される。
N「死神。それは人の形を持ち、人の心を持つ」
マンションから飛び降り、無残に地面に叩きつけられているパジャマを来た女子高生の死体を、死神のシロが呆然と見つめている。
雪で染まった公園の白い地面は、女子高生の死体の周辺だけ真っ赤に染まっている。
シロの悔しさで剥き出しになった歯が映る。
N「傍観者の名である」
一粒の涙が地面に落ちる。
◯死神界・三途の川付近(朝)
クロN「この世の全てから、拒絶された気がした」
死神界の様子。
死神界は空の上にある。
現在は雲の中にあるため、あたりの景色は灰色に包まれている。
目に見えない透明な床は、水面のようにゆらゆらと波打っている。
そして、死神界の中心に異様な雰囲気の漂う大量の黒い水が、滝のように地面から天にめがけて流れている。
天にめがけて流れているこの巨大な黒い川(三途の川)の中で、クロ(男 16歳くらい 主人公)はうっすらと目を開ける。
クロの見た目。黒髪でパッとしない細身の少年。身長は171cmくらい。表情は終始自信がなく暗め。
背中に黒い翼が生えているが、三途の川の黒い水に紛れていて翼が見えない。
クロ、胎児のようにうずくまっている。
クロⅯ「ここは、どこだろう・・・暖かい、まるでお湯の中に浸かっているみたいだ」
うっすらと開けた目を、悲しそうな表情で瞑るクロ。
クロM「もしも叶うなら・・・ずっとここで」
クロ、何かに気づき、パッと目を開ける。
クロⅯ「お湯?・・・うっ、息ができない!苦しい! 嫌だ!! 死にたくない!!」
もがいた末に、右手で何かに触れるクロ。
クロM「何かある」
思わず掴んだその何かがひとりでに動き出し、それによってクロの体が外へ引っ張られる。
クロM「うわ、なんだ!」
三途の川から顔を出すクロ。
クロ「ぶはぁっ!」
クロは、真っ黒な水に体中まみれながら、三途の川を抜け出す。
四つん這いになり、ゼェゼェと呼吸をする。
右手にはクロの身長の3分の2にも至る巨大な大鎌が握られている。
地面が透けており、下にある人々の街がクロのぼやけた視界にうっすらと見える。
ワイト「やあ、おはよう!」
クロ、何者かの声に反射的に顔を向ける。
クロの目線の先には、死神のワイト(29歳くらいの見た目)の姿。
ワイトの見た目。身長は大体185cmほど。美しい金髪に紫の瞳。色白の肌に、ゾッとするほど整った顔立ち。細マッチョ。肩に1mほどある巨大な鎌を担いでいる。終始にこやかな包容力ある師匠的キャラクター。
ワイト「立てるかい?」
ワイト、クロに手を差し出す。
クロ「だ・・・れ?」
クロ、死神のような風貌のワイトを目の前に、驚く力もなく、困惑の表情を浮かべる。
ワイト「初めまして!俺は死神のワイト!」
少しずつ意識がはっきりとしてくるクロ。え?と言う表情になる。
クロ「‥‥‥死神?」
ワイト「そう、死神」
ワイトの顔をまじまじと見つめ、何かを察するクロ。全てを諦めたような表情になる。
ワイト「まだ、立てそうにないかい?」
差し伸べられているワイトの手を取り、立ち上がるクロ。
クロ「あ、いえ」
クロ、ゆっくりと立ち上がった後、もう一度ワイトの翼と鎌を不思議そうに見て、不安そうな表情で言う。
クロ「じゃ、じゃあ僕はこれから、死ぬって事ですか?」
ワイト「いや、逆さ。君は生まれたんだよ」
ぼーっとしていた虚な目に、ワイトの言葉で光がともる。
クロ「・・・は?」
理解が追い付いていないクロの背中を、いたずらっ子のような顔で指さすワイト。
ワイト「背中、見てみ」
自分の背中を確認し、そこに生えた黒い翼を見て唖然とするクロ。
クロ「・・・え」
クロ、右手に握られている大きな鎌に気づく。
クロ「あ・・・」
その様子を見たワイトは、両手を大きく広げて歓迎する。
ワイト「そう、君は今日、死神として生まれたんだ!! おめでとう!!」
クロ、まるで神様にでもあったかのような、戸惑いつつもワイトから滲み出る神々しさに少し圧倒される。
クロ「・・・死神、僕が?」
ワイト「そう、君が」
クロM「何で僕が、死神なんかに」
ワイト「え? 何でって、生まれちゃったからとしか言えないよねぇ」
クロ、何かに気づく。
クロM「確かに、何で僕はおかしいと思ったんだろう。別に、何もおかしくない・・・僕は死神として生まれた、ただそれだけなのに」
内心でそう思いつつ、ぎこちなさそうに笑顔を作って応えるクロ。
クロ「そ、そうですよね・・・すいません」
ワイト「よっそよそしいなぁ、タメ口で良いよ。仲良くしてこ!これから一緒に仕事をする仲間なんだからさ!!」
ぎこちない笑顔で頑張ってタメ口で話そうとするクロ。
クロ「そ、そうですよね・・・よ、よろしく」
ワイト「うん、よろしく!!」
ワイトがクロに手を差し出す。
クロは少しはにかんだ笑顔で、ワイトの手を握り握手をする。
ワイト、満足そうな笑みを浮かべる。
ワイト「それでさ、君名前なんて呼ばれたい?」
クロ「名前、ですか?」
ワイト「うん、生まれたんだから必要でしょ?」
間髪入れず答えるクロ。
クロ「別に、何でも・・・」
ワイト、意味ありげに少しニヤリと笑う。
ワイト「じゃあ、クロにしよう!!決まりね!!」
クロ、露骨に微妙そうな表情になる。
ワイト、その表情を見て早口で言う。
ワイト「あ、嫌なんだねすぐ変えようか。うん」
クロ、めんどくさそうに言う。
クロ「いや、別に良いですよ・・・そんなこだわりないですし」
ワイト、一瞬安心したような表情になる。
ワイト「そっか、良かった」
ワイト、両手をパンっと叩き仕切り直して話し出す。
ワイト「さっ、なんかしんみりしてきたし。切り替えて死神の仕事について話そうかな!!」
クロM「え、そんなにしんみりしてたかな・・・」
ワイト「クロ、下を見てご覧?」
クロは地面にふっと目をやる。波打つ透明な床の向こうに、人間の街が地平線の彼方まで続いている。
クロ「これは・・・街?」
ワイト、説明を始める。
ワイト「そう、あれは人間の生きる世界、所謂現世だ。沢山の人間達が、人生を歩んでる」
クロ、少し嫌そうな表情で呟く。
クロ「人間・・・か」
ワイトは肩に担いだ鎌をクロの前に出し、鎌の先端を指で刺して言う。
ワイト「俺達は、寿命が来た人達が死の苦しみを味わう前に、この鎌で人の体から魂を刈り取る」
クロ、右手の鎌をグッと握りしめる。
ワイト、クロの背後にある三途の川を指差す。
ワイト「そして、刈り取った魂を三途の川に流す所までが、俺たち死神の仕事さ」
クロ「三途の川?」
ワイト「ああ、君が出てきたあの黒い滝みたいなやつ」
クロ、後ろを振り向き、ワイトと一緒に三途の川を眺見て驚く。
クロM「何だこれ、黒い水が下から上に流れて・・・」
ワイト「この三途の川が、俺たち死神にこれから寿命が来る人間を教えてくれる・・・俺は三途の川って呼んでるけど、他の場所ではセフィロトとかユグドラシルだとか、言われてる」
ワイトがそう説明した直後、三途の川の一端が木の枝のように細かく別れる。そして、枝分かれした小さな三途の川が、下界へとぐんぐん伸びて行く。
クロ「・・・あれは?」
ワイト「三途の川の枝。さっき行った、寿命が来た人を教えてくれる合図さ」
クロM「じゃああの先に、死ぬ人が・・・」
ワイト、背伸びをして三途の川の枝が向かった方へ歩き出す
ワイト「せっかくだし、ここからは実践で教えるよ。もっと詳しい話は、行きながらにでも話そう」
突然実践と言われ、少しテンパるクロ。
クロ「実践って・・・今から殺さなきゃいけないんですか?」
ワイト、翼を大きく広げる。
ワイト「そうだね、殺さないと人が苦しんじゃうからね」
冷や汗を垂らすクロ。
クロの方を振り向くワイト。
ワイト「さ、行こうか・・・人を殺しに」
〇都内某駅(朝)
電車を待ちながら、虚ろな目でスマホを触る女子高生あかね(序盤の女子高生とは別 17)。
髪型は、ショートヘアーにウェーブがかかっている。髪の色は茶髪(地毛)。身長は156程。体型は普通。
あかね「・・・」
あかねの並ぶ列の一番前で電話をする、洒落た服を着た詐欺師の男(30代前半くらい)が、静かなホームでは浮いた大声で電話をしている。
詐欺師の男「うん、君だけだよ・・・俺が安心できるのは」
ゆっくりと詐欺師の男に背後から歩み寄る、挙動不審な女(30代後半くらい)。
挙動不審女「う・・・ぎり」
挙動不審な女が横を通り過ぎ、異様な雰囲気に目が釘付けになるあかね。
あかねⅯ「うわ・・・なにあれ怖っ」
詐欺師の男「うん、また何か困ったことがあったらお願いしていいかな」
詐欺師の男のすぐ後ろに歩み寄る挙動不審女。
駅のホームに電車が入ってくる音で、挙動不審の女の声がかき消される。
当駅通過 快速。と書いてある電光掲示板が映し出される。
挙動不審女「い・・・たのに・・・」
挙動不審女が男を突き落とそうとするそぶりを、見せ驚くあかね。
あかね「・・・え?」
電車が来るタイミングで、悲痛に叫びながら勢いよく、詐欺師の男をホームから突き落とす挙動不審女。
詐欺師の男「うん、愛してるよ、み・・・」
挙動不審女「私だけって言ったのに!!」
詐欺師の男、電車の前に浮き出て、電車の運転手と目が合う。
その時、詐欺師の男の胸に三途の川の枝が突き刺さる。
詐欺師の男、状況が理解できず、えっとしか言えない。
詐欺師の男「えっ」
その様子を後ろで見ていたワイト、詐欺師の男を指さしながらクロに指示する。
ワイト「今だ、クロ!!」
クロ「はい!!」
クロ、勢いよく詐欺師の男の方へ飛び出す。途中あかねの隣を通り過ぎる。あかね、驚いてクロを目で追うが、他の人はクロに気づいていない。
三途の川の枝が刺さっている男の胸に、勢いよく鎌を振り下ろすクロ。
男を鎌で突き刺した鈍い感触に、クロは一瞬動揺し顔を歪める。
鎌を突き刺した瞬間、刺された男の胸から、まばゆい光が辺り一面を包み込む。その光に驚いて目をつぶるクロ。
クロ「っ!!」
クロの頭の中に、走馬灯が流れる。白い空間の真ん中で映画館の座席に座っているクロの周りを、映画のフィルムがグルグルと回るようなイメージが映る。
クロⅯ「・・・なんだ、これは、記憶が・・・感情が、頭に流れ込んでくる」
クロⅯ「これが、来る途中でワイトが言ってた、走馬灯‥‥‥」
〇男の回想(走馬灯)
詐欺師の男Ⅿ「世の中金がすべてだ」
〇父親の火葬場納骨所(夜)
父親の骨を泣きながら収骨する母親と、それを眺める詐欺師(少年)。
詐欺師の男Ⅿ「俺の大好きだった父さんも、俺がまだ小さかった頃に、会社の経営が立ち行かなくなったとか何とかで死んだ」
〇幼少期に過ごした少年の家(夜)
妙に綺麗な恰好で家を出ていく、詐欺師の男(少年)の母親(44)。
夜に一人でポツンと家に置き去りにされ、寂しそうに玄関を眺める詐欺師の男(少年)。
詐欺師母親「じゃあ、母さん行ってくるから、ちゃんといい子で待っててね」
詐欺師の男Ⅿ「そのせいで母さんも稼ぐ必要が出て、そばにいた家族はあっという間に、俺の元からいなくなった」
疲れ果てた顔で、質素な朝食を詐欺師の男(少年)と母親の二人で食べるも、疲れ切っている様子で詐欺師(少年)とは目を合わせず、突然泣き出す。
詐欺師の母「ごめんね・・・本当にごめんね」
悔しそうに唇を噛み締めて、一瞬つぶやく詐欺師の男(少年)の母親。
詐欺師の母「お金さえあれば・・・」
詐欺師の男Ⅿ「お金さえあれば、いつしか母さんの口癖になっていった」
〇詐欺師(青年)の一人暮らしをしているアパート
パソコンで、青川学院大学のホームページを眺める詐欺師の男(青年)。
詐欺師の男Ⅿ「俺だって、最初から世の中金だなんて本気で思ってたわけじゃない。夢なんてものを追いかけたことだってあった」
青川学院大学の校門の前を去っていく詐欺師の男(青年期)。手には奨学金案内のパンフレットを持っている。
校門には受験会場と書かれてある。
詐欺師の男Ⅿ「だが、夢をかなえるにも金が要る。その時だろう。世の中金だと悟ったのは」
夜遅くまで必死にバイトをする詐欺師(青年)。上司に叱られている。
詐欺師の男Ⅿ「人の為に労働した所で使いつぶされた挙句、金に泣くだけ。労働するくらいなら、他人から騙し取った方がまだましだ」
騙している女性とご飯を食べる詐欺師の男(青年)。
詐欺師の男Ⅿ「女と遊び放題で、金までもらえる。そんな毎日は、正直楽しくてしょうがなかった」
同じ遊園地、同じ服装で詐欺師がデートをしている。しかし別の女。
詐欺師の男Ⅿ「金のある清潔な男を装うだけで、こんなにも女が寄ってくる。悪くない気分だった・・・」
カフェで屈託のない笑顔で男に微笑みかける女性と、喫茶店でコーヒーを飲みながら、その女性の顔を盗み見る詐欺師の男。
詐欺師の男Ⅿ「純粋そうな女だった。騙しやすいと思った」
女性はにっこりと、詐欺師にまた微笑む。
詐欺師の男Ⅿ「でも、彼女は・・・いつも屈託のない笑顔を、俺に向けてきた」
少し照れた表情を、俯いて隠す詐欺師の男。
詐欺師の男Ⅿ「他の女と違う、金を持ってるだとか、イケメンだとか、有名人と知り合いだとか、そういうのじゃなく。心から俺との関係を大切にするような、純粋で本当に馬鹿な女」
カフェの席を立ち、それを追いかけようと立ち上がって、手を伸ばす詐欺師の男。
詐欺師の男Ⅿ「ああ・・・きっと俺も、こんな馬鹿みたいに生きていけたら、楽しかったんだろうなぁ」
回想終わり
視界に迫り来る電車が映る。
詐欺師の男Ⅿ「何だよ、これで終わりかよ・・・」
クロ、詐欺師の男が伸ばした手を掴もうと、必死に手を伸ばす。
その様子を見たクロは、とっさに助けようと、詐欺師の男の手を取ろうとする。だがクロの手は、詐欺師の男の手をすり抜けてしまう。
クロ「まっ・・・」
ゴシャっという鈍い音と共に、男の体は電車に突き飛ばされ、血がクロの体に降り注ぐ。
その血はクロに降りかかることなくすり抜け、男の後ろに並んでいた人達に降りかかる。
その光景にショックを受け、固まるクロ。
そして、次々に駅の人々は悲鳴を上げて行く。
駅の人々「き、きゃああああああああ!!」
ショッキングな出来事が起き、言葉を失ってその場に立ち尽くしているクロに、ワイトが必死に呼びかける。
ワイト「クロ!よけろ!!」
ワイトの声で、ハッと我を取り戻すクロ。
クロ「!」
クロの目の前に、突然巨大な黒い人型の怪物現れ、朧げにクロを見下ろしている。
〇クロの回想
都内上空。死神界から駅までの移動中。
クロ「未練?」
ワイト「そう、魂がなくなった体に残った生前の欲とか、思い残しみたいなもんが形となって襲ってくるんだ。死神から魂を取り戻すために」
クロ「未練・・・か、死ぬ時未練が残るのは、嫌だろうな」
ワイト「まあ、どんなに良い人生送った人でも、少なからず未練はある。俺たちにできることは、その未練を倒して、魂を楽にしてあげることだけさ」
〇回想終わり
クロⅯ「そうだ・・・僕が、この人の未練を倒すんだ!僕が、彼の未練を・・・」
怪物が視界に入った瞬間、恐怖で一瞬固まり、顔が引きつる。
直後、クロの右腕に強烈な違和感を感じ、朧げに右腕に目を移す。
クロ「!?」
クロ、右腕が怪物によって一瞬で引き裂かれたことを認識する。引きちぎられた腕の根元からは、大量の黒い血のようなものが噴き出している。
右腕は鎌を持ったまま、線路の向こうまで飛ばされる。
腕を抑えながら、痛みで絶叫するクロ。
クロ「ぐあああああああああ!!!!」
クロの悲鳴に呼応するように・・・不気味に未練も吠える。
未練「しにtくあああああああああーーーーーい」
クロ、未練の巨大な左腕に殴打され、右腕の方まで吹っ飛ばされる。地面に叩き付けられた衝撃で、口から黒い血反吐を吐き、もがき苦しむ。
クロ「ぐはっ!」
パニックが駅全体に広まる。悲鳴を上げ人々、スマホで撮影する人など様々。
駅にいる女性「いやあああああああああ」
騒ぎの中、地面にへたり込む挙動不審女。
挙動不振女「はは、はははは・・・ごめんね」
涙を流す挙動不審女。
挙動不審女「私に嘘つかなければ、裏切らなければ、ずっと一緒にいられたのに・・・ごめんね」
騒ぎ出して駅内が混乱してくる中、一人だけ固まってクロを見つめるあかね。
あかね「なに、あれ・・・」
地面に這いつくばり、声も出せず苦しむクロ。
クロ「あ・・・っ」
クロⅯ「た・・・たすけ・・・」
クロからとった鎌を持ち上げ、鎌に保管された魂を食らおうとする未練が、拙い言葉でしゃべる。
未練「sいntあkうない」
未練の言葉に瞳孔が開くクロ。
クロⅯ「はっ」
直後、一瞬で巨大な未練を、下から鎌で縦に真っ二つに切り裂くワイト。
ワイト「悪いね、」
左右真っ二つに切り裂かれた未練は人間の形を保てなくなり、どろどろと溶けて形状崩壊し、遂には真っ黒な水たまりと化してしまう。
その様を見つめて呟くワイト。
ワイト「・・・おつかれさん」
未練の残骸の黒い液体が、クロの元まで流れ、その液体がみるみるクロの体に吸収される。
飛ばされた右腕と鎌は、黒い液体の中へ溶けていく。
その液体を吸収したクロの右腕と鎌が、徐々に再生されて行く。
クロ「うっ・・・」
クロに近づいてくるワイトの顔は、未練の血で真っ黒になっている。
ワイト「ごめん、流石に厳しかったよな、一人で戦うのは」
右腕が完全に再生され、手には鎌が握られている。
クロ「・・・・・」
沈黙するクロに、困った顔をするワイト。
ワイト「ごめんな、気になることがあって、助けるの遅れちゃって」
クロ、小さい声でつぶやく。
クロ「・・・なんで」
ワイト「ん?」
絞り出すように、かすれた声でしゃべりだすクロ。
クロ「なんでこんな・・・僕には耐えられない」
クロの肩にポンっと手を置き、優しく言うワイト。
ワイト「・・・人を殺すのは確かに辛い。でも、大丈夫だ。いずれ慣れるよ」
クロ、肩に置かれたワイトの手を振り払って立ちあがる。
クロM「慣れる?」
◯回想
走馬灯を見るシーン。
クロの腕がちぎれるシーン。
クロM「あれに!?」
◯回想終わり
クロ「無理に・・・決まってる!!」
突然大声で怒鳴ったクロに、少し驚くワイト。
ワイト「・・・」
クロ、震えた拳を更に握りしめて言う。
クロ「・・・無理だよ」
ワイト、優しい顔でクロを見つめる。だが、クロは目を逸らして俯く。
ワイト「クロ、これは必要なことなんだ。人にとっても、死神にとっても。」
クロ、少し顔を上げてワイトの目を見る。
ワイト「死神の仕事は、人の為にやってるってこと、忘れないでくれ」
顔を俯き、呆れた笑いをするクロ。
クロ「っはは、何だよ・・・人の為だったら、腕を切られた痛みにも、耐えられるっていうのかよ」
ワイト、何も言い返さない。一コマの沈黙。
ワイト「・・・とにかく、今日は帰って休もう」
何も言わずこくりと小さく頷いた後、クロとワイトは、空に向かって飛び立って行く。
警察が到着するも、未だ混乱している駅構内。
駅員「皆さん、焦らず落ち着いて行動して下さい!」
警察官「線路から離れてください、そこ!撮影しないで!」
駅構内の人が男の死体に注目する中、たった一人だけ、空に飛び立つクロとワイトを見つめるあかね。
あかね「これは・・・夢?」
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