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音楽への愛「しか」感じない「スカムミュージック」の沼にハマる。

「スカムミュージック(Scum music)」の「スカム(Scum)」とは、「灰汁」や「不純物」という意味で、転じて「クズ」「ゴミ」みたいなニュアンスでスラングっぽく使われている言葉である。

要するに「スカムミュージック」とは「クズ音楽」のことである。別名「モンド(奇怪な)ミュージック」とも。

一般素人の自己満足および身内配布用の自主制作レコードやカセットテープやCDなどが、「稀少盤」「レアグルーヴ」として市場に出回り、面白半分と恐いもの聴きたさでなぜか人気となり、高値になったり一部音楽マニアに支持されたりする現象が音楽界には存在する。

ダニエル・ジョンストンやジャンデックのように、単に本当に知名度が低かっただけで、発見・発掘された途端にアウトサイダーアートとしてオシャレに消費されはじめることもあるのだが、そうではなくて、オシャレに消費される余地がないほど本当に完成度的にどうしようもない音楽の「どうしようもないクズ加減を愛でる」カルチャーがあるのだ。

これは音楽に限らず、たとえば映画の分野にも、WHDジャパンやコンマビジョンが熱心に販売しているようなクソ映画を愛でる、という似たようなカルチャーがあったりする。

このクズ音楽を愛でる・評価するという文化はおそらく、フランク・ザッパとカート・コバーンが半分本気半分おふざけで「ザ・シャッグス」というバンドに言及し、フェイバリットとして紹介したことに端を発している。

Philosophy of the World (1969)/ The Shaggs


ザ・シャッグスの1stアルバム『Philosophy of the World』よりタイトル曲。
このアルバムは「娘たちは音楽で大成功する」という祖母の予言を真に受けた父親が、楽器未経験の三姉妹に無理やり楽器を持たせて結成したバンドで無理やりレコーディングを敢行したアルバムであり、「スカムミュージックの始祖にして金字塔」として知られる作品である。
たしかに聴いてるうちに前衛音楽みたいに聴こえてこないこともないが、もちろん単純に「表現したいことに対して圧倒的に技術が足りてない」だけである。

このザ・シャッグスの発見は、「スカムミュージック」発掘文化の口火となった。

歌が下手、演奏が下手、歌詞がダサい、アレンジがダサい、勘違いが突き抜けている等々...それらの要素の総合力をもって「いかにクズ音楽か」が音楽マニアの間で吟味され、比較され、クズであればあるほど愛される、という真っ当な音楽ファンにはおよそ理解不能なカルチャーが誕生したのである。

とにかく音楽が好きで好きでしょうがなくて、「いやいや...」「やめとけやめとけ」という周囲の冷静な静止を振り切ってレコーディングまで漕ぎ着けたスカムミュージックのアーティスト達のバイタリティと純粋さを、愛でて、保存し、伝承する使命感みたいなものが、スカムミュージックファンにはある。

スカムミュージックのアーティスト達には技術も、才能も、テクニックも無い。
逆に言えば、見栄も、打算も、説教くささも無い。

あるのは音楽に対する愛「だけ」である。

削ぎ落とされた「音楽愛だけ」が、聴く人の胸を打つ。それがスカムミュージックの最大の魅力なのである。

それでは、個人的にオススメのスカムミュージックナンバーをご紹介。

Jailhouse Rock(1998) / Eilert pilarm

スウェーデンのモノマネ歌手、エイラート・ピーラムがカバーした「監獄ロック」。
破滅的な音程とリズム感の悪さで、他の追随を許さぬスカムっぷりを披露。最高。


Livin' in the Sunlight, Lovin' in the Moon light(1968) / Tiny Tim

タイニー・ティムは日本での知名度は低いが本国アメリカではかなり著名な歌手。この曲が収録されたデビューアルバムも全米7位のセールスを記録するほどだった。
ウクレレ演奏に怪しげな裏声歌唱という本気か冗談かわからないキャラクターと音楽性で1960年代末期のアメリカでイロモノスター的な人気を博した。


Tommorow May Never Come (1989)/ Joe Tossini and Friends

ニュージャージー州のド素人SSWジョー・トッシーニがたまたま地元のクラブで知り合ったセミプロミュージシャンたちを召喚しレコーディングした自主制作盤より一曲。
オリジナル盤は200ドル越えというモンド/スカムミュージックマニアの間では垂涎のレア盤。
ヨレヨレの歌声にチープな演奏と打ち込み、唐突なリズムチェンジ。全編に流れる緩すぎる空気感は、「インディAOR」や「インディラウンジ」のような有りもしない造語を作らないと語れないほど唯一無二。


It's Alright(1976) / Chuck Senrick

オリジナル盤は200枚しかプレスされておらず取引価格は500ドル越えだったというミネソタ州出身の無名鍵盤奏者の激レア自主制作盤より一曲。
どのレコード店のレビューでも「ヨットロックの隠れた大名盤」とか「AORの隠れた大傑作」とか、隠されてばっかりである。
アルバム1枚を通して聴くとよくわかるが、「あれ?俺スキップしたよね?」と疑うくらい全曲一辺倒な曲調と歌声のアルバム。5万円は音楽マニアのおふざけが過ぎる。
まぁ今回紹介する曲の中では一番音楽として聴けるレベルなのだが、逆にあらゆる面で足りてない感じが目立つ。
身内や知り合いにはギリギリ褒められていそうな、めっちゃ下手くそとは言えない完成度が逆にリアル。


Stout-Hearted Men / Shooby Taylor

「世界で最も奇妙なスキャットシンガー」と評されたジャズボーカリスト、シュービー・テイラーより一曲。
「これで正解?」と聴く人が不安を抱くほど音程と起伏と情緒が不安定なスキャットスタイルはインパクト抜群でクセになる。



Let's Go Party / K.Lewis

アーティストに関しても楽曲に関しても、ネット上に情報がまったく見当たらない音源。
曲名が皮肉にしか思えない、パーティーに向かう気分を一瞬で萎えさせるような破壊力抜群のスカムっぷりに心を撃ち抜かれる。



やはり全ての曲に共通しているのは、「自分の才能に見合わないほどの音楽愛」であり、「他人に何と言われようと音楽をやりたい!」という想いとパワーは、尊ばれるべきものだと私は思う。

音楽への愛が少ない人が小手先のテクニックだけで作る小器用にまとまった音楽よりも、よっぽど魅力的である。

あなたもぜひ、スカムミュージックが醸し出す音楽愛に浸ってみてほしい。

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