急速にデジタル化するイギリスOOH市場の景色とは~その3~
当初は1回で終わるはずだったのですが、結局3回の連載形式になってしまいました。
今回が最終回となりますが、過去2回を読んでいない方は先に以下の記事を読んで頂いた方がスムーズかと思います。
これまでの2回では、イギリスDOOH市場の発展の経緯と、設置されているDOOHの特徴について書いておりますが、
今回はイギリスのDOOH(デジタルサイネージ)の成長を支える業界共通指標データ「Route」についての話をします。
※記事内では、Routeの詳細について、一部割愛して記載しております。記事の情報は全て以下のサイトにありますので、詳細まで気になる方は以下からチェックしてください!
業界全体で持つ危機意識から生まれた共通指標
さて、まずはRouteとは何かをご紹介いたします。
イギリスはDOOHだけでなく、ほぼ全てのOOH媒体が”Route"によって評価されており、これがOOHプランニングに関する全ての起点となっています。
Routeは主要なOOH専業代理店・媒体社の共同出資にて設立された非営利組織によって作られているデータとなっております。つまり、Routeが利益を生むわけではなく、Routeを活用することでOOH業界が利益を生むことを目的として、立ち上げられています。
業界内で会社の垣根を越えて出資を続けている理由は、「業界共通データがなけれ広告主から媒体の信頼を得られない」という強い危機感から来ており、10年以上の間合計すると数十億円規模の費用を各社が負担続けています。
Routeが取得するデータは1面ごと
Routeの持つ情報は主に以下の通りです。
・対象媒体の視認者人数(月別)
・エリア内人口に対する媒体視認者の割合
・対象媒体視認者の平均接触回数
・対象媒体の延べ視認者数
上記データが媒体1面ごとに算出可能となっています。
この、1面ごとにデータが抽出できることが凄い部分で、100面セットで○○人にリーチします!ということではなく、対象の面1面ずつに、評価がなされることになります。
以下の動画はRouteデータを簡潔にまとまっているのでご覧ください。
では、実際にどのように1面ごとのデータ抽出を実現しているのか、書いていきたいと思います。
専用端末で取得しているデータがベース
ベースとなる人の移動量データについては、調査パネルにMobitestという専用端末を持ち歩いて14日間日常生活をしてもらうことで取得しています。
この専用端末の機能は、
・GPS/加速度センサーを介して地図上の位置を特定
・磁気/ジャイロを使い、動きの有無の識別を行う
・気圧/温度計を介して高度や温度を測定
・WIFI機能を備えている
・屋外でも屋内でも速度や進行方向を特定
・データは秒単位で取得可能
となっております。
この端末で取得したデータを地図上に落とし込み、アンケート調査や国勢調査データなど他データと掛け合わせることで、指定エリア(地点)の交通量を推計しています。
媒体視認範囲の定義を行う
エリア(地点)ごとの移動人数がわかるだけでは、媒体1面ごとの視認者数・接触者数のデータは抽出できません。どのような媒体がどの場所に設置されているか。という情報が必要になります。
そこで、RouteはInventory Mapping Systemという媒体管理システムを用いて、地図上に媒体をマッピングし、計測したデータと媒体をマッチングしていきます。
Inventory Mapping Systemに登録する情報は以下の通りです。
- 媒体の設置位置(緯度経度/住所)
- 媒体がどちらの方向を向いているか
- 媒体のサイズ
- 媒体の種類
- デジタルサイネージ or ポスター
(このように媒体を情報と共にマッピングしていきます)
そして、登録された情報を基に各媒体の視認範囲を定義することで、該当媒体の視認可能エリアを確定し、対象エリアにいる人数=媒体の接触者とすることで各媒体の評価が可能となります。
(赤字部分が媒体の視認可能範囲となっております)
Routeでデータを抽出できる媒体は、ほぼ全てのOOH媒体なので例にある屋外広告だけでなく地下鉄の駅や電車内の媒体(交通広告)も計測が可能となっています。
プランニングや媒体設置に活用
計測された媒体(1面ごと)のデータは、代理店側のメディアプランニングにはもちろん、媒体社の媒体設置・撤去の検討においても有用となります。
Routeデータで高く評価される(利用者数が多いなど)場所に媒体を設置できれば、広告主/代理店から使われる可能性が高まるので、媒体社はRouteデータを上手く使いながら新規媒体を設置していきます。
ほぼ全ての媒体がRouteにて評価されている為、逆を言えばRouteによる評価がなされていない媒体を売ることは難しくなります。
こうした仕組みにより、業界に新たなプレイヤーが入ってきてもRouteに協力せざるを得ない状況が作られております。
DOOH測定用に進化を続けている
RouteはDOOHの売り上げが拡大する前(10年以上)からスタートしているプロジェクトなので、元々は既存の看板やポスターなどの媒体を計測するために作られました。
データ自体は一定期間で更新されているのですが、DOOHの成長に伴い、取得できるデータについても修正が加えられています。
DOOHの成長に伴う大きな変化と言えるのが滞留時間を計測するようになったことでしょう。
DOOHは複数広告主でローテーションさせることが一般的なので、例えその場所にいたとしても数秒で通過した場合、該当の広告主の広告に接触していない可能性がありますが、
Routeは、視認範囲に何秒いるか。というのを計測した上で、広告の接触回数に反映するという改訂を加えました。
例えば1分に1回広告主の広告が流れる媒体の視認範囲に、5分滞在していた場合、5回の接触とカウントすることにしています。
これにより、インプレッションを正確に計測することを実現し、新たなDOOHの販売方法であるProgrammatic販売への移行を進めることで、更なるDOOH市場の拡大を狙っています。
まとめ
3回に渡ってイギリスのDOOHマーケットの成長について書いてまいりましたが、文章にして改めて整理をした今、広告主の求めていることをスピード感を持って取り組むという業界全体の空気がこの成長を支えているのだと実感しました。
DOOHに注力して投資を行い、業界横断で協調しデータを開発することで、公平な競争を作り広告主により良いサービスを提供すべく動いています。
今後も、twitterも含めて、OOH市場の動きについて、少し世界の先をいくイギリスから学びを発信していきたいと思います。
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