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勝利至上主義 VS 楽しむ〜ジュニアアスリートへのアプローチを考える

近年、体罰やハラスメントをはじめとしたスポーツ現場における社会問題をニュースで見ることが多くなった。
これらの問題の多くは、いわゆる育成年代(ジュニア・ユース)への指導現場が対象になっている。
昨年、全柔連は2004年に始まった小学校学年別の全国大会を廃止し、その理由を「行き過ぎた勝利至上主義が散見される」とホームページで公表しました。
参考記事
このような問題は、氷山の一角であると考えられるとともに、ジュニア世代に対する指導等を考える必要があると考えられます。


楽しむ vs 勝利至上主義


皆さんは、ジュニアスポーツにおいて楽しむことと勝つことのどちらが大切だと思いますか?
筆者は、「どちらも大切」だと考えます。競技スポーツである以上、「勝利を目指すこと」は至って普通のことであり、
「スポーツを楽しむこと」も必要だと思います。しかしながら、タイトルにあるように「楽しむ」 vs 「勝利至上主義」という極端な議論になりやすいと思います。
今回は、海外の心理面を考慮した取り組みをご紹介しながら、考えていきたいと思います。

海外のジュニア世代への取り組み


海外ではジュニア年代をはじめとした年代(発達段階)に応じた心理面を考慮した取り組みを実施しています。

①アメリカオリンピック・パラリンピック委員会(USOPC:The American Development Model

アメリカオリンピック・パラリンピック委員会は、ユースアスリートの安全かつポジティブなスポーツ経験に向けて、保護者等を手助けするための年代に応じたアプローチを推奨している。

American Development Model(一部)

ステージ1(年齢:0-12):Discover, Learn and Play
スポーツを楽しむ
ステージ2(年齢:10-16):Develop and Challenge
チームワーク、コミュニケーションスキルなどの習得
ステージ3(年齢:13-19):Train and compete
挑戦的な状況で競う、スポーツ心理学や栄養などのスポーツ科学を学ぶ
ステージ4(年齢:15+):Excel for high performance
高いパフォーマンス発揮
ステージ5:Active for life
競技者引退後、レクリエーションスポーツなど多様なスポーツとの関わり方

②スウェーデン


アイスホッケーの12歳以下の大会でスコアをつけることはあっても、それを発表することは禁止している。その他にも、スウェーデンの陸上競技クラブ(育成年代)にデンマークの調査研究(Henriksenら, 2010a)で構築されたAthletic Talent Development Environment:ATDEモデルとThe Environment Success Factors:ESFモデルを適応した研究がなされている(Henriksenら, 2010b)。

③ノルウェー 


ノルディックスキーのタイムをとっても、それをランクとして発表することを国で禁止している。
その他にも、ノルウェーのカヌーチーム(育成年代)にATDEモデルとESFモデルを適応した研究がなされている(Henriksenら, 2011)。

このように、各国で様々な取り組みがなされています。
ここでポイントとなるのは、ジュニア年代のスポーツの入り口となるのが「スポーツを楽しむこと」です。
その後、「勝つために競う」段階に移行していきます。その理由は、バーンアウト(燃え尽き症候群)を防ぐこと、
さらには、勝つためだけにスポーツに取り組まず、プロセス思考(やるべきこと)を育むことを大切にしているからだと
考えられます。
私もトップアスリートをサポートさせて頂く立場になってからしばらく経ちますが、トップアスリートも結果を出したいが故、
結果を考えすぎてプレッシャーに押しつぶされそうになる選手も少なくありません。
その意味で、ジュニア世代から段階的にスポーツを楽しむこと、プロセス思考を育むことをアプローチしていくことで、
トップアスリートになった時にうまくスポーツへの向き合うことができるかもしれません。
確かに、幼少期から成功体験を積ませるために勝つことに意識を向けさせることも悪くはないかもしれません。
しかし、長期的にみれば、上記のようなステップを踏んでアプローチしていくことでバーンアウトなどのリスクを下げていくことも大事なのではないでしょうか。

引用・参考文献

  1. OTEMON VIEW編集部. https://newsmedia.otemon.ac.jp/2573/ .

  2. USOPC. https://www.usopc.org/about-the-usopc .

  3. 高妻容一.(2014). 今すぐ使えるメンタルトレーニングー選手用ー. ベースボールマガジン社.

  4. 高妻容一.(2014). 今すぐ使えるメンタルトレーニングーコーチ用ー. ベースボールマガジン社.

  5. Henriksen, K., Stambulova, N., & Roessler, K. K. (2011). Riding the wave of an expert: A successful talent development environment in kayaking. The sport psychologist, 25(3), 341-362.

  6. Henriksen, K., Stambulova, N., & Roessler, K. K. (2010). Holistic approach to athletic talent development environments: A successful sailing milieu. Psychology of sport and exercise, 11(3), 212-222.

  7. Henriksen, K.,Stambulova, N . Roessler, K. K. (2010). Successful talent development in track and field: considering the role of environment. Scand J Med Sci Sports, 2, 122-132.



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