時代のはざまを掘り起こす

 杉本真維子さんが担当している詩の時評「詩はいま」が全国の地方紙に連載されています(共同通信の記事で、新聞に毎月載るかどうかは地域の新聞によって違うみたいです)。わたしは沖縄の新聞で読んでいます。

 前回の記事で萩原朔太郎賞の話からそれて「詩はいま」について書いた流れもあって、こういうかんじのあれです。前回の記事は下(↓)でございます。

 4月の初回、冒頭で尾花仙朔さんとの縁にふれて「詩の未来をつなぐ」ということについて書かれています。

 今は亡き仙台の詩人尾花仙朔さんに自著をお送りしたところ、「H氏賞だけは詩を書く人がいる限りなくならないから」という言葉で、賞への応募を勧めるお手紙をいただいたことがある。若き日の私は今と変わらずズレており、面識のない私になぜこんなに親切に?とうれしくも不思議に思ったものだった。
 今思えば、あれは詩の未来をつなごうとする尾花さんの深い思いゆえのことだった。詩の世界は昨今、岩成達也、天沢退二郎、思潮社代表小田久郎ら一時代を築いた詩人たちの訃報が相次いでいる。死によっても消せない、それぞれの詩人による詩の未来へのまなざしを思いつつ、心より哀悼の意を表したい。

杉本真維子「詩はいま」4月/共同通信

 このかん、天沢退二郎さんらの訃報がつづいたことについての言及です。かつて駆け出しの時代を経験した中堅の詩人として、現代詩のシーンを牽引する杉本さんの言葉と考えると重みを感じます。

 「一時代を築いた」といわれるほどの詩人となれば、その遺産ははかりしれない規模になります。死後に読まれ、見いだされていく価値や魅力もあるでしょう。
 ただそういったプレイヤーがうみだされ、はぐくまれる詩の土壌は、いまの現代詩のシーンに存在しているのか、ありつづけているのだろうか、という点についても、ある程度のキャリアをもった書き手となれば視界に入ってこざるを得ない問題なのだと思います。

 時評の対象としては、2023年のH氏賞受賞作、小野絵里華さんの詩集「エリカについて」(左右社)、立木勲さんの「ウムルアネケグリの十二月」(書肆子午線)などについて評しています。

 それぞれの評言は単純に素敵なで、それらの作品をぜひ読んでみたいと思わせるものです。一方で上記のような観点を踏まえると、それらの作品に対する視線もより後続世代を含めたあらゆるプレイヤーの美点を見いだし、より広く伝えて詩壇を耕そう、受容する側をふくめて刺激していこうという思いを感じます。

 いっぽう、女性の書き手に対する視線にはより強い意志を感じます。10月の「詩はいま」では棚沢永子さん「現代詩ラ・メールがあった頃」(書肆侃侃房)と、たかとう匡子さん「私の女性詩人ノート3」(思潮社)を取り上げています。

 「現代詩ラ・メール」とは1983~93年に存在した女性による女性のための詩誌で、小池昌代ら多くの詩人を輩出した。編集人は新川和江と吉原幸子で、「男性主導の文芸シーンに一石を投じ」たムーブメントでもある。 当時駆け出しの担当編集者だった著者が、満を持して世に送り出した現場の生のすがたがすさまじい。たとえば「ちょっと待ってて」と原稿用紙5枚のエッセーをその場で怒濤のように書き上げる白石かずこ。みな懸命に詩のために生き、ときには命までも削って、道なき道を歩んできたことを実感させるエピソードの数々。過去の時間への感謝とともに、現在地を照らす見事な一冊だ。
 たかとう匡子「私の女性詩人ノート3」(思潮社)は、「もうここで『女性詩』とか『女性詩人』という言葉を本当の意味での死語にしたい」という決意と願いを込めた3部作完結編。年代順に取り上げた12人の詩人の最後を飾るのは99年に第1詩集「いまにもうるおっていく陣地」を刊行した蜂飼耳。たかとうは当時「陣地」という戦場言葉の使用に驚き、蜂飼が詩を書き始めた90年代初頭ごろ(「ラ・メール」終刊後)に言葉の価値観の変化があったのではないかと考察する。蜂飼耳の登場が一つの大きな幕開けとなったことが改めてわかる。

杉本真維子「詩はいま」10月/共同通信

 時代を区切り定義する、提唱することは、それぞれのシーンによって求められるタイミングがあるように思います。女性詩の時代論は、まさに今なのではないでしょうか。
 このタイミングで出版された2冊をとおし、時代を転換した地点はどこだったのか、時の流れに埋没させるべきでないことがらとは何なのか、といった重要なことが明確に示されています。

 現在進行形ではないが、評価が既に定まったものでもない、その中間にあるものを埋もれさせずに形あるものとして見せてくれる。そんな時評を読むことができるのは幸運だと思えます。時評とは何か、時評でなすべきものとは何なのか、ということを考えさせられます。


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