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第7話 風船動物の世界

家のドアを開けると、目の前に草原が広がっていた。
涼しい風が吹いていて、とても気持ちが良かった。
ぱんっと何かが弾けるような音がして振り返ると、そこにはもう家はなく、代わりにサーカスのテントが建っている。

耳を澄ますと、テントの中からオルガンの音が聞こえる。
陽気な音楽に合わせて、ピエロが踊りながら出てきた。
目と口の周りが、ケチャップをつけたみたいに真っ赤だった。

ピエロはたくさんの風船を手に持ち、近づいてくる。
赤、青、黄色、白、水色、ピンク。
十以上あるだろうか。糸をつけられた大きな風船が、風に吹かれてふわふわと揺れている。

ピエロは何も言わずに、にかっと笑った。並びの良い歯が見える。
彼は青い風船を差し出した。
僕は、黄色が欲しかった。
黙ってピエロの目を見つめ返した。
すると彼は青を引っ込め、代わりに黄色の風船を差し出してきた。

どうして伝わったのだろう? 
不思議だった。でも嬉しかった。
彼だけは、僕の気持ちをわかってくれている。

黄色の風船を手に駆け出した。
風が僕の背中を押し、加速する。風船が吹き上げられ、ふわりと体が浮かび上がった。足をばたつかせるが、地面に触れることができない。

助けて! 
叫ぼうとするが、声は音とならず空中に飲み込まれていく。
突風が来て、あっという間に体が雲の上へと吹き上げられた。

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