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根本聡一郎「スウィンダラーハウス」ネタバレ感想

『皆様にはこれから、ここで詐欺師として働いていただきます』

フードデリバリーサービスの配達員として働くアオイは、依頼者の自宅内でふいに意識を失う。目覚めるとそこは、どことも知れぬ謎の密室。集められた若者6人は、道化の仮面をつけた女性から「詐欺で1億稼ぐまでこの部屋からは出られない」と告げられる。果たしてアオイたちはこのハウスから、そして警察の捜査の手から逃れられるのか?

「義賊を名乗る特殊詐欺グループ」vs「あらゆる手段で逮捕を目指す警察」の息詰まる頭脳戦を描いた、令和時代のコンゲーム小説!

読んだので感想を断片的ですが書いていきます。ネタバレを含むため、未読の人はブラウザバック推奨です。

1億円稼がないと出られない部屋

この設定が本作のいちばんの特徴で、かつ仕掛けでもあった。序盤ではかなり臨場感があって「なんか教室に閉じ込められる系のデスゲームっぽいな…」と思った あとは、ちょっと下品だけどネット上で散見される「XXしないと出れない部屋」みたいな。

もぬけの殻になった土地と、部屋が揺れる描写のあたりで「もしかして」と思ったら、その想像は当たっていた。

自分の地元にはこの手の「トレーラーハウス」がある。設置も撤去も楽ちんらしい

詐欺の手口が事細かに描かれている

以前に本で読んでなんとなくは知っていたけど、実際の詐欺の手口が本当に具体的に描かれていて読んでいるだけで面白かった。詐欺の役割分担とか、受け子がスーツ似合ってない問題とか。以前に読んだ地面師のルポをなんとなく思い出した。

社会問題がうまく小説に落とし込まれている

根本さんの小説にわりと共通することだけど、小説として読んで楽しめるエンタメ要素と、現代の世相(社会問題)を落とし込んだ社会派な要素が両立している。

自分はノンフィクションとかルポを読むのが好きな人間だけれど、小説という形のほうが多くの人に届きやすい媒体だと思う。それは書店の本棚をみて、小説が占める割合を考えれば一目瞭然だ。

「義賊」を自称する詐欺師

全編通して、詐欺師が「自分たちは義賊だ、金を溜め込む高齢者から貧しい若者に金を移動させるのだ」と主張している。これを読んで、正直なところ「自分はこの詐欺師の論理に反論する言葉を持っていないな」と感じてしまった。

本書のテーマの1つに「世代間格差」があると思う。統計の切り取り方しだいでいろんな受け取り方ができるけど、富裕な高齢者と困窮する若者、という構図を作ることは不可能ではなくて、そしてそれは個々人に帰責する問題ではなくてもっとマクロな問題のはず。政策レベルの再分配がうまくいっていないから俺たち義賊が代わりにそれを行うのだ…と語られたら、自分は納得してしまうかもしれない。

「詐欺はいけません」「犯罪だからいけません」という言葉は、現在進行系で困窮している人にとっては何ら重みを持たないだろう。

法で裁けない者を裁くために法の外へ

物語の中で、法で救えない、または法で復讐ができない相手のために法を犯す人が出てきて、PSYCHO-PASSという作品の狡噛慎也を連想した。

俺は刑事で居る限り、あの男に手出しができない。法律で人は守れない。なら、法の外に出るしかない

PSYCHO-PASS(狡噛慎也)

理想論を言うようだけれど、法で裁けない悪人が社会に害を与えているならば法が改め正されるべきであって、個人が犠牲になるべきではないと思っている。ただ現実には、テクノロジーの進化やそれに伴う犯罪の巧妙化に対して法は常に後手になってしまいがち。現状は硬直した法制度のせいで、本書で登場するようなコロナによる貧窮などの問題が起きてしまっていて、かろうじて各種NPOなどがそこの受け皿になっている状態に見えている

感想の断片のさらに断片

・根本さんの作品の主人公は毎回、人柄の芯の部分が共通しているように見える やや引っ込み思案に見えるが肝心な時にはNOが言える日本人で、人のちょっとした言動から行動の理由を読み取れる人間
・カンナの人物造形はちょっとステレオタイプすぎる気がした まぁ自分はリアルでこの手の人物と仲良くしたことがないから想像でしかないんだけど
・ストーリー進行的に蛇足になるだろうけど、くるみちゃんの活躍をもう少し見たかった 濃い男社会であろう警察組織に一石を投じてほしい
・龍二のような若者は報道で見たら「キレて暴力を振るう若者こわい。。。」で終わってしまうかもしれないけれど、こういう背景があって(本人の性分もあって)ある種やむなく暴力に至ってしまった人もいる、という想像力を持てる人間でありたいなと思えた、とても難しいことだけれど 真島を見ていて砂川 文次「ブラックボックス」をなんとなく連想した
・M資金の話、信じる人ほんまにいるんかって感じだったけど、自分の親世代でもいわゆる山林商法とかに引っかかった人が山程いるわけで、いつの時代にも詐欺師は知恵を絞って人を騙そうとする(だから「自分は大丈夫」と思うのがいちばん危ない)んだよなと思った
・ちょうど学生運動についてくわしく書かれた本を読んでいたので、340ページ~の恒雄の主張があまりにも真に迫って聞こえた
・重箱の隅をつつくようだけど、160ページの1行目「3人に1人」は「3人に2人」が正しいのでは?と思った。そのあと「暗数が7割近く」とかって説明もあるし
・巻末の参考文献を見てニッコリ ほんの少しでも人の役に立てたってのは気分がいいもんですね

まとまらないけど以上です ここまで読んだ奇特な方は過去作「人材島」もぜひ。


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