【読書記録】『アルジャーノンに花束を』障碍者から目を逸らすな
ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』
今日、読了しました。SNSで話題になっているし、履修しとくかーぐらいの気持ちで読んだんですけど、いつの間にかチャーリーのことが大好きになってました。もちろん、幼いチャーリーも天才チャーリーも等しく好きです。
障碍者が求めるのは自立
「何もしてないのに攻撃された」
「助けてあげたのに悪態をつかれた」
障碍者の印象を尋ねると、大体こんな話になります。「お礼も言わないなら、次からは助けてやらない。」もしそういう論調になるなら、ちょっと待ってほしい。彼らはぽっと出の善意を受け取るには、あまりにも多くの悪意に晒されてきたのです。
チャーリーはパン屋の同僚を「友達」だと思っていました。しかしIQが上がり、本当はチャーリーをからかっていたことに気付きます。ニーマー教授からモルモット扱いされていたことにも腹を立てます。チャーリーの場合、これらは手術を受けたから発覚したことです。しかし現実では、手術を受けていなくとも思い当たらせてしまう出来事が起こる。障碍者、支援を必要とする人たちは多かれ少なかれ、悪意を向けられているかも知れないと思いながら、それでも自立を目指している。
物語終盤、知能のエスカレーターを下っていくチャーリーの葛藤は、アリスを失うことよりも今の自立した生活を失う方に恐怖心が傾いているように感じます。アリスラブならビデオレターとか、もっとこう生きた証を残すかも。(研究資料の方がよっぽど書き残してる。)でもチャーリーは、嫌な思いをする可能性の高いパン屋に戻ってでも自力で生活したがる。
最後は、アリスと恋仲であったことは忘れてしまったけど、ウォレン養護学校に入る時期は自分で決定するという願いは覚えています。これはチャーリーが自尊心を守ろうとした結果だと思います。
それより置いて行かれたアリスが可哀想。コケにされたニーマー教授が心配。という感想が第一に上がるのであれば、前言撤回します。障碍者が困っていても”ほうっておいてやってくれないか”。少しでも感謝という対価を求めた時点で、いかなる善意が元で起こした行動であっても彼らの自尊心を傷つける結果になります。なぜなら彼らは何より自立という渇望を満たすことに人生を捧げて立ち向かっているから。彼らと関わる第一条件は、この渇望に理解を示せるかどうかだと思います。ちなみに私はその日の気分に寄ります。彼らは私のご機嫌をなだめる材料ではないので。めっちゃ気分のいい日にしか、手助けしません。
とはいえ、支援しなきゃいけない時がくる
私の職場には、特性を持つ人が多数在籍しています。チャーリーほどじゃないけど忘れっぽい人、感情の起伏の読めない人、そもそも識字能力が怪しい人。かつては盲目の人もいたとか。私は彼らに慈善行為ではなく、同じ会社で働く同僚として接しています。でも、丸っきり健常者と同じ関わり方では仕事になりません。やっぱり周りがこまめにケアする必要が出てくる。当然仕事だから、私がめっちゃ機嫌の悪い日もある。
ただし、私は会社にいる間だけ我慢できればいい。これがもし、家族だったら?一日中、自宅で面倒を見るしかなかったら?私はそのあたりの自信が持てません。
すべての人に起こり得る出来事
障碍者と関わる機会は、全員に等しく用意されています。パン屋で働く同僚、ゴードン一家、恋人、あるいはチャーリー自身として。母ローズが救われない状態で再登場したのは、誰しもが支援を必要とする側になる可能性があるということを示唆しているのだと思います。
現金な話ですが、いずれ自分も誰かのお世話になるかもと思えば、私はすこぉしだけ人に優しくなれます。でもやっぱり、もし私が障碍者になったら、素直に他人に感謝なんてできないと思う。自分のことは自分でしたいと願うだろうし、せめて自力でアルジャーノンに花束をお供えできる私でありたいと足掻き続けてしまうと思う。
それを友達(アリスキニアン先生と研究員達に宛てた手紙ですが、この時のチャーリーはたぶん友達だと思ってそうなので)に託せるチャーリー。自分に出来ないことを受け入れられる強さを、チャーリーは手術で手に入れたのです。……いやでも私はやっぱり、高飛車で傲慢なチャーリーのままでいて欲しかった……。
追記(次回予告)
今回デリケートな内容の記事を書きましたがいかがでしょうか。気分を害された方がいれば、申し訳ないことをしたと思います。すみません、忘れてくだされば幸いです。
次回は「こんなアルジャーノン効果があるか!」と賛否両論ある、知念実希人『レゾンデートル』の読書記事を書く予定です。私は嫌いじゃないですよ。末期がん患者がアグレッシブになる度にアンパンマンの顔が新調された感じがして良い。よければまた読みに来てください。
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