「首」見てきたよって話

おはよう世界、いい日和だね

もう冬になるけど、お日様が照っているだけで幾分か辛くないね

昨日ね、映画を見てきた。北野武監督の「首」って作品

告知で聞いたことあるよって人はそれなりにいるんじゃないかな、見たことあるって人はそんなに多くないかもしれないけど

見た後に、ネットでレビューをチラリと見てみたけど、まあ、さもありなんと言うか。いい評価、とはとても言いにくいかな。ネットのレビューなんて多少低めになるもんだと思ってるけど、間違いは書かれてないかなぁって

曰く、退屈、グロすぎる、長い、キャスティングがイマイチ

うん、否定しない

まあでも、僕は総合的に見て面白かったって、何故かしらないけどそう思ってるから、援護ってわけでもないし、擁護するわけでもさらさらないんだけど、折角見たんだから、感想の一つでも書いておきましょうと思うわけで

普段は映画見たって、「良かったよ!」しか書かないんだけど、なにぶん人に勧められるようなものでもないし、客入りも随分寂しかったから、じゃあネタバレ上等で思う存分書けるなって、北野監督にゃ申し訳ないけど、好き勝手やらせてもらうつもりなんだよ

とりあえず、「首」のあらすじから話すんだけどさ、舞台は安土桃山、織田信長が天下統一に王手をかけて、明智光秀が本能寺の乱を起こすあたりの話

すごい人気のあるテーマだよね、資料を見つけ出すのにも苦労するから、むしろ想像を勝手に膨らませてどうとでも描けるのが、これ以上無い好材料とも言える

意外なんだけど、明智光秀と豊臣秀吉を主軸に描いてるんだよね。つい織田信長にスポットを当てて考えてしまうけど、この二人の暗躍によって本能寺の変が成されたって流れになってる

忠臣として振る舞い、誰よりもまじめに信長に尽くしていながら、信長の歪んだ愛に苦しめられた明智光秀を、豊臣秀吉がそそのかして本能寺に攻め入らせて、秀吉は信長の敵討ちだと言って光秀を討つ

その流れが丁寧に描かれてるもんだからさ、僕はあれが考察に過ぎないってことを忘れたんだよ。『サル』ならやりそうだっていう納得感、その狡猾さが気持ちよかった

織田信長、豊臣秀吉、徳川家光、この3人をどうしても僕ら現代人はヒロイックに描こうとしてしまうし、偉人だと持て囃してしまうけど、等身大の、野心に溢れる人間でしかないっていう、極めて冷静な目で北野監督は歴史を見てる、そう感じたんだ

ああそうだ、さっきも言ったけど、この作品人には勧められない。超えなきゃいけない高い高いハードルが二つあるもんだから、見てみてほしいとは絶対に言えない

その高いハードルってのが、露骨なBL描写と、超頻繁に登場する流血表現

タイトルが「首」だからさ、もう息を吐くように首が飛ぶし、刃が人を切り裂いていく。見てて痛いよ、痛すぎるしグロいし、目を覆いたくなるシーンは無数にある

別にそこまでリアルじゃないし、リアルじゃない割には手間かけて編集してあるから、グロさだけが際立つっていう、このすごい嬉しくない感じ。コミカルなのに気持ち悪いっていう、妙な体験をしたよね

あとはBL描写ね、もう露骨も露骨だよ。そんなおっ広げにやる必要どこにもないだろって言いたいくらい、ちゃんと描写する

えらい汚いのよ、40超えたおっちゃん達が、貪るようにお互いの口を吸い合う。言動にも惚れた腫れたが露骨に出てくるから、作品全体にむせかえるような男色と血の匂いがする

男色、衆道ってのはそりゃ、戦後の時代では当たり前でありましたから、なんなら地位を得た漢は美男を侍らすのがステータスみたいなところありましたから、描くのは問題ないとして。いささか露骨すぎやしませんかと

もっとも、これには北野武監督のこだわりというか、NHKでは絶対やらないことだからってのがあったみたい

命かけて殿様のために尽くすんだから、相応の理由があるだろう、恋心とかそういうもんがあったから、命かけて戦ったんだろって、NHKに文句言いたかったから、徹底してやったんだと

納得するけど、こっちからすりゃあ見たくもねぇもん見せやがってって気持ちではあるよ

ただ、文句が言いたいだけで終わらないのが、上手なもんでさ。明智光秀は実は織田信長に心底惚れていましたと、織田信長はそれをわかってて可愛がりつつも、ついつい虐めてしまう。男の子が好きな娘に意地悪しちゃうみたいなノリでさ

挙句、明智光秀の目の前で、織田信長が溺愛する美男子森蘭丸と乳繰り合う姿を堂々と見せる始末。こういった面で、光秀が信長から受けた耐え難い理不尽を描写してみせるってのは、上手いなと思ったよ

男色はこの時代のスタンダードであることをきちんと刷り込むことで、あのシーンの解釈を容易にする。拘りとかわがままを、ちゃんと作品として意味のあるものにするのは、好感が持てたかな

それはそうとして嫌だったけどね。男の喘ぎ声とかなんも嬉しくない

あとは…そうさなぁ、キャスティングにはつい物申したくなるかな

信長の配下の武将が集うシーンが度々あるんだけど、顔ぶれがさ、無茶苦茶老けてるんだよ

言い方悪くなっちゃったけど、ここまで歳食ったメンツじゃないだろうって、そこの違和感は確かにあった。どの人も一度は見たことある有名な人ばかりで、演技もとても上手なんだけど、こんな年寄りの集まりでは絶対なかったろう、どうしてこうなったって感じで

北野武監督本人が豊臣秀吉やってるくらいですよ、安土城がこれだとまるで老人ホームに見えちまう。そう考えると笑えるけどね、若いとは口が裂けても言えないおっちゃん達がBL繰り広げるもんだから、絵面は大変強烈です。地獄絵図です

まあでも、見てると案外慣れるもんでさ、北野監督演じる豊臣秀吉が、けっこうハマり役なんだっけ。あのちょっとサイコパスっぽい感じとか、割と理不尽にキレ散らかすところとか

楽しかったろうなぁ、僕が役者やってたら戦国武将の役とか絶対やってみたいもんね。鋭い目線で歴史を分析してるのと同時に、監督の遊び心とか、楽しんでやってたんだろうなっていうのがね、よくわかるよ

映画の後半になると、笑う場面がどんどん増えていくんだけどさ、なんかね、ビートたけしの「にへっ」って笑った顔が浮かぶんだ。あの人の少しお下品な笑いのセンス、あれが遺憾なく発揮されていって、最終的にギャグ映画になり果てていくんだ。真面目くさって鑑賞するもんじゃないんだなって、そこで安心した

僕は鑑賞が好きなんだけどさ、実はそんなに作品に触れてるわけじゃなくて、黒澤監督の映画とか見た事ないし、北野武監督の映画も今回が初めてだったんだよ

北野武の映画も知らずに鑑賞が好き、なんて言えたもんじゃないよなって思ってたからさ、意を決して行くわけじゃん。高尚なもんなのかな、ちゃんとメッセージを受け取れなかったらどうしようかとか、そんなこと考えて緊張してガチガチになってたんだけど

彼の作品はエンタメなんだねぇ、教養は感じるけど、それ以上に「これ面白いだろ?」って常に語りかけてくるって言うかさ、フランクなんだよね

意味深なシーンとか、そう言うのが全く無いんだ。これどういうことなんだろうって、引っかかる部分が無くてさ、説明しなくても理解できるように話が作ってある。上手だなぁって思った、説明口調の注釈が一切要らないんだもの、すごく易しい

映画監督がなんだってバラエティに散々出演してるのか、それが長いこと疑問だったんだけどさ、北野武は根本的に、人を笑わせるのが好きなお人なんだって、それがハッキリわかった。説明の必要な笑いなんて、興醒めだもんね

観に行ってよかったよ、そりゃ文句言いたい部分も沢山あるんだけどさ、北野武監督の人となりが良くわかったし、映画館で声出して笑うって体験をさせてもらえたしさ

うん、そう、笑っちゃった。お客さん少なかったし、声出して笑っちゃった人他にもいたもんだから、便乗して

実は僕、映画館好きじゃないんだ。パーソナルスペースがちょっと広めだから、隣に人がいると窮屈だし、声出してリアクション取れないのが、どうもね。気配を押し殺してジッと鑑賞するのってどうも苦手

だから、声出して笑わせてくれたのが、なんだかすごい嬉しくってさ

あと、明智光秀に寄り添ったストーリー展開だったのが、新鮮で面白かったよ。どうしても悪役に描かれがちだしさ、悪いイメージしかないんだけど

最後、秀吉との戦に敗れて敗走した光秀が、ついに力尽きて木にもたれ掛かってると、そこに首を求めて農民上がりの兵士がやってくる

死にかけだっていうのに、明智光秀は堂々と「この首が欲しいか!」って言い放つんだ

その覇気に兵士はすっかり怯えきって腰抜かすんだけど、涙ながらに「俺はさむらい大将になるんだ…!」って意志を表す

情けないけど、その野心を見て明智光秀はニヤリと笑って「なら、この首くれてやる!」って、自分の首を自ら切り落とそうとして、絶命するんだ

格好良かったな、しびれたよ。武将として天下統一の野心に燃えていた明智光秀が、最期農民の野心を認めて自分の首を差し出す。熱い漢だったってのを、終始一貫して描いてくれたからさ、気持ちよかったよね

そんなとこかなぁ、心底気持ち悪い体験させられるけど、総合評価としては面白い映画だと思ったよ

好き嫌いってさ、天秤なんだよね。物事に対して、好きな要素と嫌いな要素をそれぞれ皿に乗せて、傾いた方でジャッジする

好きの要素が強かったり、多かったりするとそれが好きだって判断になる。でも嫌いの方の皿にはちゃんと何かしらが乗ってるわけでさ、好きと嫌いは同居するんだよ

作品の良いも悪いもそうだと思う。「首」に関しては、賛否両論やむなし、なんなら一般的には否が多くなっても仕方ないと思うよ。僕がたまたま総括すると面白かったなって感じただけで、面白さを保証することはできかねるねぇ


グロ大丈夫、露骨なBL表現OK、物語としての完成度は二の次、歴史に大して思い入れがない人は是非どうぞ

これってお薦めしたことになるのかなぁ

まあ良いや、それじゃあまたね

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