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「ホワイトベースを捨てる私にあなたは何をしてくださるの?」自らの手で道を切り開く者たち~機動戦士ガンダム 第33話「コンスコン強襲」感想

キシリアとドズルの関係

ナレーター「かつて、サイド1のあった空域。現在ここにはドズル・ザビ中将の指揮する宇宙攻撃の本部ともいうべきソロモンがある。今ここからコンスコン機動部隊が発進する。ドズル中将は姉のキシリアがシャアを使っていることに反感を持っていた。できることならみずから木馬を討ち、シャアの無能さを証明してやりたかった。しかし、ルナツーに集結しつつあるティアンム艦隊の目的がわからぬ限り、これ以上の兵力を出す訳にはいかない」

キシリアとドズルの関係についてはこれまで何度か出てきた。この2人の意見の違いが最初に見られたのはガルマが戦死したときの対応である。

ガルマの死を国葬にしたいキシリアとそれよりもシャアの処分だと声を荒げるドズル。

その後、ガルマの国葬の際、キシリアからシャアのことを聞かれ、そっぽをむくドズル。ドズルはシャアのことが許せない様子だ。実際、シャアは左遷されている。

それに対してキシリアは左遷されたシャアを大佐として復帰させた。この扱いにはドズルは納得いかないであろう。

ガルマの仇討ち部隊としてランバ・ラルが地球に派遣された際にもドズルとキシリアの微妙な関係はうかがえた。

キシリアは常に中長期的な視点で、戦争後のことまで考慮しつつ行動している印象を受ける。キシリアもガルマの件でシャアに思うところはあるだろうが、そこは能力優先だ。したたかというか冷酷というか、そんな印象である。

今回ドズルがコンスコン部隊を派遣したのはホワイトベースを討伐し、シャアの無能さを証明するためとナレーションでは説明されている。この前提に立つならドズルの行動の動機は近視眼的で子供っぽい。

さて、ホワイトベース討伐のために派遣されたコンスコン機動部隊だが、果たして。

「あなたフラウ・ボゥのことどう思ってるの?」

セイラ「ねえアムロ、あなたフラウ・ボゥのことどう思ってるの?」
アムロ「え?な、なぜですか?」
セイラ「なぜって、あなた最近フラウ・ボゥに冷たいでしょ?」
アムロ「そんなことないですよ」
セイラ「そうかしら?こんな時だからこそ友情って大切よ」
アムロ「別に嫌いになってるわけじゃあ。左を!!」
セイラ「えっ?」

サイド6に向かう道中、パトロールをするカイ、セイラ、アムロ。

その最中、セイラが「あなたフラウ・ボゥのことどう思ってるの?」、「あなた最近フラウ・ボゥに冷たいでしょ?」と尋ねる。

アムロのフラウボウに対する言動が冷たいと感じるシーンはこれまでにいくつかあった。例えば、第19話「ランバ・ラル特攻!」で、ランバ・ラル隊にフラウボウが捕まったシーン。

フラウ「さっきの女の人が見ていたからあたしと手をつなぐのやめたんでしょ?」
アムロ「違うよ」
フラウ「嘘。どんどんあたしから離れて行っちゃうのね、アムロ」

第19話「ランバ・ラル特攻!」

また、第24話「迫撃!トリプル・ドム」でのエレベータ前でのこのシーン。アムロがマチルダに夢中になってフラウボウのことをおざなりにしている。

フラウ「あ、おはようございます」
マチルダ「おはよう」
フラウ「アムロ!」
アムロ「あっ、なんだよ?」
フラウ「さっき、食事が終わったらあたしの部屋のエアコン直してくれるって言ったでしょ」
アムロ「そうか?」
フラウ「ん、もう」
ハロ「ン、モウ、ン、モウ、ン、モウ」
フラウ「うるさい!」

第24話「迫撃!トリプル・ドム」

アムロはハモンだったりマチルダだったり、大人の女性が登場すると途端にフラウボウへの対応が軽くなる。

また、アムロとフラウボウの関係は、常にマイペースなアムロとおせっかい焼なフラウボウという関係は第1話から見て取れた。フラウボウのおせっかいにはアムロへの好意の意味合いも含まれているが、アムロがそれに気づく気配はない。なんせフラウボウの用意したサンドイッチを食べずずっと機械いじりをしているようなヤツである。

その後、アムロはガンダムのパイロットとして奔走するようになる。

他方、フラウボウはカツ・レツ・キッカのおもり役や避難民対応、食事の準備など遊軍的な立ち位置だったが、セイラがGファイターで出撃するようになってからは通信担当におさまっている。

ホワイトベース内でのそれぞれの役割も確定した。その分、アムロとフラウボウの接点も少なくなっているのかもしれない。

そんな無駄口を叩いているときに敵機発見!緊張が走る。

偶発的な戦闘

ジオン兵A「見つかったようです、砲撃を」
シムス「待て、もう少し」
ジオン兵A「よりによって故障した時に・・・」
シムス「エンジンは動くな?」
ジオン兵A「一応は」
アムロ「い、いけない。セイラさん、離れてください!」
セイラ「え?う、撃ってきた。ジオンのモビルアーマーだわ」
アムロ「い、いえ、モビルアーマーかどうか・・・き、来ますよ!」
シムス「馬鹿めが、なぜ撃ったのか?」
ジオン兵A「こ、攻撃を仕掛けてきましたので」
シムス「相手にそのつもりはなかった。そそっかしい」

映像を見る限り、先に砲撃したのはブラウ・ブロである。ブラウ・ブロはもともと攻撃する意思はなかったが、Gアーマーが接近してくるのを見て攻撃されると思い先制攻撃をした。

ではGアーマーの方はどうか。Gアーマー側はあくまでパトロール中であり、攻撃態勢にも入っていない。アムロも「離れてください」と言っている。敵機に接近しているがはあくまで偶発的な事象である。しかし、結果的にそれがジオン軍側の誤解を誘発し、戦闘に突入してしまった。双方ともに攻撃する意思がないにもかかわらずである。

こうした「どちらも攻撃するつもりはないのに、なし崩し的に戦闘に突入してしまう」といった事象は世界史的に見ればよくある話である。そのもっとも有名でもっとも悲惨な例は第1次世界大戦であろう。

アムロ「妙なモビルアーマーです。ボトルアウトします、岩のうしろへ!」
セイラ「了解!」
ジオン兵A「チィッ、一気にパワーを上げすぎました」
シムス「構わぬ、このブラウ・ブロを見られたからには敵を倒さねばならん」
セイラ「3、2、1」
シムス「ん?あそこか。相手はたかが1機だ。仕留めるぞ」
アムロ「砲撃が妙な方向から来ますよ、気を付けてください」
セイラ「了解」
アムロ「うわっ。ど、どっから撃ってくるんだ!?」
セイラ「この程度のスピードで・・・」
アムロ「そこだ!」
シムス「ええい、ようやく実用化のメドがついたものを」
セイラ「アムロ、手間取ったわ。サイド6の領空に入る前にホワイトベースへ戻りましょう」
アムロ「了解」

このシーンでアムロが「ボトルアウト」と言っているのはミスであろう。正しくは「ボルトアウト」である。

Gアーマーからガンダムが分離することを機動戦士ガンダムでは「ボルトアウト」と言っており、第28話「大西洋、血に染めて」では正しく「ボルトアウト」と表現している。

セイラ「Gアーマーのまま発進するわ。空中でボルトアウトしましょう」
アムロ「了解」

第28話「大西洋、血に染めて」

偶発的に戦闘に突入してしまったブラウ・ブロだが、おもしろい戦闘を見せる。ブラウ・ブロ本体からワイヤー状のものがギュイーンとのび、その先端部分からビーム攻撃を仕掛ける。

この画像はブラウ・ブロがガンダムのビームライフルの攻撃をかわしつつ、画面右下方向にはけていくシーンだが、よくみると右足部分の先端にビーム発射口が描かれていない。つまり、いまブラウ・ブロは上述のワイヤー状のものをギュイーンとのばした状態ということだ。

そして次のシーン、何もない宇宙空間からビームがガンダムめがけて発射される。アムロも「うわっ。ど、どっから撃ってくるんだ!?」と戸惑いっぱなしである。

しかし、ブラウ・ブロはまだ実験段階で実用化にまでは至っていない。しかも整備中でエンジンも不調な様子だ。今回、ガンダムがブラウ・ブロを撃破できたのはこうした幸運が重なったからである。

中立サイドーサイド6

ナレーター「この灯台の内側はサイド6の領空である。ここでは、地球連邦軍であろうとジオン軍であろうと、一切の戦争行為が禁止されている」
・・・
ブライト「ご苦労さまです」
カムラン「サイド6の検察官カムラン・ブルームです」
・・・
カムラン「ホワイトベースのミサイル発射口、大砲、ビーム砲にこれを封印しました。これが一枚破られますと」
ブライト「わかっています。大変な罰金を払わなければならない」
カムラン「はい」
ブライト「私が聞きたいのは、船の修理が・・・」
カムラン「それもサイド6の中ではできません。すべて戦争協力になりますので・・・」

中立という概念は非常にわかりにくい。前回紹介したWikipediaの記事を改めて紹介する。

「戦時中立国とは、国際法上の中立法の原則に基づき、紛争のいずれの側にも加わらず、双方に対して公平な態度をとる主権国家をいう。中立国はその領土や領域について交戦国によるいっさいの侵犯から免れる一方,交戦国双方に対して厳正に公平である義務を負う。たとえば,交戦国に軍隊,船舶,武器,弾薬,資金その他直接,間接に戦争に使われうる物資を提供したり,その領内を軍事基地や軍事的移動経路として使わせたりしてはならない。」

Wikipedia-中立国

ホワイトベースはムサイ3隻との戦闘によりかなりの損害を被っている。そこにシャアのザンジバルが接近中だ。このままでは勝ち目はない。そこでサイド6に逃げ込むことに。

サイド6は南極条約によって中立サイドとされている。サイド6の周辺には画像にあるような灯台がいくつも設置されており、その内側では一切の戦争行為が禁止される。問題は「一切の戦争行為」とは何かということである。

ミサイル発射口や大砲、ビーム砲に赤い封印が施される。これが破られれば多額の罰金の制裁が科される。サイド6領域内での砲撃等が戦争行為に該当するので禁止というのはわかりやすい。

しかし、ブライトが「船の修理が・・・」と尋ねると、カムランは「それもサイド6の中ではできません。すべて戦争協力になりますので・・・」と拒否した。前回のラスト、スレッガーが「うまくいけばホワイトベースの修理もできる」と言っていたが、見通しが外れたわけだ。

「船の修理くらいいいのでは?」と当時見ていたちびっ子たちは思ったかもしれないが、戦艦は戦争行為に利用するものであり、それを修理することも戦争に加担する行為であって中立義務違反となる。

しかし、ナレーションの説明とカムランの発言を注意深く分析すると、抜け道が見えてくる。

ナレーター「この灯台の内側はサイド6の領空である。ここでは、地球連邦軍であろうとジオン軍であろうと、一切の戦争行為が禁止されている」
・・・
カムラン「それもサイド6の中ではできません。すべて戦争協力になりますので・・・」

カムランは「サイド6の中ではできない」といっており、ナレーションも「この灯台の内側がサイド6の領空」といっている。したがって、灯台の外側であれば戦艦の修理もできる。

のちほど登場するペルガミノの浮きドックはサイド6の領域の外側に設置されており、そこではジオン軍の軍艦でも連邦軍の軍艦でも修理を行っている。

つまり、ナレーションとカムランのセリフはペルガミノの修理ドックの伏線となっているわけだ。

ミライとカムラン・・・とブライト

カムラン「・・・ミライ、ミライじゃないか!」
ミライ「カ、カムラン、あなた」
カムラン「・・・ミライ、生きていてくれたのかい!ミ、ミライ!」
ミライ「・・・あなたこそ元気で」
カツ「ああ?」
アムロ「誰なんだろう?」
マーカー「親戚じゃないの?」
ブライト「カムラン検察官、入港中です、遠慮していただきたい。ミライ少尉も」
カムラン「あ、ああ、中尉、すまない。ミライ」
ミライ「ええ」

ホワイトベースのブリッジでミライとカムランの再会である。後ほど判明するがカムランはミライのフィアンセだ。ミライのフィアンセがサイド6にいることは第31話「ザンジバル追撃」で語られていたので、視聴者としてはカムランが「ミライじゃないか!」と言った時点で「ああ、コイツが例の・・・」とすぐわかるようになっている。

このシーン、カムランが「ミライじゃないか!」と言って無邪気に語りかけたときのミライの表情が絶妙だ。

「まさか、ここで再会するとはー!」というおどろきの他にも、「ブライトのいる前ではまずい」とか「仕事中に言う!?」という当惑の気持ちもあるだろう。ただ、見る限り再会できてうれしそうという印象はあまりない。

そんなミライの内心に気づく様子もなくカムランはぐいぐいくる。

そんな様子を見てブライトが努めて冷静な表情と口調で「カムラン検察官、入港中です、遠慮していただきたい。ミライ少尉も」と注意。肩書付きで呼称するあたりにブライトの内心のざわめきとそれを抑え込もうとするブライトの葛藤が表現されている。

カムランは「すまない」といいつつミライの腕にそっと手をおくし、ブライトはそれを無言でチラッと一瞥するし、ミライはこの状況に困惑の表情を浮かべるしで、かなりカオスな状況となってしまっている。やはり男女関係はこうでなくては。

カムラン「嬉しいだけだよ。もう二度と君には会えないと絶望していたんだ。そしたらこの戦争だろ、君の父上が亡くなられなければ戦争だって」
ミライ「そうね、私がサイド7へ移民することもなかったかもしれないわね」
カムラン「それなんだ、なぜそれを僕に知らせてくれなかったんだ?ミライ。君の消息を得る為に僕は必死だった」
ミライ「必死で?」
カムラン「ああ、必死で捜させた。いくら費用がかかったか知れないくらいだ」
ミライ「そう。なぜ、ご自分で捜してはくださらなかったの?」
カムラン「このサイド6に移住する間際だったから」
ミライ「結局、親同士の決めた結婚話だったのね・・・」
カムラン「そ、そりゃ違う、ミライ。そりゃ君の誤解だ!これから僕のうちへ来ないか?父も喜んでくれるよ」
ミライ「え?だって」
カムラン「悪いようにはしない。ミライ、君の為の骨折りなら!」
ミライ「ちょ、ちょっと待って・・・」

ホワイトベース入港後、ミライとカムランがドックで話している。

カムランは、戦争が始まりミライの消息がわからなくなったところで「必死に捜させた」という。ここがミライの引っ掛かりポイントである。「なぜ、ご自分で捜してはくださらなかったの?」と尋ねる。

もとは親同士の決めた婚約だったのだろうが、カムランは本当にミライのことを想っているのだろう。

しかし、ミライにはその想いが届いていない。それはカムランの想いに具体的な行動が伴っていないからである。そのためどこか他人事のような印象を与えてしまっている。

そして出てくるのは「これからうちへ来ないか」とか「父も喜んでくれる」とか自分の都合ばかり。

民間人であるミライがなぜホワイトベースという軍艦に乗っているのか、ミライの現在の立場に対する配慮は見られない。

このやりとりを聞いていてムカついたスレッガーがカムランを殴る。「失礼」と言って眼鏡を外して殴るあたりスレッガーなりの優しさであろう。

ここで殴られたことに怒りだしたら、カムランは人の気持ちを考えられないただのバカである。しかし、カムランはすぐに意味を理解し「ご婦人の口説きようがまずいというわけさ」と自省している。

こうしたやりとりからすれば、カムランはただのダメなヤツというよりは恋愛が苦手な不器用なヤツといった方がしっくりくる。

「若者をいじめないでいただきたい」

コンスコン「ドズル中将のもとにいたと思えば今度はキシリア少将の配下に。自分をみっともないと思わんのか?木馬は何度取り逃がしたのだ?まったく。私の手際を見せてやる、よく見ておくのだな」
シャア「は」
コンスコン「誰が帰っていいと言ったか」
シャア「若者をいじめないでいただきたい。お手並みは拝見させていただく」
コンスコン「奴はなぜマスクをはずさんのだ?」
ジオン兵B「ひどい火傷とかで。美男子だとの噂もあります」
コンスコン「いつか奴の化けの皮を剥いでみせる」

ドズルから派遣されたコンスコンとシャアの対面である。コンスコンの背後にサイド6の灯台の明かりが見える。サイド6付近でシャアのザンジバルと接触したということだ。

コンスコンは椅子にどかっとふんぞりかえり、シャアは直立不動。コンスコンの階級は明らかになっていないが、両者の関係は明らかだ。

敬礼をして去ろうとするシャアにコンスコンが「誰が帰っていいと言ったか」とたしなめる。これに対する「若者をいじめないでいただきたい」というシャアの返しが小気味いい。

素早く立ち去ろうとする様といい、このセリフといいシャアはこういう状況とお説教が大嫌いなのだろう。私もかなり控えめに言って大嫌いである。

シャア「マリガン、ザンジバルに着いたらキシリア少将に暗号電文を打て」
マリガン「は」
シャア「パラロムズシャア。いいな?」
マリガン「それだけで?」
シャア「それ以上は聞くな。極秘事項だ」

シャアがキシリアに暗号電文を打つように指示する。「パラロムズシャア」とはどういう意味だろう。

いろいろアルファベットをあてて検索してみたが、「Paralomis」(パラロミス)がタラバガニ属を指す言葉という以上の成果は得られなかった。

父子の再会

アムロ「あっ・・・と、父さん」
フラウ「どうしたの?アムロ」
アムロ「さ、先に戻ってて!ちょっとむこうの本屋に寄ってくるから!」

アムロが父テム・レイを見つけ、「父さん!」と何度も叫ぶ。しかし、テムはアムロの声に全く気付くことなくバス(?)に乗り込んだ。なお、このバス、排気ガスを出しているのでガソリンを燃料としていると考えられる。

アムロ「父さん!はぁ・・・はぁ・・・。父さん!はぁ・・・はぁ・・・父さん!」
テム「おう、アムロか」
アムロ「・・・父さん!」
テム「ガンダムの戦果はどうだ?順調なのかな?」
アムロ「・・・は、はい。父さん」
テム「うむ、来るがいい」
アムロ「はい」

バスを必死で追いかけるアムロ。サイド7でのザクの奇襲以来行方不明になっていた父との再会である。

アムロの表情は喜びに満ちている。その表情は第13話「再会、母よ・・・」で見せた表情と全く同じだ。

第13話「再会、母よ・・・」

バスから降りたところでテムもアムロの存在に気付いた。父子の感動の再会かと思ったが様子が変だ。

普通であればテムは「アムロ無事だったのか!」とか「よく生きててくれた!」とか言いながらがっちり抱き合うシーンであろう。まぁ男親と年頃の息子なので抱き合うまでいかなくともお互いの安否を気遣う言葉があってしかるべきだ。

しかし、テムの第一声は「おう、アムロか」であり、次のセリフは「ガンダムの戦果はどうだ?順調なのかな?」である。アムロも何か様子が変だということに戸惑っている様子だ。さきほどのカムランとミライの再会のシーンと比べてみればその違いは一目瞭然である。

ところでテムはアムロがガンダムに乗っていることを知っているのだろうか。第1話ではガンダムにアムロが乗っていることに気づいている描写はない。そしてそのままサイド7に空いた穴から宇宙空間に消えていったわけで、テムはアムロがガンダムに乗っていることを知らないはずだ。

しかし、「ガンダムの戦果はどうだ?順調なのかな?」と言っているということは、その後何らかのルートで情報を得てアムロがガンダムのパイロットをしているということを知ったのであろう。テムは連邦軍の技術士官でガンダムの開発者であるからそれくらいの情報が入ってきても不思議ではない。

テム「ほら、何をしている、入って入って」
アムロ「こ、ここは?」
テム「ジャンク屋という所は情報を集めるのに便利なのでな。ここに住み込みをさせてもらっている。こいつをガンダムの記録回路に取り付けろ。ジオンのモビルスーツの回路を参考に開発した」
アムロ「(こ、こんな古い物を。父さん、酸素欠乏性にかかって)」
テム「すごいぞ、ガンダムの戦闘力は数倍に跳ね上がる。持って行け、そしてすぐ取り付けて試すんだ」
アムロ「はい。でも父さんは?」
テム「研究中の物がいっぱいある。また連絡はとる。ささ、行くんだ」
アムロ「うん・・・。父さん、僕、くにで母さんに会ったよ。父さん、母さんのこと気にならないの?」
テム「ん?んん。戦争はもうじき終わる。そしたら地球へ一度行こう」
アムロ「父さん・・・」
テム「急げ、お前だって軍人になったんだろうが」
・・・
アムロ「あ・・・あああーっ!!(嗚咽)」

テムの住居へ案内されるアムロ。テムの住居は家というよりも町工場といった風体だ。外にはザクの頭部だったり、何やら鉄くずのようなものだったりが散乱している。

内装もコンピュータ1台もない粗末な空間だ。

テムはアムロに機械を手渡して「こいつをガンダムの記録回路に取り付けろ」、「すごいぞ、ガンダムの戦闘力は数倍に跳ね上がる」という。

アムロは一目見ただけで「(こ、こんな古い物を)」と全く役に立たないガラクタと見抜いた。そして「(父さん、酸素欠乏性にかかって)」とテムの様子がおかしい理由に思いを致している。

酸素欠乏状態で時間が経過すると、最終的には呼吸が止まり、死に至ります。酸欠事故の発生後に救出され、人工呼吸等の蘇生処置で助かった場合でも、酸素欠乏状態が強いほど、また救出に要する時間が長いほど、特に脳に対するダメージが大きくなります。それにより、後遺症として、言語、運動、視野、麻痺、幻覚、健忘などの障害が残ることがあります。

「酸素欠乏症とその対策」(PDF)

酸素欠乏症とは、おおむね酸素濃度18%未満の環境に置かれた際に発症するとされており、最悪の場合は死に至る。

酸素を大量消費する器官である脳に重篤な症状が発生することが多く、死亡にまで至らなくとも「後遺症として、言語、運動、視野、麻痺、幻覚、健忘などの障害が残ることが」ある。

テムは宇宙空間に放り出された後、酸素欠乏状態に陥った。一命は取り留めたものの脳に障害が残ってしまったと考えられる。

後遺症のため思考力も低下している中なんとかサイド6にたどり着き、このジャンク屋の2階で寝泊まりしているといったところか。

酸素欠乏症の後遺症にもかかわらず、テムのガンダムに懸ける思いは消えることなく残っていたようだ。テムは今でもガンダムの改良のために研究を続けている。しかし、その研究が日の目を見ることはないだろう。

テムが機械をアムロに手渡すシーン、アムロの顔もテムの顔も機械で隠れてしまっている。

テムとアムロはもともと会話も少なく関係も稀薄だった。

フラウ「入港する軍艦にアムロのお父さん乗ってるんでしょ?」
アムロ「だと思うよ?一週間前に地球に降りるって言ってたから」
フラウ「ここも戦場になるの?」
アムロ「知らないよ!親父は何も教えてくれないもん!」

第1話「ガンダム大地に立つ!!」

その親子のわずかなつながりさえも途切れようとしている。2人をつなぐものはもうこの何の役にも立たない機械だけだ。

そんなテムを見てアムロは恐る恐る「父さん、僕、くにで母さんに会ったよ。父さん、母さんのこと気にならないの?」と語りかける。アムロはまだ家族の絆を信じているのだ。

しかし、父親から母親のことが語られることは最後までなかった。「戦争はもうじき終わる。そしたら地球へ一度行こう」、「急げ、お前だって軍人になったんだろうが」と口を開けば戦争のことばかり。

テムの部屋を飛び出したアムロは父との最後の絆の証である機械を地面に投げつけ、嗚咽交じりに泣き始める。唐突な形でアムロと父親の関係は終わってしまった。

ここで語られているのは「帰るべき場所の喪失」である。

第13話でアムロは母親と地球で暮らすことではなく、ホワイトベースの仲間と生きていくことを選んだ。アムロと母親との関係はここで清算されている。そして今回、アムロと父親との関係が清算された。アムロはこの瞬間完全に帰るべき場所を失ったのである。

しかし、それは同時にアムロの覚悟の表れでもある。アムロは父親から手渡された機械を投げ捨てみずからの意志で父親との関係を断ち切ることで、両親から自立し新たに自分の居場所を探す旅に出ることを決意したのだ。

この後のシーンで、アムロが自分のことを「いい子」といって子供扱いするスレッガーに対し「そのいい子だっていうの、やめてくれませんか?」と切り返すのはここでの決意があるからだ。

ペルガミノさん

ブライト「アムロ、個人的に街をぶらぶらする時間を与えたおぼえはないぞ。貴様のおかげで出港が遅れた」
アムロ「す、すいません。でも、急に出港だなんて」
ブライト「ガンダムでホワイトベースの護衛に出るんだ。ペルガミノさん」
ペルガミノ「はい」
ブライト「本当にカムラン・ブルーム検察官の依頼だったのですか?」
ペルガミノ「あ、首相官邸からのテレビ電話です。間違いありませんです。領空の外のドックならジオンの船だろうと連邦のだろうと直させてもらってますよ」
ブライト「我々は追われているんです、大丈夫ですか?」
ペルガミノ「なあに、私には両方の偉いさんにコネがあります。お嬢さん、安心なさってください」
ミライ「ありがとう、ペルガミノさん」

ブライトがアムロを叱責、「貴様のおかげで出港が遅れた」と厳しめの言葉を投げかける。以前のアムロならここでガンダムを持って家出をしていたはずだ。しかし、今回は「す、すいません」と素直に聞き入れているあたりにアムロの成長が窺える。

さて、ホワイトベースはペルガミノの手引きでホワイトベースの修理をしてもらえることとなった。上述のとおり、サイド6の領域の外の空間にドックがありそこで修理をするらしい。

ただ、ホワイトベースがサイド6の領域外に出た場合、そこでは戦闘行為は禁止されないので、ジオン軍の攻撃を受ける可能性がある。そこでガンダムを出撃させ護衛に当たらせるというわけだ。

「大丈夫ですか?」とブライトが聞くとペルガミノは「なあに、私には両方の偉いさんにコネがあります。お嬢さん、安心なさってください」とミライに答える。

ペルガミノはカムランからミライの関係も聞いているはずだ。もしかしたらもともとミライのことも知っていたのかもしれない。なのでミライに「お嬢さん、安心なさってください」というわけだ。

ブライトからすれば、上流階級の人達が上流のコネを使って、艦長である自分の頭を飛び越えていろいろ動いていることは気に入らないはずだ。しかし、ホワイトベースの修理をし、危機を脱出するにはそのコネに頼るしかない。苦しい立ち位置である。

戦闘開始!

コンスコン「カヤハワから信号弾だと?」
ジオン兵C「木馬がサイド6の領空を出た合図です」
コンスコン「位置を確認、エンジン全開。なんでこんなに早く出てきたんだ?木馬め」
ジオン兵D「わかりました。ペルガミノの浮きドックがある所です」
コンスコン「ペルガミノ?あの戦争で大儲けをするという。ちょうどいい、我が艦隊は敵と一直線に並ぶわけだな。リック・ドム12機を発進させろ」

ホワイトベースがペルガミノの浮きドックに向かってるところをコンスコンが捉えた。コンスコンはリック・ドム12機を出撃させる。12機とはなかなかの戦力である。もっとも、このあとガンダムにばっさばっさと切り捨てられるわけだが。

ブライト「し、しまった、罠か!?」
ペルガミノ「あああ、わ、私のドックが」
ミライ「ブライト、カムランはそんな人じゃないわ。面舵いっぱい!」
ブライト「・・・よし、各機、展開を急がせろ」
ペルガミノ「・・・中尉、ド、ドックから離れてください。・・・そうすれば私のドックは助かります」
ブライト「やってるでしょ・・・」

ホワイトベースがペルガミノのドックに近づいたところで、浮きドックの背後からコンスコン部隊が一斉攻撃を仕掛ける。

いきなりの砲撃にブライトが「しまった、罠か!?」とつぶやく。しかし、ミライがすかさず「ブライト、カムランはそんな人じゃないわ」と切り返す。このやり取り緊張感があっていい。

なお、この時点ではカムランがスレッガーに殴られた腹いせにホワイトベースを罠にはめたといった可能性もあり得ないではないが、その可能性はこの後否定される。

カムランはパトロール艇で戦闘を目の当たりにし、「(なぜジオンにわかったのだ?)戦いをやめさせねばならん。」といっている。ここから今回の奇襲がカムランの罠ではないということがはっきりする。

あっという間の壊滅

ブライト「目標、中央の船、撃て!」
コンスコン「うぅ・・・クワメルがやられたのか?・・・ド、ドムは?リック・ドムの部隊はどうなっているか?攻撃の手は緩めるな!」
・・・
コンスコン「ぜ、全滅?12機のリック・ドムが全滅?3分もたたずにか?・・・」
ジオン兵F「は、はい」
コンスコン「き、傷ついた戦艦1隻にリック・ドムが12機も?ば、化け物か!」
ジオン兵F「ザンジバルです」
コンスコン「・・・シャアめ、わ、笑いに来たのか!」

リック・ドム12機を展開するコンスコン部隊だが、ガンダムにばっさばっさと切り捨てられる。ホワイトベースからの集中砲火も受け、クワメルのムサイも撃沈。いいところなしである。

なお、今回の戦闘、アムロの描写がやたら劇画調なのが印象的だ。

そんなところにシャアのザンジバルが接近する。

コンスコンは「シャアめ、わ、笑いに来たのか!」と自分のメンツばかりを気にしているが、ザンジバルが接近してきたのは純粋にホワイトベース討伐のチャンスだからである。

ホワイトベースもザンジバルの接近に気づきサイド6に逃げ込もうとする。ホワイトベースがサイド6に逃げ込むのが先か、ザンジバルが追いつくのが先か、どうなる!?っと思ったところにカムランのパトロール艇がザンジバルとホワイトベースの間に割って入る。

シャア「砲撃はするな、サイド6のパトロール艇だ。コンスコン隊にも砲撃をやめさせろ。パトロール機を傷付けたら国際問題になるぞ」

中立サイドのパトロール艇を砲撃したとなったら一大事。そのあたりの国際感覚を有しているシャアはやはり有能だ。今回はここで一時停戦である。

「ホワイトベースを捨てる私にあなたは、あなたは何をしてくださるの?」

カムラン「大丈夫、封印を破った件は父がもみ消してくれます」
ミライ「で?」
カムラン「だ、だから、父の力を借りれば、君がサイド6に住めるようにしてやれるから」
ミライ「・・・そうじゃないの、ホワイトベースを捨てる私にあなたは、あなたは何をしてくださるの?」
カムラン「・・・だから、父に頼んでやるってさっきから僕は・・・」
ミライ「わかってくださらないのね。・・・それでは私はホワイトベースは捨てられないわ!」
カムラン「ミライ、昔はそんなことを言う君ではなかった。いったい、僕に何をして欲しいんだ?」
ミライ「戦争がなければ・・・け、けどね、そうじゃないわ。カムラン、あなたは戦争から逃げすぎて変わらな過ぎているのよ」
カムラン「君を愛している気持ちは変えようがないじゃないか」
ミライ「ありがとう・・・嬉しいわ・・・」
カムラン「ミ、ミライ、ぼ、僕の何が気に入らないんだ?ミライ、教えてくれ。直してみせるよ、君の為ならば。ミライ!」

2人の会話は全くかみ合わない。

ミライがサイド6でカムランと住むということは、ホワイトベースを捨てるということである。成り行きだったとはいえ操縦士としてホワイトベースに搭乗し、今となっては正式に軍人として配属され少尉の階級も得ているミライにとって、ホワイトベースを降りるという決断は大きいものだ。アムロの家出とはまったく違う。

カムランは「封印を破った件は父がもみ消してくれます」、「父の力を借りれば、君がサイド6に住めるようにしてやれるから」、「父に頼んでやるってさっきから僕は・・・」と父の話ばかりだ。ミライがサイド7を出てからどういった苦難を乗り越えて来たのかまったく想像が及んでいない。

カムランは親の庇護のもとぬくぬくと生活してきたのだろう。そしてその状況を当然のものと考えており、疑うことはない。

他方、ミライはホワイトベースで命からがらサイド7を出港してから何度も命の危険を経験してきた。そして、みずから仲間たちと道を切り開いて生き延びてきたのだ。

カムランはパトロール艇でホワイトベースとザンジバルの間に割って入り、身を挺して戦闘行為をやめさせた。「ミライのためなら命を投げ出せるなかなか男前なヤツ」とも一瞬思ったが、実際は逆である。

カムランは親の庇護の下で生きてきたため戦争を知らない。今も戦闘行為のないサイド6で生活している。自分が危険な目に遭うはずがない、死ぬはずがないと思い込んでいたためあのような無謀な行為に出ることができたのだ。あのカムランの行動は愛する者を守るための勇気ある行動というよりも、世間知らずのおぼっちゃんの無謀な行動と評価すべきものである。

戦争がなければミライはカムランと結婚し、裕福で何不自由ない生活を送っていたことだろう。しかし、戦争がミライを変えてしまった。「ホワイトベースを捨てる私にあなたは、あなたは何をしてくださるの?」という問いかけにカムランがどう答えても2人の運命はすでに決まっている。

ミライは「カムラン、あなたは戦争から逃げすぎて変わらな過ぎているのよ」とカムランを責めるような発言をするが、原因はカムランにのみあるわけではない。戦争の真っただ中にあって必死に適応しようと努力し続けた者と、戦争から遠く離れて安全な環境下で生活していた者の悲しいすれ違いである。

最後まで愛の言葉をかけるカムランに「ありがとう・・・嬉しいわ・・・」といって立ち去るミライ。中空をただようミライの涙は美しく、それがかえってこの2人の終焉の寂しさを醸している。

第33話の感想

今回は、とにかくてんこ盛りの回であった。私も筆が乗りに乗ってしまい、字数は1万4000字を超えてる。最長記録である。

ミライとカムラン(とブライトとスレッガー)、アムロとテム、ドズルとキシリア、シャアとコンスコン。ほかにも機動戦士ガンダム世界でのスペースコロニーの説明描写もあったが、あまりに長くなってしまいそうだったので言及は避けた。またこぼれ話で触れたいと思う。

カムランとミライの会話は第13話「再会、母よ・・・」のアムロとカマリアを見ているようだった。

この回を通して感じるのは、自分自身の手で新たな道を切り開こうとする者と、そうでない者の対比である。ミライやアムロは前者であり、カムランは後者だ。

カムランのような考え方を対立軸として描くことで、ミライやアムロの決意が一層際立つ演出となっている。

そして「自分自身の手で新たな道を切り開こうと努力すること」こそ機動戦士ガンダムが描こうとしている成長である。

さて、残すところあと10話、機動戦士ガンダムの物語も終盤に差し掛かってきたところで次回アムロとシャアが初対面。よくよく考えてみればこの2人何度となく戦っているが生身で会うのは初めてだ。

どのような展開になるのか、楽しみである。

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