第4回 Q&A 新たなチャレンジをするときは
今回のクリエイティブQ&Aはスピンオフ。
映画『PARFECT DAYS』の共同脚本を手掛けた高崎卓馬さんと僕が、東京国際映画祭×STORY STUDYのトークイベントにおいて行ったQ&Aから。
新しいジャンルのクリエイティブにチャレンジするには?
映画の仕事をはじめるには?
さまざまな仕事のヒントが詰まったQ&Aとなりました。
A1.
川村 明確に勝算があって始める、ということはまずありません。僕は、学生時代から行ったことのない街に旅するのが好きで。ハワイや沖縄に行きたいと思いつつ、気づいたら僻地に行ってしまう。
行く前、嫌なんです本当に。パッキングしてる時点で、行きたくねえって思う。それで、街に着くじゃないですか。そしたらうす暗くて野犬がいっぱいいたりして、やっぱり怖い・・・来なきゃよかったとなる。でもわかんないことをやるときは、みんなそうなんですよ。引越しするとき、転職するとき、クラス替えがあったとき、ストレスですよね。
でも不思議なもんで、わからない街を2、3日歩きまわっていると、ここは治安が悪いから近づかないでおこうとか、ここにはおいしい食べ物があるぞとか、ここは景色がいいぞって、だんだん自分の感覚と身体が拡張して街になじんでいく。あの感じが、すごい楽しいんですよね。
例えば小説を書くってなったときに、インドで野犬に囲まれるようなところからスタートするわけです。どこに行ったらいいか、何をしたらいいのか、わからなくて怖い。でも書いてるうちに、なるほどこんなことが小説では描写できるんだなとか、これは映像には絶対できない表現だなとか、そういうのを発見していく。
それで旅先から家に帰ってきたら、お母さんの味噌汁がすごくおいしいみたいに、自分のホームグラウンドの良さを改めて感じられたりする。ダシって、いいよね。インドにはこういうのはないよね、みたいな。
だから、新しいチャレンジにはふたつの良いことがあると思っています。
自分の身体や感覚が拡張されるということ。そして、ホームグラウンドに戻ってきたときその良さが可視化されるということ。なので勝算があってやるのではなく、みずからしんどい目に遭いにいく感じです。
高崎さんは今回映画を作られたわけですが、どうして新しいことに挑戦するんですか?
高崎 僕はあんまり自分が自分がっていうのは思ってなくて。呼ばれたり、任されたり、追い込まれたりして進んでいくのが好きで。自分と出会った人が絶対に出会ってよかったと思ってもらうっていうことだけをルールとして決めてて。こいつに何か相談すると何かしら解決してくれそうっていう、またやろうねってなるものを絶対に作るということだけ決めている。
初めて会った人にも必ず、そう思ってもらえるにはどうするかって考える。そのときに、この人を幸せにするのは映画なのか小説なのかと選ぶので、広告作ろうとか映画作ろうとか、それが目的にはならない。手段と目的を混同する人、すごく嫌いなんで。目的はあくまで人。自分と接した人がとにかくハッピーでいてほしいというのが、一番大きいかもしれないですね。
川村 高崎さんや僕は、全部自分で考えて、人集めてって思われているような気がしますけれど、実際は頼まれた仕事をやっていることの方が多い。小説も編集者から言われなかったら、書かなかったと思います。だから、仕事にはあまり主体性がないほうがいいと思ってたりもします。
高崎 そっちのほうが、可能性広げる気がする。
川村 自分でやりたいことに疑問や不安を持たない人って、面白いものをつくれるのだろうかとか思ったりする。自分にはそういう才能というか、そういうことをやらせてみようと思ってくれる人がいるんだって始める方が、うまくいく印象があります。
高崎 表現って、自分を出そうとしているものは基本的にはだめで。個性を出そうとしているものは、多分フェイクな個性な気がするんですよ。自分を完全に消しているはずなのに、どうしようもなく出ちゃうものが文体とか作家性みたいなところなので。私が賞を取りたいとか認められたいとか、そういうことを考えてると多分そこより上にはいかないんじゃないかなっていう気がしますよね。
川村 ヴェンダースですら、トイレの仕事やりませんか?って声かけられて、何のこっちゃと思ったと思いますけど、それがカンヌで賞を取るわけですからね。
高崎 確かにね。