夏に思うこと
小学生のとき、親友が病気で亡くなった。
友達が死ぬなんて理解の範疇になく、連絡網で次へ伝えなければならないのに腰が抜けて、呆然と電話の前にへばりついた。
お見舞いに行こうと高知市内へ初めて汽車に乗って行った。病名は当時聞いてもまったくピンと来なかった。ただ、市内の病院というのは事情を察するには十分すぎた。
会ってみると、いつも通りの彼なのに。
彼は漫画が好きだった。読むだけには飽き足らず、自作の漫画を描いてみんなに披露していた。結構面白くて、それが彼を知るきっかけだったと思う。スポーツも出来て、勉強も出来た。
今になって思うと、僕は彼に憧れていたんだと思う。みんなの輪の中心に居て、自分を表現出来ている彼みたいになりたかった。
小学四年生の夏
僕の通う小学校では代表して四年生が町の音楽祭に出る。そこで僕はかねてより触れたかったアコーディオンを希望した。アコーディオンは人気ある楽器だが4人までしか担当できない。
押し引きの結果僕は席を獲得した。そして、彼もアコーディオン担当となった。
それから放課後は音楽室へ急ぎ、毎日一緒に練習した。楽譜を読めるようになろうと勉強もした。彼は少しピアノが弾けた。音符のことや合わせ方を教えてもらい、アンサンブルの楽しさを実感していった。
同時に人気者である彼が実はものすごく繊細な感性の持ち主であることも徐々に分かってきた。
もともと身体の弱かった僕と繊細な彼は妙に気が合った。
音楽祭が終わった後も休みの日は、一緒に名のある川へ行き欄干のない橋から飛び降りたり、川エビを取りにいったり、格闘ゲームをしたり、ゴムボール野球もしたっけ。
(当時野球のルールを知らなかったが、彼が根気強く教えてくれた。僕がピッチャーで彼がキャッチャーだ。)
彼は絵を描くことを好み、僕はあらゆる楽器に興味を持った。1週間ごとにお互いの成果を披露するというような、当時にしては割とクリエイティブな彼の提案は僕を奮い立たせたし、彼と違って何にも自信の無かった僕もリラックスして音楽を披露する楽しさを知った。
そんな日々が忽然と消えた。彼が転校するとのこと。そして”ちょっとした”病気に罹ったってこと。
僕ら小学生でもいつ死ぬか分からないんだ
小学校の同級生はみんな思っただろう。
悲しさでいっぱいだった。
時は経ち、僕は中学卒業を控えた頃。
引っ越しして離れた彼の家にお参りしようと訪ねた。
あの頃の彼の写真に手を合わせ
自分がこれから工業系の学校へ行くこと、
音楽を一生続けたい思っていること、
喘息が治ったこと、
体重が10kg減り、顔も声も変わってしまったこと。
たくさんの報告をした。
彼は工作好きだったから、もしかしたら同じ進路を選択していたかもしれない。
いや漫画家か、あるいはスポーツ選手か、はたまた音楽家か。
でも、僕が見上げる彼は時が止まっていて進むことはもうない。この時の気持ちをどう表現したらいいのか。今でも上手く表せない。
僕は彼から”自信”をもらった。それは引っ込み思案の僕からすると魔法の様なもので、別の誰かに生まれ変われるような気持ちになった。
僕は何も返すことができていない、だから彼に宣言した。
僕は〇〇君の分もちゃんと生きるき、見よって
節目となる年はあの日と同じように自転車で彼の家へお参りに行く。
愛知県の大学に進学することになったよ
彼女と別れたよ。恋愛って難しいね
就職で長野県へ行くよ
東京へ行くよ。コンクリートジャングルだ。
そして、今年は高知へ帰れず報告出来ていない。
僕は自分のことを知るために、少し人生を危険に晒してみたよ。
死んだように生きるのか、生きることを必死に頑張るのか〇〇君はどっちを選ぶ?僕は...。
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