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授業には発展してきた歴史がある

 5年国語「たずねびと」の授業研究だった。文学的文章の授業づくりである。「たずねびと」は、同性同名が刻まれた場所を訪れるという能動性から、戦争で奪われた自分自身を記憶に留める人を探し求められていたことに気づくという受動的能動性へと中心人物が変容する。そうした変容を読みとることを通して、あなたは戦争をどう継承していくかを物語から尋ねられるという作品である。「たずねる」との意味内容が多重に解釈されるのである。

 まず、物語に出てくる場所を並べ替える。原爆供養塔納骨者名簿、原爆ドーム、慰霊碑、平和記念資料館、追悼平和祈念館、原爆供養塔といった写真を時系列に並べ、中心人物の前に現れたものや自分との出会いを整理することで、物語の全体を「あらすじ」で捉える。

 次に、重要人物の「セリフ」から「中心人物の変容」にとって大切な言葉を抜き出すことを通して、物語の全体を「中心人物の変容と人物関係図」で捉える。
 
 最後に、「題名」(たずねびと)読みを通して、だれがだれをたずねる物語であるかを考えをまとめ、伝え合うことを通して、物語の全体を物語から受け取ったメッセージで捉える。

 物語全体を「あらすじ」「人物関係図」「中心人物の変容」「物語のこころ」といった読みの観点を手掛かりに、幾重にも物語の全体を読み深めていく単元構成となっていた。

 参観した授業は、「どういうふうに話したい?」と学習方法を子どもたちに決定させたり、「夢や希望を“奪われた”と言い換えていい?」と子どもの言葉を書き換えていいかを子どもに確認したり、子どもたちが自分たちで決めるということを大事にされていた。

 だからこそ、一つには、「自分の考えをまとめるだけでな、自分の考えを伝え合う」という単元を貫く学習のゴールではなく、「自分一人で読み取ってきた自分の考えを、みんなで授業をつくることを通して、物語を読み深め変化してきた自分の考えを伝え合おう」という課題にチャレンジしていいように思えた。二つには、子どもたちが授業の最後に参観者に対して自分たちで挨拶をしてくれたり、授業が始まる前に、授業のなかで自分たちでつくり出してきたクラスメイトの発言への応答のことばを紹介してくれたりしたのだが、自分たちが授業の中での行為に何を価値として選び、どのようにいま授業に取り組んでいるのかという授業そのものの発展の歴史を子どもたちが語ってもいいように思えた。

 刻々の指導的評価活動のなかで、子どもたちが教師の指導性の何を選んできたのかを子どもたちの声として聴いてみたい。子どもたちがどんな方法を選んで授業をつくっているのかを語ってもらいたい学級だった。 

 

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