君が差し出す偏光レンズから音が聞こえる(拾参)

 自分らしさって何だっけ。
それってどんな形をしているのかな。
自分が自分でなくなっちゃう……
それっていつ気付くのかな?
変わっていく最中?
それとも
変わり終わったら?
それとも
変わり切ってしまってからずっと後?
それとも
ずっと気付けない?
それとも
それとも
それとも
それとも……

 気付いたらここにいた。よくわからないまま、レールの上に沿って真っ直ぐ真っ直ぐ歩いてきた。
どうしてこのレールは真っ直ぐ続いているんだろう? とか、どうしてこのレールは車線変更しないんだろう? とか。そんな事を考えるのって結局は結果を見てから自分でどうしてこうなっちゃったんだろう? って悲観してる自分に酔ってるだけ。
頭ではわかっているつもりだったし、そうはならないだろうと誰しもが思うんじゃないかな。
私は大丈夫。
私はあの人みたいにはならない。
なんてかわいそうな人なの。あんな事にも気付かないなんて。
なんて酷い人なの。同じ人間なのに信じられない。
どうしてあんな生活ができるのかしら。私には耐えられない。でも私は大丈夫。
……みんなきっと頭の中でそう考えてる。
優等生のあの子も
毎日楽しそうにしてるあの人も
聡明に見える先輩や
厳格な雰囲気のあの人だって。
みんなみんな大体気付いたら知らない所にいるものだから。

みんな汚い心を持っている。
みんな壊れそうな心を持っている。
どうしてみんなそれでも笑って生活しているの?
辛い事は友達と居酒屋で愚痴ったらすぐ消えるものなの?
みんな同じ人間なんじゃないの?
入れ物が違うだけで、中の構造は同じはずじゃない。
私は今なんでここにいるの?
どんな事も投げ出さなかった。
色々な物事と分かり合おうとした。
良い子に生きてきた。
お手本のように生きてきた。
家族の自慢の娘に育ってきた。
近所じゃ噂の絶えない素晴らしい娘だったじゃない。

なのに何故
何故私は満たされないの?
満たされるどころか
私は壊れかけているじゃない。

誰を信じて
何を信じて
いつからかわからなくなった私という形を
どうやって取り戻したら良いの?
取り戻さなくて良いの?
どうしたら良いの?

結局私は何がしたいのかしら。
ある日おかしな人を見つけて、興味が湧いて
その人を変えてみたくなって
その人が変わっていって
楽しそうに目の前で笑っていて
それを見ていて最初は何だか嬉しくて
凄く凄く楽しくて
毎日が楽しくなって
明日はどうしようかな? なんてワクワクして
でもね
気付いちゃったの。
私、今君が憎らしいの。
ううん、妬ましいの。
君はまるで鳥籠から外の世界に飛び出した真っ白な鳥。
私はそれを只々見つめている事しかできない真っ黒な鼠。
悲しくなっちゃう。
本当はこれも自分でわかっていないだけで、悲劇のヒロインです……って感じで浸っているだけなのかしら。

私……何がしたいんだろう。
私……どうなりたいんだろう。
私……もう何もできないかもしれない。


──
 
 「自分が何なのか、自分らしさって何だったのか、気付いたら全部忘れてた。無くしてたって言い方の方が良いかもしれない」
「うん」
「だから行くの……天国へ」
「……うん」
「全部ぶっ殺してやるのよ」
「……そんな事したら、君独りになっちゃうよ」
「え?」
「行こう。天国」
「……何で君が仕切ってんのよ。そもそも天国はものの例えって言ったじゃない」
「死ぬんだよ。そしたら行ける。天国へ」
「……地獄だったら責任取ってよね」


“ つづく “


この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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