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中東地域の家族形態──鹿島茂のN'importe Quoi!「前回のおさらい」

ゲンロンの楽屋から

最近通勤途中にちらほらと海外からご旅行かな?という感じの方を見かけることが多く、そのたびに遠くへ行きたい、という思いを募らせているゲンロンスタッフの野口です。
なかなか海外へ旅行することが難しい昨今ではありますが、「人生で一度は行ってみたい地域」ってありますよね。僕は小学生か中学生の頃、今で言うところのラノベの走りだったという定金伸治さんの『ジハード』や、その後長く読むことになる塩野七生さんの『コンスタンティノープルの陥落』などを読んで以来、中東にも一度は……と思っていて、トルコまでは行ったのですが、まだまだイスラエルやレバノン、あるいはイラン、イラクなどはいろんな意味で遠く……自由に、そして安全に世界を旅できる日々がやってくることを願ってやみません。

さて、そんな中東地域の家族形態について考察した8月23日放送の「中東地域の家族形態【家族人類学入門──トッド理論の汎用性・第8講】」をおさらいしましょう。

家系図を書きながらの解説。今回の講義もホワイトボードが大活躍です。


1.そもそも「内婚」と「外婚」とは?

さて、まずそもそも中東地域は本講で言うところのトッドの第一理論、つまり『世界の多様性』の中では「内婚制共同体家族」として分類されていました。他方、これまでに見たロシアや中国は「外婚制共同体家族」。この「内婚」と「外婚」の違いを一言で言うと、「1つのムラや部族の中での婚姻が是か否か」となります。つまり、中東地域は「共同体家族」で、かつ「1つの村や部族の中での婚姻が奨励されている=内婚制を取っている」地域、と分類されました。

しかし、おなじ「ムラ」や「部族」と言ってもどの範囲までが含まれるかは地域によってさまざま。そこで、レヴィ・ストロースの家族人類学では機械的に「いとこ婚」の可否で分けることにしました。日本は法律上も「いとこ婚」はアリなので、内婚制の社会、ということができます。さらに、いとこ関係にも「平行いとこ(父方の兄弟の子、母方の姉妹の子)」と「交差(交叉)いとこ(父方の姉妹の子、母方の兄弟の子)」という考え方があり、ある地域では父方の平行いとことの結婚は奨励されるが、母方の交差いとことの結婚は禁止されているが、別の地域ではその逆……など様々なルールがあります(こういった、特定の血縁関係者との婚姻が望ましい、という婚姻形態を「選好婚」と呼んだりします)。

さまざまな学問が持つ「分け方」の背景を知ることも、また重要なこと。


2.内婚制共同体家族とイスラム教の親和性

その後の第二理論……『家族システムの起源』では、中東地域の分類について大きな変更は加えなかったものの、他の地域と同じように居住形態での分類も行うようになります。中東地域は父方居住の内婚制共同体家族と考えられました。
父方居住の内婚制共同体家族と外婚制共同体家族の違いの1つに、共同体の長となる一番上の「父」の権力の強さがあります。強力な権威として「父」が存在し、外婚制共同体家族に対し、内婚制共同体家族ではむしろ兄弟間の連帯が強く、父の権威は比較的弱い、と考えられています。

さて、この内婚制共同体家族が拡がる地域は、イスラム教が定着している地域とほぼ一致します。ゆえに、イスラムの教えがこの家族形態を導いた……と考えるのではなく、トッドは、むしろこの家族形態とイスラムの教えに親和性があり、その範囲においてイスラム教が広がったのだ、と考えました。そのポイントはキリスト教と比較したときの宗教組織の違いなど、いくつかあるのですが、そのあたりの解説は、ぜひ放送でお確かめください!


3.中国の分析結果を応用する

エマニュエル・トッドは中東地域に取り組むに際して「中国地域で打ち立てた理論が中東でも適用できるか?」を検証する、という形で研究をすすめました。つまり、周縁部の保守性原則をもとに、中央に父方居住を規則とする地域があると仮定し、その周りに双処居住や母方居住を規則とする地域を探し、さらにそこが核家族の形態を取るのか共同体家族を取るのかを調べ、残っていればそこかその文化圏の周縁部、と突き止め……ということを繰り返していくのです。

『家族システムの起源』の図版も参照しながら講義を進めていただいています。

では中東地域でも同じように周縁部に双処居住や母方居住の核家族が残っていたのでしょうか?トッドは、この長い歴史を持つ地域を調べていくにあたり、まずは「近年」を対象に調査を進め、その後「古代」へと遡る、という方法を取ります。結果、はっきりと形に残っているわけではないが、母方居住の核家族の残存だろうと考えられる要素……「残留性」をいくつか発見します。例えばシーア派での女性相続、トルコやイラクのほうには末子相続の痕跡なども見て取れるのだとか。

先ほど述べた通り、トッドの研究は古代の歴史を追う方へと進めていきます。世界史の授業で習った「ハムラビ法典」や「シュメール」「アッカド帝国」といたキーワードが並ぶ時代までさかのぼっていきます。
これらの時代においても、中東地域は文字資料が粘土板に残されていたこともあり、文献資料が多く残っている地域。その文献資料には「誰それにいくら金銭を貸した」であるとか「Aさんは相続で兄弟たちにこういう配分をした」といった記録も多くあったそうです。一般的な歴史学においてはあまり役に立たないと思われるような内容かもしれませんが、トッドとすれば宝の山!ここからトッドは直系家族の発生につながる長子相続制がシュメールの時代に発生したことなどを突き止めていきます。

さて、6月に中国の秦における共同体家族の成立の経緯について検討をした際、その背景に魯などからの直系家族的な影響に加え、匈奴などn遊牧民族の家族形態からも影響も受けていたのではないか、というお話がありました。

では、中東地域でも共同体家族が成立するにあたって、シュメールで発生し、バビロニア王国やアッカド帝国などで成立していった直系家族に、同じように遊牧民が影響を与えたのでしょうか?その痕跡についてトッドは、「兄弟の平等性を持った遊牧民」は見つかっておらず、はっきりとしたことは言えない、としています。
鹿島先生は梅棹忠雄さんの遊牧民に関する考察を引き、中国における都市と敵対的な遊牧民と、中東地域における都市に依存した遊牧民という特徴の違いがあるのではないかと分析します。


4.平等分割に見る「普遍性」の原理

その後、講義は中東地域におけるエジプトの特殊性の解説に続き、共同体家族や平等主義核家族における「平等原理」から導かれる「普遍性」についての議論に移っていきます。

「個々の事情や理屈、感情はさておき、ともかく平等に相続するのだ」という考え方はある意味ではとても反自然的な行為だといえます。こういった人間全体に原理を当てはめることで「普遍性」が実現するのだとすれば、確かにその社会は平等かもしれませんが、例えばその社会において「特定の人々だけが持つ習慣」は認められるでしょうか?平等原理を持つエリアとしてフランス(平等主義核家族)を例に挙げながらの鹿島さんの解説は、社会の平等とは何か、多様性を認めるとはどういうことなのか、深く考えさせられるものでした。

ホワイトボードに書かれたフランス共和国憲法の魂、"une et indivisible"=1つにして不可分。
その言葉の意味を考えさせられます。

さて、そんなトッド理論をもとにした講義、次回の開催も明日9月27日(火)19:00~に迫っています。明日はいったいどんな話が聞けるのか。そしてどんなことを考えるのか。どうぞお楽しみに!


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