見出し画像

ガーシーと落語と。



は?っていうニュースが出てました。

報道によると、東谷氏の「落語家転身宣言」は2024年6月4日に行われた幻冬舎の編集者・箕輪厚介氏とのトークイベントでの発言だ。10月にデビュー予定で、「東笑亭(とうしょうてい)ガーシー」という名前も紹介した。

ある落語家からは「もう東さんぐらいの知名度があったら人の看板はいらない。自分で看板をあげてください。創作落語をやったら絶対いけます。寄席とかも呼ばれますよ」と言われたという。

「落語家の定義」というのは、実は難しく、落語を演る人を落語家と呼ぶのならばそれはそれで全員落語家ですが、このニュースで気になるのはある落語家が言ったという「寄席とかも呼ばれますよ」っていう一文があること。

多分、このニュースに批判的な意見が多いのは、「落語好きな有名人が落語をやる」ってことでなく、「極めて評判の悪い執行猶予中の迷惑系有名人が落語家になって寄席に出る」っていう文脈で報道されたからでしょうね。

落語に詳しくない人だと何が何やらわからないでしょうが、広義には「落語なんかの演芸を定期的にやる小屋」の場所全般を寄席と言いますが、落語をやる人・見に行く人が普通に「寄席」と語る時は、

新宿末広亭
上野鈴本演芸場
浅草演芸ホール
池袋演芸場

の4つのことを指します。

で、落語界には、

落語協会
落語芸術協会
円楽一門会
落語立川流
上方落語協会

という5つの団体があり、基本的にこのどれかの協会に属していて、誰かの弟子になって修行した(している)人のことを落語家と言いますね。

真打ちになってからは師匠ともめたりしても落語家と認められますが、真打ちになってない人は落語家としては認定されないのが普通(上方は真打ちとかなし)。

自分で落語を学んで、自分で名前をつけて、落語会をやる人もいることはいるでしょうが、いわゆる落語界においては、そういう人は落語家としてはカウントされません。当然、寄席にも出れない。

そもそも、円楽一門会と落語立川流は落語協会から分裂した時に色々と揉めた為、寄席には一切出れなくなったし、落語芸術協会も鈴本演芸場と揉めた為、そこの寄席にも一切出ない。

円楽一門会と落語立川流の芸人は、最近ちょろちょろと末広亭には出始めていますが、基本的に他の寄席には出ません。

つまり、ある意味で極めて閉じた世界で運営されているので、師匠もいない素人の迷惑人間を寄席に出すことなんてまずありえないわけです。

なので、ガーシーが寄席に出ることなんてのはまずないことです。


この話に噛みついた落語ファンが多いのは、落語をはじめ、講談、浪曲なんかの古典芸能というのは師匠と弟子という連続性を100年単位で続けてきて、芸を継承し、ブラッシュアップし、さらに新たな作品を生んで・・・ってのを修行とセットで継続してきた世界なので、わけのわからん迷惑系新参者にグダグダ言われて土足で入ってこられるのが腹立たしいところがあるからでしょうね。

そもそも落語なんかの演芸は、ラジオの時代くらいまでは全盛だったそうですが、テレビが出てからは、ジジイがずっと座って喋っているのなんて面白くもなんともないし、漫才ブームやその後の「師匠を持たない芸人」がテレビで一世風靡するのが当たり前の時代になり、完全に下火になってしまった演芸。

5年くらい前までの私もそうでしたが、落語家で知ってるのは笑点に出ている人と立川志の輔くらいのもので、落語自体を聞いたこともないし、どんな話があるのかなんてのも全く知りませんでした。

周りの友人でも「落語・講談が好き」なんて人は1人もいなかったし、今もほぼいねえよw

そんな下火の一般的ではなくなってしまった演芸をなんとか盛り上げようと、落語の世界では売れに売れていた春風亭一之輔も出る必要のない笑点に出ることにしたんでしょう。

一之輔は、世間的な知名度は皆無に近かったと思いますが、落語の腕は超一流で、私は一之輔の落語会に行って声を出して笑わなかったことはありません。

人情噺をやらせても見事であり、既に落語界でもトップクラスに忙しい現状を抱えている中、わざわざ笑点に出るのは、自分の顔を売って寄席や落語会に足を運んでくれる人を増やそうっていうマーケティング以外には、あまり理由が浮かばない。

一之輔の寄席に出ている回数とか半端ないですよ。で、笑点に出てから、それまでなんとか取れていた独演会なんかのチケットはほとんど取れなくなった。

また、落語以上に完全にオワコンだった講談を盛り上げるために、神田伯山はあえて露悪的なキャラでマスコミに出て毒舌で売れて客を引き込んだ。

浪曲も玉川太福が出てきて、ちょっと盛り上がってきた。


落語好きな芸能人はたくさんいるし、舞台とかYouTubeとかで落語をやっている職業落語家じゃない人もそこそこいます。

風間杜夫とか有名だし、千原ジュニアとかもやってるしね。

でも、彼らは「落語家」とは名乗らないし、タレントから落語家に転身した山崎邦正とか世界のナベアツも、弟子入りして名前も変えてます。

私はこの「閉じた世界観」が絶対的に正しいかどうかはわかりません。

ダウンタウンやとんねるずは、師匠がいるところから修行していたら出なかったと思ってますから。自由だからこそ、あそこまで羽ばたいた。

けどね、閉じた世界で芸と歴史を継承していく演芸があってもいいと思うし、だからこそ進化していく部分もあると思ってます。

歌舞伎もそうだけど、演芸好きな人ってのは、芸と歴史の継承込みで好きな人が多いので、ならずものがグダグダ言ってるのがイヤよね?って話であったと思います。私もイヤですw


サポートありがとうございます!! 頂いた応援でエビスビールと芋焼酎とラーメンを頂いて、本を買います!