SDGsと環境と平和 by 小倉亜紗美(GEN世話人、呉工業高等専門学校准教授)
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2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すSDGsは、貧困や飢餓、教育の不均衡などの“構造的暴力”を排除することを目指しており、「積極的平和」を進めています。また、環境破壊は争いを引き起こす原因となりうるため、環境破壊を防ぐことは、争いの原因を増やさないという意味で平和に貢献すると言えます。つまり、環境保全は平和につながっているのです。
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呉工業高等専門学校の小倉亜紗美です。
今回はこの数年で認知度が上がったSDGsと環境と平和の関係について考えてみたいと思います。
SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年に開催された「国連持続可能な開発サミット」で採択された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す17の目標と169の到達目標からなる国際目標のことです。
ストックホルム大学のヨハン・ロックストローム博士は、SDGsの17の目標を「生物圏(Biosphere)」「社会圏(Society)」「経済圏(Economy)」の3つの層に分類した“SDGsウェディングケーキモデル”を2016年に提唱しています。このモデルは一番下の層が生物圏で、その上に社会圏、さらにその上に経済圏がのっています。つまりこれは、生物(地球環境)の基盤があることで、私たちの社会、そして経済が成り立っていることを表しています。また全ての目標は密接につながっていて、個別に達成しうるものではないということも示しています。
GENの緑化活動は、特に目標13「気候変動に具体的な対策を」や15「陸の豊かさも守ろう」など「生物圏(Biosphere)」の活動にあたるわけですが、これらを進めることは、目標16「平和と公正をすべての人に」にも貢献すると私は考えています。
“平和”と聞くと、“戦争がない状態”をイメージする人も多いのではないでしょうか。これはもちろん平和の状態の一つではありますが、“戦争がない状態”は“平和”のほんの一面しか表していません。平和学の父と呼ばれるヨハン・ガルトゥング博士は、暴力を「直接的暴力」と「構造的暴力」に分けました。前者は、戦争や内戦におけるように、人が直接手を下す暴力、言い換えれば行為主体が明確な暴力のことを指し、後者は飢餓、貧困のように、直接に暴力をふるう主体がなくとも、社会の構造により人間の可能性が損なわれることを指します。そして、構造的暴力を積極的に排除することを「積極的平和」、これに対し軍事的均衡で単に戦争のない状態を維持するだけの状態を「消極的平和」と定義しました。ガルトゥング博士の定義に従うと、SDGsは貧困や飢餓、教育の不均衡などの構造的暴力を排除することを目指しており、SDGsの目標達成に貢献することは「積極的平和」を進めることにほかなりません。
次に環境と平和の関係について考えてみます。
戦争が環境破壊を引き起こすことは、想像に難しくないと思いますが、環境破壊もまた争いを引き起こす原因になりえます。例えば、1956年に発生が確認された水俣病では、1973年以降補償協定に従い水俣病と認定された患者には一時金、年金、医療費などの補償金が支払われました。その補償金を使って、患者が生活しやすいように住宅改善や新築住宅の建設が行われたのを見た一部の市民はその住宅を「奇病御殿」と呼んでいたそうです。このように水俣病ではその認定基準と補償金により、患者と認定された人とされなかった人との間に分断が引き起こされました。つまり、環境破壊が争いを引き起こしました。
逆に、環境破壊を防ぐことは、争いの原因を増やさないという意味で平和に貢献するとも言えます。GENの緑化活動は、まさに環境破壊を防ぐことで平和に貢献する活動といえるのではないでしょうか。
今週末はクリスマスです。直接的暴力はもちろん、構造的暴力も含めたあらゆる暴力を減らし、積極的平和を進めることが私たちから次世代への最良のプレゼントだと思います。そして、私たちはそれを進められると信じています。