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植物を育てる(11)by立花吉茂

野生植物を育てる
 野生植物は性質が強いから育てやすいだろうと考える人がいるだろうが、実際は反対で、野生植物を育てるのは大変むずかしいのである。日本一の栽培の大家といわれていた玉利幸次郎先生が生前、「春と秋の七草を種子から育てることができたら、わたしは坊主になってもいいよ」と若い私に言われてびっくりしたことがある。なにもしらなかった私は「しんまいだと思ってなんたることをおっしゃる」と内心おだやかでなかったが、やってみると、まず第一に種子を取るのが大変で、第二番目に種子が発芽しないこと、第三に成長が不揃いで栽培植物のようにはそろって育たず、花もいつ咲くかわからないほど不揃いだった。普通に育ったのは栽培植物になってしまったスズナ、スズシロだけであった。このことは雑草や樹木のみならず、庭木の仲間や果樹でさえ、種子発芽に成功するには豊富な経験と基礎知識が必要である。このように不揃いになるのは、野生植物には「種の多様性」があるからで、栽培植物は育てやすい遺伝子だけが選抜されていて、多様性がない。生物は進化の過程で、環境の変化に耐えて生き残れるように遺伝的に多様な個体を含んでいるのである。
 
種子を取るには
 自然の復元や緑化のために野生植物を増やそうとすれば、種子を集める勉強から始めねばならない。「熟した種子を拾ってくればよい」というような簡単なものではない。野生植物の種子が熟するのは個体ごとに違うから、長期間が必要である。たまたま熟した1本の木からだけ種子を取るのはその種(しゅ)の多様性を無視したことになる。したがって、可能なかぎり多くの分布地、多くの個体から種子を集めなければならない。種子が発芽したとき、何%生えたか記録せねばならない。それは、特殊な種子だけが発芽していては1本の木からだけ種子を取ったのと同じだからである。植物園で植物の戸籍を重視するのはこのためである。
 自然を保存するのには多くの人びとの努力が必要だが、自然の再現、復活にはさらにいろいろのことを勉強せねばならず、しかもそれが根気よく実行され継続しつづけなければならないのである。
(緑の地球79号 2001年5月掲載)


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