第8回 Q&A クリエイティブを守るために
A.GK
『仕事。』を愛読していただきありがとうございます。
『仕事。』は僕が仕事に悩んでいた30代の時に「いまだに現役で楽しそうに仕事をしている巨匠たち」と作った本です。
どうやって不調や困難を乗り越えて、仕事を面白くしていったかを聞いて回ったその対話集は、僕にとってもとても大切な本で、いまだに仕事や人生に悩んだ時に読み返します。
面白いことに、ほとんどの解決策がそこに書いてあるのです。
僕自身、今まで気づいていなかったこと、忘れてしまっていたことなどが、毎回読むたびに見つかる不思議な本です。
僕にとって「デザイン」は、「物語」や「音楽」と肩を並べる、非常に重要なクリエイティブ要素のひとつです。
今まで作ってきた映画、小説、そのすべてにおいて、デザイナーと一緒にポスターや表紙の意匠にこだわってきました。デザイナーと「作品の顔」を決める仕事は、なによりも楽しい時間です。
映画やアニメの中にも、キャラクターや衣装、美術、ロケーション、カメラアングルなど無数のデザインが存在します。
デザインは、物語や音楽よりも先に、作品の印象を作ります。
まさに「作品の顔」になるわけで、
デザインで結果が変わるのか?
という問いについては、明確に変わるというのが僕の答えです。
むしろ膨大なデザインの積み重ねが、作品の良し悪しを決めると信じて取り組んでいます。
良いデザイン、悪いデザインというのはもちろんあると思います。
僕が気にするのは、その作品にとって正しいデザインかどうかです。
「Apple」の店舗デザインは、もちろん美しいと思います。
一方で「ドンキホーテ」のカオティックな店内というのも、優れたデザインだと思ったりします。
「物語」の作り手にとって、良いデザインというのは「作品」の意味を教えてくれるものです。
この映画のポスターはこうなのでは、この小説の装丁はこういうのはどうか、とデザイナーから提案を受けた時に、たった一枚のビジュアルから「あぁ、僕はこういう作品を作ってきたのか」と気付かされることも多いのです。
ですから、デザインというのはただ「作品を売る」「商品を知らせる」という意味合い以上に、その作品や商品そのものがもっている価値や意味を、その作り手自身に気づかせる力があると思うのです。
今お住まいの地域において、93さんが生み出されたデザインがそのお店やイベントを広く知らしめるという視点に加えて、クライアントの方々すら気づいていない価値や意味について気づかせるようなデザインを、アートディレクターとして提案してみるという観点で取り組まれるのはどうでしょうか。
そのコミュニケーションから始めれば、自ずとデザイナーとクライアントを超えた外の方々にも届くデザインになるような気がしています。
これからもぜひ、デザインやクリエイティブの力を信じて頂ければと思います。