【01.義足生活となって】

 vol.022櫻井さんの未公開分インタビュー、まずは義足生活になった直後のことを中心にお届けします。

 櫻井さんが事故によって義足を使用するようになったのは、25年ほど前のこと。現在とはだいぶ障害や義足についての認識が違っていた時代だと思います。そんな中で櫻井さんが感じていたことなどを語っていただきました。
 さらに櫻井さんがリハの一環として歩き方をチェックする様子を動画で公開。映像を見ていただくと、義足での歩き方がどういうものか、よりイメージが湧くのではないでしょうか。

g:義足についてもう少し詳しくお伺いします。切断当時の義足は今と違って、断端が痛くなってしまうようなものだったそうですが。

櫻井: そうですね。今はシリコンライナーという柔らかい素材のものを中に履いてるので、傷ができたりはしないんですよ。ただその当時はプラスチックの固い2重ソケットの中に断端を入れていたので、痛かったです。断端に布を巻いて、その2重ソケットの中に入れて、ソケットの反対側に穴が開いているのでそこから布を引っ張って、断端を奥まで入れていくんです。ぎゅうぎゅう引っ張って、隙間ができないように足を詰めていくんですけど、それがすごく大変で。それにそのソケットはどうしても断端の縁に体重かかるんで、傷ができるんです。縁が固いので、歩いてるうちに擦れて断端が傷だらけになってしまって。今はシリコンライナーがあるから傷にはならないですけど、以前は長くは歩けなかったですね。ちょっとでも長く歩いたら、もう痛くて痛くて。

g:それでも義足がないと歩けないので履くしかないと。そういう義足生活になった後でご結婚、子育てを経験されたんですよね。

櫻井:はい。でも救急車の中では「ああ、もうこのまま一生結婚できないかな」と思っていました。

g:なぜそう思われたんですか?

櫻井:まだ今みたいな世の中ではなかったですよね。今は義足の方が表に出ることも特別ではないですし、皆さんの認識もだいぶ変わったと思うんですけど、25年前は病院の中で義足を抱えて車いすに乗っていても、皆が振り返って見るような状況でしたから。だから隠していたんですよ、義足を見られないように。そうしたらその時の理学療法士さんに「これから義足で暮らすんだから、隠してちゃだめだ」と言われたんです。そうは言われてもね、隠す気持ちはずっとあったと思います。パンツスタイルだとシルエットが出てしまうので、長いスカートを履くとか。

g:義足だと知らてしまったら恋愛や結婚に差し支えがあると思っていたんですね。

櫻井:そうですね。たまたま以前の知り合いに「実は事故にあって義足になりました」と言ったら、その方たちがすごいショックを受けてしまって。「聞かなきゃよかった」と言われてしまったんですよ。「そんなにショック受けられても」と、私の方がびっくりしてしまって。 実際にそういう話も聞いたんですね、「結婚しようと思っていた相手の親に猛反対されて、ダメになってしまった」と、年上の女性の話なんですけど。「やっぱり障害者になってしまったら反対されるよね」と思っていました、相手の人も大変かなとか。負担がありますよね。しゃがめないのでお風呂の掃除もできませんし、今でこそだいぶ歩けるけど当時はまだ足も痛かったし、歩くと断端に傷ができてしまうような義足だったから出かけられる場所も限定されるし、出来る事が限られていたんですよ、今に比べると。

g:でもその後、ご結婚なさるんですよね。

櫻井:同じ境遇のいろんな年代の方にお会いするんですけど、その中ですごく素敵な方に出会ったんですよ。80歳ぐらいの方で、戦争で足を無くされたらしいんですけどね。「私、本当に義足になってよかった」って言うんです、その方。 それが本当に衝撃で。「そんなこと思ってる人いるの?」って。それまでそんな人に出会ったこともなかったし、自分でもネガティブな面しか見ていなかったんです。だけどその方は「義足のおかげで本当に素敵な人にたくさん出会えた」とおっしゃっていて。人のいろんな優しさに触れられて、幸せに結婚できて。だから悪いことだけじゃなくて、物事には良い面と悪い面と両方あるから、良い面を見れば確かにそうだなって。この幻肢痛交流会もそうですけど、同じ義足の方々と出会えたのも、そうじゃなかったら出会えていないし。やっぱり乗り越えてきた方たちって魅力的だし、同志みたいな気持ちがあって。そういう方たちと話しているとわかり合えるというか、ポジティブに考えられるようになりました。

g:さまざまな方たちとの出会いやご縁があって前向きになれたんですね、恋愛や結婚に対しても。


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櫻井:できない事が多くなったので、一人で生きていくのも大変ですし。だから結婚できたのは良かったと思います。

g:人に頼る事も必要ですよね。大事だと思います。

櫻井:でも(私との結婚を)親に言うのを、すごく悩んではいたみたいですけどね。

g:そういう時期も経験しつつ、人生の半分近くを義足で生活されてきて、 今はもう慣れというか、義足での生活が当たり前になってしまって、日々意識することもあまりないのかなと思うんですけど。今もそうやってひじ掛けにしているくらいですけど(笑)もう人目は気になりませんか。

櫻井:あえて外すことはないですけど、数日前に銀座のカフェにいたら義足が外れて落ちちゃって。ドーンと足が落ちてしまって「あ、まずい」と思ってそーっと拾って気づかれないように履きました。

g:さすがに気づかれているんじゃないですか ?

櫻井:周りの人はわかったかもしれませんね。見てびっくりした人はいたと思いますけど。気づかないふりをしていました(笑)。以前だったら「まずい!」って本気で焦ったと思うんですけど、今はそれくらいいいや、みたいな感じです(笑)。

g:もう櫻井さんにとって義足であること、それが周りの人にわかってしまうことはあまり気にしていないんですね。

櫻井:飛行機の中とか、長時間だと人目がある場所でも外したりもしますね。そういう人は多いと思います。


今回はここまで。
次回は幻肢痛についてのお話をインタビューを開していきます。
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