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第8回 Q&A クリエイティブを守るために

Q.93さん

はじめまして。 本屋さんで、『仕事。』の単行本と出会って以来、ずっと川村さんのご活躍を拝見しております。今でも読み返す大切な一冊です。 私は地方でフリーランスのグラフィックデザイナーをしています。20数年のキャリアの半分ほどは東京で活動していましたが、結婚と育児を機に地方へ移住しました。 川村さんにお尋ねしたいのは、 クリエイティブの価値があまり高くない地方で、その価値を高めるためには何をしたらいいと思いますか? ということです。 ナショナルブランドの中吊りやウェブ、雑誌など、マス広告に携わることが多かった東京時代から、地方へ移った今は新規オープンするカフェのブランディングや、地域の単発イベントのポスター、こども食堂のPRなど地域密着型のお仕事がほとんどです(よそ者の自分が地域へ溶け込む手段としてそれを選びました)。 しかし規模は違えど、どんなお仕事もデザインで何かを解決するという意味では変わらないと思いますし、デザインを変えたら人のリアクションも変わったという効果も感じています。クライアントと密で、裁量も大きく、提案はほぼ通り、反応がすぐにわかるといった面白さもあります。 ただ、クリエイティブの価値が、この地域では比較的低いように感じています。東京の相場よりだいぶ低めに設定しても、そんなに時間もお金もかけられないと言われることがあります。 そう言われると、ひょっとしてデザインで何かを好転させたいと願うのは自己満足で、別に誰が作ったデザインでも結果は変わらないかもしれない、とネガティブになってしまいます。 それでも、クリエイティブは地域に貢献できると信じたいのです。お金がほしいというよりは、価値を高めていきたいと日々思いながらお仕事させてもらっています。 一朝一夕ではなかなか難しいとは思いますが、ぜひ川村さんのご意見を伺ってみたいです。

A.GK

『仕事。』を愛読していただきありがとうございます。

『仕事。』は僕が仕事に悩んでいた30代の時に「いまだに現役で楽しそうに仕事をしている巨匠たち」と作った本です。

どうやって不調や困難を乗り越えて、仕事を面白くしていったかを聞いて回ったその対話集は、僕にとってもとても大切な本で、いまだに仕事や人生に悩んだ時に読み返します。

面白いことに、ほとんどの解決策がそこに書いてあるのです。
僕自身、今まで気づいていなかったこと、忘れてしまっていたことなどが、毎回読むたびに見つかる不思議な本です。

『仕事。』文春文庫刊

僕にとって「デザイン」は、「物語」や「音楽」と肩を並べる、非常に重要なクリエイティブ要素のひとつです。

今まで作ってきた映画、小説、そのすべてにおいて、デザイナーと一緒にポスターや表紙の意匠にこだわってきました。デザイナーと「作品の顔」を決める仕事は、なによりも楽しい時間です。

映画やアニメの中にも、キャラクターや衣装、美術、ロケーション、カメラアングルなど無数のデザインが存在します。

デザインは、物語や音楽よりも先に、作品の印象を作ります。
まさに「作品の顔」になるわけで、
デザインで結果が変わるのか?
という問いについては、明確に変わるというのが僕の答えです。
むしろ膨大なデザインの積み重ねが、作品の良し悪しを決めると信じて取り組んでいます。

良いデザイン、悪いデザインというのはもちろんあると思います。
僕が気にするのは、その作品にとって正しいデザインかどうかです。

「Apple」の店舗デザインは、もちろん美しいと思います。
一方で「ドンキホーテ」のカオティックな店内というのも、優れたデザインだと思ったりします。

「物語」の作り手にとって、良いデザインというのは「作品」の意味を教えてくれるものです。
この映画のポスターはこうなのでは、この小説の装丁はこういうのはどうか、とデザイナーから提案を受けた時に、たった一枚のビジュアルから「あぁ、僕はこういう作品を作ってきたのか」と気付かされることも多いのです。

ですから、デザインというのはただ「作品を売る」「商品を知らせる」という意味合い以上に、その作品や商品そのものがもっている価値や意味を、その作り手自身に気づかせる力があると思うのです。

今お住まいの地域において、93さんが生み出されたデザインがそのお店やイベントを広く知らしめるという視点に加えて、クライアントの方々すら気づいていない価値や意味について気づかせるようなデザインを、アートディレクターとして提案してみるという観点で取り組まれるのはどうでしょうか。

そのコミュニケーションから始めれば、自ずとデザイナーとクライアントを超えた外の方々にも届くデザインになるような気がしています。
これからもぜひ、デザインやクリエイティブの力を信じて頂ければと思います。

Q.松本窓さん

駆け出しのプロデューサーです。 オリジナルの作品(あるいはオリジナルの色が強いもの)を作家と一緒につくるとき、自分の中で「もっとこうした方がいいんじゃないか」という意見が湧いてくる時がしばしばあります。 それは作家のやりたいことの抽象度が高すぎるように見えたり、それによって観客を置いて行ってしまうのではないかという懸念から生まれる意見です。しかし同時に、その自分の意見が作家性やその作品の個性を潰し得るのではないかという疑いもあり、いつもどこかで迷いを抱えています。 ご自身でクリエイターとしても活躍されている川村さんは、どのようなスタンスで作家と向き合っているのでしょうか。また、このような悩みが生まれたときはどうされていますか。 お伺いできれば幸いです。

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