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ロシア、中国の共同体家族――鹿島茂のN'importe Quoi!「前回のおさらい」

みなさんこんにちは、ゲンロンスタッフの野口です。日ごとに暑さが増し、ややぐったりな感じがするなかで、モンゴルに旅行に行かれた方の投稿をTwitter上で見かけました。

いいなぁ、夏のモンゴル……私はモンゴルに行ったこともなければ、近所のモンゴル料理屋さんにたまに行く、気分をアゲたいときにモンゴルのヒップホップを聞くぐらいなのですが、いつかは行ってみたい国の一つです。

ということで、今回はそんなモンゴルも重要なファクターになっている、6月28日放送の「ロシアと中国の共同体家族【家族人類学入門──トッド理論の汎用性・第6講】」のおさらいです。

この日の放送は弊社のオフィスからお届けしました!

1.共同体家族は新しい?

この日の講義は、エマニュエル・トッドの最新刊『第三次世界大戦はもう始まっている』のお話からスタート。本書は、ロシアや中国、インド、イスラム圏などを中心とする「共同体家族」と、アメリカ、イングランドを中心とする「絶対核家族」の対立を分析の核として話が進んでいます。
そして、その中でもポイントとなるのは「共同体家族」の誕生。これまでの家族理論においては古いもの、とされてきたこの家族形態について、トッドはヨーロッパにおいては12~13世紀ごろに広まった、新しいタイプのものだ、と分析しています。

なぜでしょうか。トッドは家族形態の「不自然さ」……どれほど人工的、人為的な要素があるか、と言い換えてもいいかもしれませんが、その度合いが強いほど、家族形態としては新しい、と考えます。
トッドが第2理論において、「居住規則」を分析のモデルに加えた際に導入した「ナチュラル・サイクル(末子相続制の双処居住)」を不自然さレベル0としたとき、不自然さの度合いをもとに、以下のように分類できます。

レベル0 ナチュラル・サイクル、末子相続
レベル1 父系原理、長子相続
レベル2 直系家族(結婚後、兄弟の1人だけが親と同居)
レベル3 共同体家族(すべての兄弟が結婚後も親と同居)

トッドはレベル2までは自然に導かれるが、レベル3に至るには何か人工的な飛躍が必要になる、と分析します。前回の講義でドイツ騎士団領において、北方の貧しい土地の開拓を行う中で長子相続成立していった経緯をみましたが。開拓できる土地に限界を迎えればここまでは成り立つのに対して、結婚後もすべての兄弟が親と同居し、しかも遺産は平等に分割する、しかし父親の権威が強い、という共同体家族の形態はかなり人工的な要素が強い。ゆえに家族形態としては新しいものだと分析したのでした。

2.共同体家族はどこから来たか?

では、この共同体家族は前述のように12~13世紀のヨーロッパがその始源なのでしょうか?トッドは中国において共同体家族は発明された、その発明者は秦の始皇帝である、といいます。

古代中国における儒教の誕生・広まりは直系家族の形態がすでに成立していたことを表していると考えられます。孔子はブライダル学院の先生だ!と鹿島さんが例えたように、「礼」を重んじる儒教では、長子相続が重んじられ、父親の権威が強調されていました。
その孔子が若年時と晩年に仕えた魯の国を含め、中国統一を果たした秦の始皇帝。焚書坑儒によって儒教も弾圧し、直系家族を否定。それまでの長男が絶対!という兄弟関係が否定され、平等意識が拡がり、結果共同体家族も……と考えるのは、やや強引ではないか?と鹿島先生は分析します。仮にそうであったとしても、秦がどうして共同体家族になったのかを考える必要がある、と。

そこで鹿島先生が立てた仮説のポイントになるのが、秦という国を取り巻く地理関係。春秋戦国時代の各王朝のなかでも西域に位置し、遊牧民族との接点が多かったであろう秦は、魯などからの直系家族的な影響だけではなく、この遊牧民族の家族形態からも影響も受けていたのではないか、と考えます。
では、遊牧民族の家族形態とはどんなものだったか。それは、兄弟が家を独立した後も、一定のバンド(地帯)の中に暮し、財産は共同に分割するという「統合核家族」と呼ばれる形態をとっていました。
ここにいたって、父親の権威が強い直系家族的な要素と、兄弟間は平等という統合核家族的な要素が出会い、それらの要素をあわせ持つ、共同体家族誕生への道筋がが見えてきます。

そして中国で発明された共同体家族は、チンギス・ハンの時代などを通して中央アジアからヨーロッパ、ロシアの前身であるノヴゴロドへと拡大していったと考えられるのです。

3.共同体家族の特徴

さて、ここまでのおさらいでは、共同体家族に関する内容だけをまとめてきましたが、ここでは紹介しきれない様々なお話がありました。いくつか挙げてみると、

・上流階級と中産階級で家族形態が異なる「二重制国家」
・現代のフランスにおける上流階級の結婚”財産”契約。そしてフランスにおける宗教的実践の変化
・日本の大家族地帯としての白川郷のあたりの暮らしと共同体家族の違い
・イングランド型の絶対核家族と共同体家族における「平等」の違いと、「共同」しても「平等」ではない日本的な感性
・核家族システムにおける国家的統合の難しさ
・中国の「イエ」と日本の「イエ」の違い

などなど……
なかでも今回の講義のテーマである「共同体家族」については、その宿命としての膨張性……兄弟で平等に分割するために、分割に耐えうるだけの財産・土地を得るための傾向があることや、共同体家族の歴史が長い中国とロシアにおける女性の地位の違いなども大変興味深い内容でした。

最後にロシアにおける共同体家族の特徴が表れている文学作品として、鹿島先生からご紹介いただいたのは『静かなるドン』(日本では『静かなドン』として本が発売されています)。ロシアの小説家、ミハイル・ショーロホフによるロシア革命期のコサックたちの物語です(ヤクザ漫画ではありませんよ!)。そのタイトルである「ドン川」は、いま世界でもっとも注目される、ドネツク地方の傍を流れ、アゾフ海から黒海へとつながっていく川でもあります……。

※映画もあるようですが、いまDVD以外で視聴するのは難しそうです……

※参考までに、『ゲンロン7』やゲンロンαにも寄稿いただいている平松潤奈さんの『静かなるドン』に関する論文も、ネットでいくつか読むことができます。

4.次回放送は東南アジアの家族形態!

今回のおさらいはここまで。次回は明日7月26日(火)19時から放送予定です。テーマは東南アジアの家族形態。トッド第一理論で言われた絶対核家族、平等核家族、直系家族、共同体家族それぞれの分岐のもととなる「起源的核家族」が残る地域とも言われます。
いったいどんな傾向が見られるのか。じっくり考えていきましょう。


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