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無料で枠を提供!?スタートアップ支援を通じた媒体社の挑戦。

OOH広告は電車や駅などを中心に公共空間に設置されていることから、媒体が設置されている都市や地域の協力の上でビジネスが成り立っています。

そのため、欧米のOOH媒体社は媒体枠を通じて単純に広告収益を上げるだけでなく、媒体が設置されている都市や地域に対して、媒体社事業を通じて価値を与える事をミッションとして掲げています。
(この当たりは過去のnoteに書いてます)

「事業を通じた社会への価値創出」という課題は、OOH媒体社だけが持つものではもちろんなく、最近はCSV活動とも呼ばれ多くの企業が取り組んでいますが、

本日のnoteでは、世界一のOOH媒体社であるJCDecaux社が2016年から行っている媒体事業を通じた社会貢献活動について紹介していきます。

媒体枠・プランニング・クリエイティブを無償提供

JCDecauxは「Nurture」というプログラムを2016年からイギリスを含む世界数ヶ国で行っています。

「Nuture」は日本語で「育成」という意味なのですが、OOH媒体の出稿を通じて自国のスタートアップ企業の育成をする。というのがこのプログラムの内容です。

Nurtureプログラムでは、スタートアップ企業に対してJCDecauxの持つOOH媒体の枠、キャンペーン実施に必要なプランニング、クリエイティブのアイディアまでを全て無償で提供しています。

提供しているのは、売れていない空き枠というわけではなくロンドン市内の主要枠を提供していて、太っ腹な取り組みです。

もちろん無償でサービスを提供することによって、「将来的に大きくなったら広告主となってお金を使ってよ。」という目論見があるわけですが、実際の事例を見ていると、スタートアップ企業のOOHキャンペーンを通して、OOHの広告価値が可視化され、媒体社事業の発展に大きく貢献している事がわかりました。

この点について、Nurtureプログラムの具体的な事例と共に考えていきたいと思います。

ブランド認知拡大・購買へ直結することを証明

最初の事例は、イギリスで発売を開始しているトウモロコシを使ったスナック菓子「LOVECORN」のキャンペーンです。

JCDecauxは、LOVECORNがイギリスでビジネスをスタートして2年後の2019年に、LOVECORNの取り扱いがあるスーパー周辺の媒体枠の提供を行っています。

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このキャンペーンにおいてJCDecauxは媒体枠の提供だけでなく、広告放映期間における購買データをスーパーから直接取得し、LOVECORNの売り上げを計測しました。

実際にキャンペーン出稿期間による店舗での売り上げは向上したようで、LOVECORNを棚に置いたスーパーからも好評だったようです。

このように、市場に登場したばかりで認知の低いブランドでも、OOHを通じて売り上げを伸ばせることを媒体社が証明することで、既存広告主へのPRにも繋がる素晴らしい取り組みとなっています。

場所の持つ文脈に沿ったターゲットへのPR

続いて、2018年に富裕者層向けのハイヤー配車サービスとしてLaunchしたWheelyという企業の事例を紹介します。

イギリスの配車サービスと言えばUberが一般的ですが、WheelyはUberの3から4倍以上の価格で、ハイヤーを使った移動を提供するサービスです。

この富裕層向けサービスに対して、JCDecauxはロンドンでもハロッズなどの有名百貨店のあるエリア(日本でいえば銀座)にて集中的に広告枠を提供し、キャンペーンを実施。

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広告出稿時にはOOH視認者への聞き取り調査を行い、広告効果を検証しています。

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(広告を見た人にインタビューを実施)

この事例では、街の持つ富裕層が集まる。という文脈に乗せて、ブランドのコンセプトである「ラグジュアリーなサービス」を伝えることを実現していますが、

媒体社としては、自社の媒体面(商品)がどのような場所・人に対して見られているかといった特徴をPRすることができた事例と言えるのではないでしょうか。

NutureプログラムのNext Step

そして現在Nutureプログラムはまだまだ展開の幅を広げようとしています。

先日JCDecauxはNutureプログラムを通じて、Crowd Cubeというクラウドファンディングプラットフォームとの提携を発表しました。

CrowdCubeとは、株式型のクラウドファンディングで、スタートアップ企業のビジネスアイディアに対して出資を行い、未公開株を取得できる。というプラットフォームです。

今回の提携では、このCrowd Cube内で資金が集まった会社に対して、JCDecauxがOOHキャンペーンを提供する。といった内容になっています。

これは2021年のトレンドでもある、個人の想いをOOHで大衆に広げていく。という流れに沿っており、欧米でも注目の取り組みとなっています。

勢いを借りて新しいアイディアに挑戦する

イギリスに来てから2年がたちますが、グローバルで見てもOOH業界は広告業界の中でも非常に狭い世界であり、20年・30年を超えて業界内で働く人が多くいる状態になっています。

新しいアイディアや知見が取り入れづらくなる環境の中で、スタートアップ企業との提携を行いながら新たな価値を模索する取り組みは、個人的に非常に重要なことだと考えますし、リソースを割いて積極的に新しいことに挑戦するJCDecauxはさすがは世界一の媒体社です。

また、大きな広告予算を持たないスタートアップ企業は、他の広告活動を行う機会が少ないため、OOHを実施した効果をわかりやすく可視化してくれる。という意味もありそうです。

コロナの影響を大きく受けたOOH業界は今だからこそ、勢いのある会社や人の力を借りて挑戦を続けることが必要だと思っていますし、このようなチャレンジを、単発ではなく、枠組みとして実現できる会社が多く出てくると業界が活気づくのではないかと思っています。



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