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若き日の帆走 ー詩壇の轍.2

1965年の「琉球新報」で始まった「琉球詩壇」の第1回には、4編の詩が掲載されました。前回ご紹介した翁長羊恵さんの作品をはじめ、小嶺幸男さん、鈴木貞子さん、マキ・テツオさんの詩が載っています。

夜明け/小嶺幸男

淡紅色の曙光は
潮騒とともに

冬海は長い眠りから覚め
どす黒く脈打つ

夜明けは しらじらと
梯梧の枝は天をつかみ
赤瓦の傾斜は
誕生のあしおとを聞く

文盲の漁船は
並び
若き日の帆走を夢見る

「琉球新報」1965年1月11日

朝日に照らされた海は、冬でもエネルギーに満ちています。
沖縄の海は場所によってさまざまな表情を見せます。ビーチやホテルが並び観光客でにぎわう西海岸はサンゴ礁のリーフに囲まれた穏やかな海ですが、それとは対照的に、朝日が昇る東海岸には荒々しいイメージがあります。初日の出を見る人が集まる沖縄本島最北端の辺戸岬などは断崖で、リーフとはほど遠い、波高く険しい表情。風や天候によっては、地響きのように海鳴りが聞こえてくることもあります。

太い枝を伸ばし、天をつかむような梯梧も力強い情景です。ダイナミックな自然の営みの中に赤瓦の傾斜が描かれ、暮らしの息吹も感じさせます。1月という新たな年が始まる時期にふさわしい、読み手に力をあたえてくれるような詩です。

この作品は「琉球詩壇」選者の詩人あしみね・えいいちさんが、記念すべき第1回の冒頭に掲載している詩です。〈主題をあからさまに、生々しく前面におしだすことを躊躇しているようであるが、この詩はそれなりに格調の高い作品である〉と評価しています。

小嶺幸男(コミネユキオ)さんは「琉球詩壇」の常連投稿者で、後に詩集も発行しています。検索結果によると「ユキオー詩集」という詩集が1999年に発行されているようです。

現在はプリントオンデマンドなどのサービスを使えば、手間はかかりますがゼロ円から詩集を発行できます。しかし1960~90年代はまったく状況が違い、出版社を介して数十万円を費やさなければ詩集の発行は難しい時代でした。

そういった中で、新聞という媒体を通して10万世帯以上の人々に詩を届ける役割を「琉球詩壇」が果たしていました。沖縄の詩の書き手と読者をつなぎ、書き手のプラットフォームの役割を果たしていたからこそ、後にその投稿者の中から山之口貘賞や小熊秀雄賞、小野十三郎賞などの文学賞受賞者を輩出することができたのだろうと感じます。

次回は、鈴木貞子さんの詩をご紹介します。

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