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森と人とビジネスと(9):企業と森林 by 長坂健司(GEN事務局)

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 SDGsの達成には企業の役割が重要であるといわれます。日本の林業において、企業の存在感や役割はどんな感じか、社有林の面積に注目して書きました。気候変動や水資源の確保といった課題に企業が果たすべき役割は多々あります。
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 SDGsの達成には企業の役割が重要とされています。企業側もそれは理解していて、SDGsの達成にどのように自社が貢献しているか、積極的にアピールしています。

 林業でも、企業の役割は重要です。以前書いた製材などの企業ならともかく林業と企業はあまり結びつかないかもしれませんが、実は、企業が所有する社有林は数多くあります。例えば、王子ホールディングスは国内に18万8千ヘクタール、三井物産は国内に4万4千ヘクタール所有しています。社有林をある程度(例えば1千ヘクタール以上)所有している企業の統計は私の知る限りありませんが、これ以外にも日本製紙、住友林業、東京電力等、多くの上場企業が社有林を持つことで知られています。また、木原造林のように1万8千ヘクタール所有している非上場企業もあります。

 国内の森林面積は、令和4年度森林・林業白書によると2505万ヘクタールで、そのうち私有林は1439万ヘクタールです。王子製紙1社だけで、国内の私有林の1%以上を所有していることになります。ちなみに、昨年、緑の地球ネットワークでスタディツアーを実施した京都大学芦生研究林は4.2千ヘクタール(2020年4月から30年の地上権設定)です。そのツアーに参加頂いた方は、広さ、多様な植生、維持管理の難しさ等を実感して頂けたと思いますが、王子ホールディングスはその45倍の面積の森林を所有していることになります。

芦生研究林でシカの獣害について学習する

 上場企業が社有林を持つ最大の理由は、木材を紙や建材の原材料として用いるためでした。これは、製紙企業の多くが大規模な社有林を所有していることから容易に想像できます。もう1つの理由は、企業のブランドイメージ戦略です。「みんなで植林する」「美しい自然を守る」ことは確かにポジティブなイメージを株主や市民に与えます。

 実は、社有林を所有しなくても、企業は森林経営に関わることができます。例えばサントリーは、1万2千ヘクタールの森林を「天然水の森」の活動対象としています。「ウオーター・ポジティブ」をテーマとした水源保全活動ですが、これらの森林の多くはサントリーが所有しているわけではありません。

 所有と経営の違いは森林政策を考える上で重要な切り口ですが、それとは別に、サントリーのように企業経営の根幹に森林を置くことは先駆的であり、今、社有林を持つ新たな理由として、他の多くの企業にも注目されています。ちょうど本稿を執筆中に(2023年10月11日)、東京証券取引所がカーボン・クレジット市場を開設したというニュースが入ってきましたが、これも同じ文脈です。森林の多面的機能は以前から重視されてきましたが、それが直接、企業経営に影響を与える、または、経営戦略のコアコンピタンスになりうる世の中になってきました。


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