「休みを取るのは当たり前」労働環境改革を進める、一飲食店の挑戦
玄品は、3年前に労働環境の改革に踏み切りました。それは、規定された年間休日の徹底取得です。
今回は勤怠管理などの労務を担当する、経営支援本部 課長の藤井 裕一朗(ふじい ゆういちろう)さんに、以前までの働き方や改革に挑んだ想いについて伺いました。
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[取材・執筆・校正]
株式会社ストーリーテラーズ ヤマダユミ
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社員全員の年間休日取得を徹底
近年、玄品では休みを取りやすい環境作りに取り組んでいます。藤井さんは社員全員が規定の休日数をしっかり取得するよう、社内で働きかけてきました。
そんな藤井さんですが、かつてはほとんど休みを取らず、無茶な働き方をしていたことがあるといいます。なぜ今、労働環境改善に向け、旗振り役として力を注いでいるのか。その真意に迫りました。
当然ながら休めなかった繁忙期
玄品との出会いは、藤井さんが「玄品」の前身となるふぐ料理店で、アルバイトを始めたことがきっかけでした。仕事に慣れてしばらくすると、藤井さんはあることに気がついたといいます。それは、「ふぐ料理店は季節によってまったく忙しさが異なる」ということでした。
ふぐの旬である冬場には、夏場よりもはるかに多くのお客様がいらっしゃいました。藤井さんはアルバイトながらも、繁忙期はなかなか休みが取れなかったそうです。
「毎日休みなく働いていましたが、まったく苦ではありませんでした。店長やスタッフは家族のように接してくれていて、私にとってお店は『第二の実家』のような場所になっていたからです」
3年間働き続け、リーダーも任されるようになった藤井さん。卒業が近づいた頃には、「このまま一緒に働かないか?」と社員から誘いを受け、玄品に入社することにしたのです。
入社1年目、藤井さんは「一番忙しい」と評判の大型店舗に配属されました。昔から飲食業界は慢性的な人手不足に悩まされており、休みが取りづらいといわれています。玄品も例外ではありませんでした。
「夏場は週に1回休みが取れましたが、冬場は4ヶ月くらいずっと休めませんでした。あのときはさすがにしんどかったですね…」
その状況を心配した他店舗の店長たちが、自分の休みを返上して、お店を手伝いにきてくれたこともあったそうです。
「『若いスタッフを休ませてあげたい』という気持ちがうれしかったですね。その日は倒れ込むように一日中爆睡していました(笑)」
アルバイト時代の経験が認められ、藤井さんは2年目には店長に就任しました。当時は独身の一人暮らしで趣味もなく、お店と自宅を往復するだけの日々。数少ない休みの日ですらお店に顔を出すほどで、「趣味は仕事」といってもいい状態でした。
子どもの一言で、休日の重要性を痛感
仕事中心の暮らしをしていた藤井さんでしたが、入社6年目にこれまでのワークスタイルを覆す出来事が起こります。それは、都内にある浅草店の店長に就任したときのことでした。
異動して早々、勤務シフトを組んだ藤井さん。すると、案の定人手が全然足りませんでした。仕方がないので、藤井さんはいつも通り、自分を含めた社員の休みを削ってシフトを調整したといいます。
ところが…
「『店長!こんなシフトあり得ないですよ!』とほかの社員達から猛反発を受けたんです。
それまで私は『人手が足りなければ、社員が休みを返上して補う』ことは、ごく当たり前のことだと思っていました。歴代の先輩方がそうやって対応している姿を、この目で見てきたからです。
でも、社員達にものすごい剣幕で抗議されたときに、『これって当たり前じゃなかったんだ』と衝撃を受けました」
当時、世間では「労働環境改善は当然のもの」という認知が広がっており、かつての古い考えに理解を示すスタッフはもういなかったのです。
「社員の休みを削るんじゃなくて、今いる人員で営業できるよう采配していくのが、店長の仕事でしょう!?」
そうスタッフに意見され、藤井さんは店舗の運用体制について、考えを改めるようになりました。
その後、藤井さんは店舗を統括するエリアマネージャーに昇進。プライベートでは結婚と子どもの誕生を経験し、そのときになってはじめて休日の重要性に気がついたといいます。
「子どもが少し大きくなった頃、『(土日に)パパと遊びに行きたい!』というようになったんです。でも、週末はかき入れどきなので、仕事を休むわけにはいきません。
『ごめんね。パパはお仕事だから一緒に遊びに行けないんだ』と返事をした瞬間、目に入ってきたのは子どもの寂しそうな顔でした。
『休みの日にパパと思いっきり遊びたい』という、子どものささやかな願いを叶えてあげられない。歯痒さが込み上げてくるのと同時に、家族に対してものすごく後ろめたい気持ちになりました」
それまでは、「お店が忙しいなら残業や休日返上は当たり前」と思っていた藤井さん。でも、それは独身だからできたことなのだと思い至りました。家族がいる社員は少しでも早く帰りたい。休日は家族と一緒に過ごしたい。そう思うのは当然のことだと痛感したのです。
思えば、浅草店で抗議してきた社員達は、藤井さんよりもずっと年上の方ばかりでした。
「家族のことを思って意見していたのかもしれない」
社員たちの気持ちがやっと理解できた瞬間でした。
「休日はしっかり休む」社内文化を醸成
3年前に、前任者からの推薦で経営支援本部に異動した藤井さん。そこで最初に着手したのは、社員全員の年間休日数の徹底取得でした。
「一般的に、飲食店は休みが取れないところが多いです。でも、満足にプライベートの時間を取れなければ、せっかく入社してくれた社員も離職してしまいます。当然ですが、新たな社員も入りたがらないでしょう。
私が入社した頃は、休みが少なくても働き続けるのが当たり前でしたが…もうそんな時代ではありません」
2018年に厚生労働省が公表した調査によると、飲食サービス業1社あたりの平均年間休日総数は97.1日。他業種はすべて100日を越えていることから、業界全体として休日数が少ないことが伺えます。
「恥ずかしながら、労務業務に携わるようになってはじめて、休まないことが法律違反だと知りました。
元々社内では、責任感ある役職者たちが、皆休みたがらない傾向があったんです。でも、上司が休まず働き続けている姿を見たら、部下たちは昇進したがりません。
会社にとってプラスとはいえない慣習をなくすため、休日はしっかり休んでもらうよう、一人ひとりに働きかけています」
「人が足りないなら、休日返上は当たり前」。玄品には、かつての価値観が浸透していた面影は、もうありません。今では「休みを取るのが当たり前」という社内文化が根付いてきています。
玄品を「飲食業界で最も働きたい会社」に
藤井さんが玄品で目指す次なる目標は、「社員が『自分の子どもを入社させたい』と思える会社にすること」だといいます。そのためには、時代に則した打ち手を考えていくことが重要です。
「私は玄品で社会人としてのいろはを学び、育ててもらいました。会社を大切に思っているからこそ、ゆくゆくは次の世代に、スムーズに会社運営のバトンを繋ぎたい。そのためにも、会社に骨を埋める覚悟で、どんどん改革に取り組んでいきます」
昨今、「飲食業界で働きたくない若者が増えた」といわれています。その理由は、飲食店そのものではなく、業界特有の劣悪な労働環境が敬遠されているのではないかと考えられます。
「飲食業界のなかで、最も働きたい会社は玄品」
そんな認知が広がるその日まで、玄品は強い覚悟を持って改革を続けていきます。
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