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2024年春の気温と桜の開花日 by 前中久行(GEN代表)

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 今年は桜の開花が大変早いという予想がもっぱらでした。しかし実際にはなかなか開花せず、在原業平の「世の中にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし」の状況でした。気候と桜の開花については既に精緻な研究が行われていますが、私的な興味で大阪の気温と桜開花の関係データをさわってみました。
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 生物の季節的な現象を生物季節といいます。人間の生活、とくに農業と密接に関連します。桜の開花は日本列島での最も関心の高い生物季節でしょう。
大阪ではすでに葉桜の時期となりました。メディアでは今年は桜の開花が大変早いという予想がもっぱらでした。私もそれに惑わされました(後述)。もう数日で咲きそうといわれながらもなかなか開花せずという状態で、TVでは開花標準木をとりまく気象庁担当者と報道陣の様子が連日報道されていました。結果的には日本列島の西南部では平年に比べて数日程度遅くなりました。東北地方以北ではほぼ平年開花日にのって桜前線が北上しているようです。
 
 気象庁では生物季節として各地で「さくら」の開花日と満開日を観測しています。過去のデータもみることができます(https://www.data.jma.go.jp/sakura/data/sakura003_07.html) 営々と蓄積され公開されているデータはとても貴重です。
 
 大阪の桜開花の標準木は大阪城公園にありますが、今年は3月30日が開花日でした。ちなみに4月になってからAIに「今年は大阪の桜の開花日は?」と問いかけると「3月30日でした。」と正しく返ってきました。平年開花日は3月27日なので3日遅くなりました。1965年から2024年の60年で最も早いのは3月19日開花(2021と 2023年)、遅いのは4月10日(1965と1984年)です。
 
 3月1日から20日までの平均気温と、開花日までの日数の経年変動を並べた図を作りました(図1)。両者の変動が比較できるように両方とも平均値を中心として標準偏差幅を1とする指数に変換して示してあります。気温も開花日も年によって変化しますがその変動には同調性があります。

  そこで3月20日までの平均気温と開花日の関係をより直接的にみるために両者の相関分布図を作りました(図2)。日平均気温と開花日の関係は直線に沿った関係で並びます。ただし同じ平均気温であっても開花日には10日程度の早晩があります。今年の平均気温と開花日を赤色で示しました。開花日はほぼ中心線にあります。2024年の大阪の開花日が平年より遅かったのは気温条件のためで気温と植物との関係では特異的な現象でなかったことになります。 

 このような単純な解析では気候と桜の開花の関係を高い確度でみることはできないのは当然です。また温かいほど早く開花するとは限りません。たとえば東京と八丈島を2000年から2009年の10年間について比較すると温かい八丈島で平均9.2日(最少2日最大20日)開花が遅いのです(年平均気温八丈島18.0℃、東京15.8℃)。(2010年以後八丈島の観測値はみつかりません。) 冬期落葉樹木は一般に冬の寒さに遭遇してはじめて花芽の休眠が破れ、その後の暖かさによって開花します。八丈島では寒さが足りず休眠が終わるのが遅いのでしょう。図2では日平均気温と開花日の関係は直線に沿って並び、平均気温が高くなると開花が遅れるような傾向はありません。大阪では今のところ高温による開花遅延はなさそうです。

 桜の開花予想を精緻に行うためには、この低温感応の基準値、その後開花に有効に働く基準閾値、その後必要な期間長などの検討が必要です。気候と桜の開花については青野靖之氏(大阪公立大学)、他によって精緻な研究が報告されています。また桜の開花は日本列島の人々にとって生活上の一大イベントで、巨大な経済活動と結びつくので、様々な組織がビッグデータを活用したモデルを内々に構築していると思います。私は開花を3月20日頃と予想して旅行に行きました。富士山と桜をみたかったのです。富士山の風景と桜のつぼみを堪能しました(写真)。図3の今年の日平均気温の推移実態をみると3月、とくに3月20日前頃は寒い日が多かったのです。早く咲いて欲しいという潜在意識が働いて、2月の高温に惑わされそのまま温かくなると前倒しの期待をしたのでしょうね。

 4月になってからAIに「大阪の2025年の桜の開花日はいつでしょうか?」と聞いてみました。返事は「2025年大阪の桜の開花予想は、現時点(2024年4月17日)ではまだ難しいです。」でした。

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