『新復興論』 「はじめに」試し読み

第18回大佛次郎論壇賞受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2019第四位。

震災から七年、復興は地域の衰退を加速しただけだった――。
希望を奪い、コミュニティを分断する公共投資。原発をめぐる空回りする議論。賛成と反対、敵と味方に引き裂かれた日本で、異なる価値観が交わる「潮目」をいかにして作り出すのか。福島県いわき市在住のアクティビストが辿り着いたのは、食、芸術、観光によって人と人をつなぐ、足下からの「地域づくり」だった。「課題先進地区・浜通り」から全国に問う、新たな復興のビジョン。
本書「はじめに」より、内容の一部をご紹介します。

新復興論


様々な議論が二極化する福島において、「観光」という概念は、より重要性を増しているように思う。観光は、より遠くにいる人たちを切り捨てない。ふまじめな人、物見遊山の人、勘違いしている人や、もしかしたら偏見を持っている人すらも切り捨てることはない。賛成/反対、食べる/食べない、帰る/帰らない、県内/県外、支持/不支持、様々に二極化される福島だからこそ、外部を切り捨てない観光という概念は、今、もう一度再起動されるべきだと私は感じている。

(……)

 観光は常に外部へ扉を開く。同じように、思想もまた外部を切り捨てない。一〇〇年後、二〇〇年後を考え、「今ここ」を離れて思考が膨らんでいくものだ。地域づくりもまた、そうあるべきではないだろうか。ソトモノやワカモノ、未来の子どもたち、つまり外部を切り捨ててはいけない。今ここに暮らしている当事者の声のみで、地域をつくってはならないのだ。

 私がこの浜通りで見てきたものは、現場における思想の不在であった。一〇〇年先の未来を想像することなく、現実のリアリティに縛り付けられ、小さな議論に終始し、当事者以外の声に耳を傾けようとしない。いつの間にか防潮堤ができ、かつての町は、うず高くかさ上げされた土の下に埋められてしまった。復興の名の下に里山が削られ、ふるさとの人たちは「二度目の喪失」に対峙している。被災地復興は、いわば「外部を切り捨てた復興」でもあったのだ。これから地域づくりに関わる人は、こんなことを繰り返してはいけない。歴史を紐解き、批評的な視座を地域に持ち込み、一〇〇年、二〇〇年先を見据えながら、それでもなお地域の人たちと、泥臭く、膝と膝を突き合わせて、楽しく地域の未来を考えて欲しい。

(……)

現場に関わる私たちは、だからこそ一旦小さな利害を離れ、自分たちの現在位置を探るために、先人たちや知識人たちの膨大な知に触れながら、未来に向けて自らの羅針盤を修正していかなければならないのではないだろうか。本書は、まさにそのような、思想と地域、思想と現場を行き来する人たちのためにこそ書かれる。(続きはぜひ書籍でお読みください!)


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小松理虔(こまつ・りけん)
1979年いわき市小名浜生まれ。ローカルアクティビスト。いわき市小名浜でオルタナティブスペース「UDOK.」を主宰しつつ、いわき海洋調べ隊「うみラボ」では、有志とともに定期的に福島第一原発沖の海洋調査を開催。そのほか、フリーランスの立場で地域の食や医療、福祉など、さまざまな分野の企画や情報発信に携わる。共著本に『常磐線中心主義 ジョーバンセントリズム』(河出書房新社)、『ローカルメディアの仕事術』(学芸出版社)ほか。初の単行本著書である『新復興論』(ゲンロン)が第18回大佛次郎論壇賞を受賞。2019年9月より『ゲンロンβ』にて「当事者から共事者へ」を連載中。


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