見出し画像

「いつまでもこんな世の中じゃないんだろ?」ミハルの死とカイの決意~機動戦士ガンダム 第28話「大西洋、血に染めて」感想

「半分は嘘じゃない・・・」

ブーン「(士官室を狙うこと。第一、行き先をつきとめる。第二、木馬の性能に関するあらゆる資料、以上の情報を手に入れるのだ。本朝5時、接触を取る)」
カイ「ブライトさん、そろそろブリッジに上がってください。あれ?もう上がってんの?(ビリッ)なんだ?何が破れたんだろ?」
ミハル「ぁ・・・」
カイ「ううっ!」
ミハル「カ、カイさん・・・」
カイ「あ?へへへ、お、おどかしっこなしだぜ。だ、誰ちゃん?」
ミハル「ご、ごめんよ、おどかして」
カイ「ん?あっ!ミハルじゃねえか。なんで?」
ミハル「私、あんたについて行きたかったんだよ。それでこの船に乗ったんだけど」
カイ「じゃあ、そのユニフォームどうしたんだよ?その拳銃もさ」
ミハル「・・・カイさん」
カイ「わかってるよ。あんなに兄弟思いのあんたが俺を想って来たなんていうのは嘘だってこと」
ミハル「嘘じゃないさ。は、半分は嘘じゃない・・・」
カイ「しっ、俺についてきな」

前回、交戦中にホワイトベース潜入に成功したスパイ・ミハル。周囲を警戒しながらブライトの部屋を漁る。そこにカイが入室して鉢合わせになり、とっさにデスクの下に隠れ拳銃を構える。

ここでミハルの着ていた連邦軍の制服が破れる。サイズがあっていないのを無理やり着ていたようだ。その音でカイがミハルの存在に気づいた。

ミハルはスパイ活動をしていることを隠そうとしてとっさに「私、あんたについて行きたかったんだよ。」と嘘をついた。

しかし、カイはその嘘を瞬時に見破り「じゃあ、そのユニフォームどうしたんだよ?その拳銃もさ」とマジレスしてしまう。口をつぐむミハルに追い討ちをかけるように「わかってるよ。あんなに兄弟思いのあんたが俺を想って来たなんていうのは嘘だってこと」さとすように言う。

ミハルは「嘘じゃないさ。は、半分は嘘じゃない・・・」と返す。この「半分は嘘じゃない」はミハルの本音か、それともその場を取り繕う方便か。

アニメをみると「嘘じゃないさ」というミハルは少々ムキになっている。好意を告白したのに全く意に介さないカイにムカついてとっさに出た本音かもしれない。

南米行きを漏らす

アムロ「誰です?」
カイ「野暮なこと聞くんじゃねえの!」
アムロ「こ、恋人さんですか?」
カイ「ヘッ、そんなところかね。南米で降ろすからさ、みんなには内緒だぜ」
ミハル「南米?」
アムロ「ええ、僕は何も見てませんから」
カイ「すまねえ。よっ!ん?ドアのキーは3986で開く。動くなよ」
ミハル「南米はどこに行くの?」
カイ「宇宙船用のドックに入るんだよ。だけど、これ以上の情報は教えられねえよ。南米に着くまでにホワイトベースやられたりしたら、お互い生き残れねえだろ」

アムロとカイの会話からホワイトベースの目的地が南米ということがミハルにばれた。カイはさらにミハルに「宇宙船用ドックに入るんだよ」とより詳しい情報を漏らす。ここでミハルに情報を漏らしたとしても、ミハルがそれをジオン側に伝える手段はない。それを見越しての行動である。

しかし、今回はジオン側の方が一枚上手だった。

ヴェルデ諸島

マーカー「4時の方向に民間機です。救助信号が出ています」
ブライト「救助信号?確かに民間機か?フラウ・ボゥ、どうなんだ?」
フラウ「はい、確認しています。登録ナンバーによると、ヴェルデ諸島の漁業組合の飛行機です」
ブライト「よし、うしろのデッキから着艦するように伝えろ」
フラウ「はい」
ブライト「第4デッキ開け。民間機を収容する」

ブーンが民間機を装ってホワイトベースに接近、まんまと着艦を果たす。

ここで登場する「ヴェルデ諸島」とは、ベルデ岬諸島のことと考えられる。ベルデ岬諸島は、アフリカ大陸西端のベルデ岬から西方約600キロメートルに位置する群島である。

アフリカ大陸 西端のベルデ岬
拡大図

おそらくブーンはこのベルデ岬諸島の漁業組合の飛行機を盗み、ホワイトベースに接近したということだろう。

目的は当然のことながら、ミハルからホワイトベースの目的地を入手することだ。

木馬に潜り込んだ人たち

ブーン「ジオンの人間で木馬に潜り込んだのは我々が初めてじゃないかな?」

残念、ジオン兵で最初にホワイトベースに入ったのはランバ・ラルの部下コズン・グラハムである(第16話「セイラ出撃」)。もっとも捕虜としてであったが。

戦闘行為として初めてホワイトベースに潜入したのはランバ・ラルである(第20話「死闘!ホワイト・ベース」)。

ブーンと交信

ミハル「・・・来た!」
ブーン「107号、答えられたら音声で送れ。木馬の目的地は?」
ミハル「南米の宇宙船用ドック」
ブーン「よーし、あとは?」
ミハル「まだです」
ブーン「上出来だ。頑張ってくれ」

ついにブーンにホワイトベースの目的地が伝わってしまった。

このシーンで印象的なのはミハルの居眠りである。

兄弟と別れてから砲弾飛び交う戦場をかいくぐり、ホワイトベースに潜入。クルーに見つからないようにホワイトベース内を探索して士官室を見つけ、情報を探っていたらカイに見つかり、今に至る。

緊張の連続で気の休まる暇のない状況だった。それが、カイの部屋に匿われてようやく一息つけたといったところであろう。そら居眠りもするというものだ。

しかし、それ以上に重要な事実は、スパイであるミハルがカイの部屋で居眠りをするということはミハルがカイに対して心を許しているということである。

前回、前々回からここまでのやり取りで、カイはミハルにとって信頼できる人間になっているということだ。

「これからあんたとは関係のないことだ!」

ミハル「はぁ・・・」
カイ「何をしていた?」
ミハル「は!・・・」
カイ「連絡をつけたのか?」
ミハル「う、うん」
カイ「こんな所で連絡がつけられるって変じゃねえか」
ミハル「そ、そう思うけど。でもこうしてあたし達兄弟食べてきたんだ」
カイ「そりゃわかるけど」
ミハル「め、迷惑かけちゃうね、あたしがスパイでさ」
カイ「まあな。あっ!民間機が着艦したって言ってたな。そうでなけりゃ無線なんて使えるわけねえ」
ミハル「え?」
カイ「いいか、これからあとはあんたとは関係のないことだ。いいな?俺の第六感てやつがあの民間機を怪しいって感じたんだ」
ミハル「カ、カイさん」

カイが食事を運んできた。今回のガンダム飯はそこそこ美味しそうだ。少なくとも、前回登場した固そうなパンよりかは食指が動く。

カイはホワイトベースの目的地をミハルにバラしたが、それはミハルにバラしても連絡手段がないためジオン側に情報が漏れる可能性がないと考えていたからである。

しかし、ミハルはジオン側と連絡をつけたという。ここにきてカイは救助を求めて着艦した民間機がジオンのものだと気づく。カイのアテが外れたわけだ。

カイがデッキに急ぐ。その身のこなしが見事だ。第17話「アムロ脱走」でコズンが見せたのと全く同じ動きである。カイもホワイトベースで数々の戦闘を経験し、レベルアップしていることがわかる。

第17話

カイは走り出す前にミハルに対して「これからあとはあんたとは関係のないことだ。」という。あくまでもカイはミハルをかばう。

その背後にあるのは一体何だろうか。

ミハルは連邦軍とジオン軍との戦争によって両親を失い、住む場所も失った。幼い弟達を食べさせるためにジオンのスパイとなって生計をたてている。

ミハルは両親を奪った戦争を憎んでいるはずである。しかし、生きていくためにスパイという戦争に加担する活動を行なっている。

何とも皮肉な話だが、ミハルのスパイ活動によってもたらされた情報で、さらに戦闘がおき、ミハルと同じような境遇の者を多数生むことになる。

カイの境遇も似たようなものだ。ザクの奇襲によってサイド7を追われ、命からがらホワイトベースに逃げ込んだと思えば、いつの間にか自らもモビルスーツに搭乗して戦闘行為を行っている。

戦争で日常のささやかな幸せを破壊された者は当然戦争を憎むだろう。しかし、それでも生きていくためにはスパイ活動であったり、パイロットになったりと、その戦争に依存していかなければならない。そしてその行為によってさらに多くの人命や生活が失われる。

カイは、ミハルの境遇にただ同情したという以上に、ミハル達3兄弟が必死で生きようとする姿に自分自身を投影し、ほっとけなくなったのだ。

ブーン脱出!

カイ「待てっ!その飛行機!待たせろ!!ああっ、ありゃあスパイだ、撃ち落せ」
ジョブ「カイさん、どうしたんです?あれはただの」
カイ「馬鹿野郎、こんな時間にわざわざホワイトベースに近づく奴、怪しいと思わねえのかよ、まったく」
カイ「ブライト、ありゃスパイじゃないのか?よく調べたのか?えっ?」
ブライト「一応確認はしたがな。身体検査も。飛行機だって間違いなく漁業組合の物だった」
カイ「し、しかしだな、その飛行機、ジオンの連中がかっぱらったかもしれないじゃないか」
ブライト「カイ、何か証拠でもあるのか?」
カイ「い、いや、こんな時間におかしいからよ」

カイが必死にブライトを説得しようとするが、ミハルのことを話すわけにはいかないため、説得材料が「こんな時間にホワイトベースに接近んするのはおかしい」というくらいしかない。

ブライトの対応があっさりしすぎているきらいがないではないが、身体検査もしているし飛行機の所属も調べているし、このあたりが限界か。

ブーン出撃

シャア「アフリカ戦線ではないのだな?」
ブーン「は、間違いなく南米の宇宙船用ドックへ向かいます」
シャア「こっちに来ないのはありがたいが、マッドアングラーはここを動けん。アフリカ戦線の様子も見なければならんしな」
ブーン「私はパイロット上がりです。モビルアーマーをお貸しいただけませんか?」
シャア「グラブロか?整備はしてあるが」
ブーン「仇討ちとは言いたくありませんが、私は4機のモビルスーツを沈められています。やらしてください。モビルアーマーならこっから発進しても木馬をキャッチできます」
シャア「うん、いいだろう」

さて、ブーンの活躍によりホワイトベースの行き先が南米の宇宙船用ドックと判明した。

宿敵ホワイトベースを打倒するチャンスというだけでなく、連邦軍本部の正確な場所も芋づる式に入手できるかもしれない大収穫だ。

シャアにしてみればすぐにでもホワイトベース追跡に向かいたいはずだが、アフリカで連邦軍と対峙しており、持ち場を離れることはできない。

そこにブーンがモビルアーマー・グラブロでの出撃を志願する。

グラブロの出撃シーン。今回出撃するのはモビルアーマーグラブロとズゴック2機である。

よく見ると後方にさらにズゴックが3機ほど控えている。ジオンはまだまだ戦力を温存していると思わせる描写だ。

戦闘開始!!

マーカー「10時の方向に接近する物がある、全員、戦闘体制に入れ。3機接近する物がある!」
ブライト「左舷!弾幕を張れ!」
ミハル「・・・ああっ!」
カツ、レツ、キッカ「ああっ!」
キッカ「持ち上げんの、よいしょっと」
レツ「よいしょっと」
ミハル「あんな子供達がいるの?この船に」

ブーンのグラブロがホワイトベースに接近。戦闘が始まった。海中からミサイルを発射しまくるグラブロ。

ミサイル攻撃で揺れるホワイトベース内で、ミハルはカツ、レツ、キッカの姿を目撃し、衝撃を受ける。

クルー「わあっ!」

グラブロ、ズゴックの放ったミサイルがホワイトベースを直撃。爆風で吹っ飛ぶクルーの姿がはっきりと描かれている。

ミハル「直撃だったんだわ」
カイ「救命具を着けていろ。死んじゃあなんにもならねえんだから」
ミハル「あんたは?」
カイ「応戦中さ」
ミハル「私にもやらせて」
カイ「できる訳ねえだろう!」
ミハル「ああっ。あ、私のせいなんだ」
カイ「お、おい」
ミハル「私が情報を流したばっかりに、カイさん達が」
カイ「お前の情報ぐらいでこんなに攻撃されねえよ」
ミハル「・・・ごめん、カ、カイ。私が、私があんた達を・・・うぅ・・・」
カイ「おい、ミハル・・・」

ミハルが「私のせいなんだ」と自責の念から戦闘に参加させてほしいとカイにいう。

ミハルはここにいたって初めて自分のしてきたことの意味を理解したのかもしれない。

ミハルはスパイだ。自分の流した情報がジオン軍によって分析され、戦闘行動に利用される。その結果、多くの人が命を落とす。

ミハルは生きるのに必死で、自分の行動の意味を理解できていなかった。自分の行動は紛れもなく戦闘行為であり、人を死に追いやるものだ。その結果、カツ、レツ、キッカといった弟達と同じくらいの子供も死んでしまうかもしれないのだ。

もっとも、視聴者目線で俯瞰的に見た場合、今回のブーンの攻撃の原因がミハルにあるかと言われると疑問も残る。ミハルの情報がなくてもホワイトベースの居場所をジオンは把握していたし、なによりミハル以外にもたくさんスパイはいるはずで、ミハルの情報だけでブーンは出撃を決めたわけでもない。

しかし、ミハルの心情としては自分の行動がホワイトベースを危機に陥れたという自責の念でいっぱいであろう。カイも「お前の情報ぐらいでこんなに攻撃されねえよ」というが耳に入っていないだろう。

ガンダム出撃!

セイラ「アムロ、いくわよ。ガンダム、ボルトアウト」
アムロ「了解」

Gアーマーからガンダムが離脱。このシーン、よく見るとGアーマーの左右に取り付けられている2枚の盾が重なる様子が描写されている。

第27話の冒頭、アムロの講義の中で「2枚の盾を重ねるジョイントの開発」が必要だといっていたが、なんと早くも開発されていたようだ。この講義からここまでせいぜい1日かそこら程度しか経過していないと思われるが、連邦軍の技術力はなかなかのものだ。

コアファイター出撃

ハヤト「コアファイター、パワー90、95、100、120、行きまーす」
ブライト「ううっ!各ブロック、被害状況を知らせろ。カイのコアファイターは発進させることはできないのか?」
オムル「カタパルトをやられてコアファイターが出ません」
ブライト「ガンペリーはどうした?あれには対潜ミサイルが積んであるはずだ」
オムル「あ、そ、そうでした。カイをそっちにまわさせます」

ハヤトもコアファイターで出撃する。

現状の連邦軍の態勢を確認すると、アムロとセイラがGアーマーで出撃、そこからガンダムが離脱、ハヤトはコアファイターで出撃している。

さてカイはどうするのかと思っていたら、デッキが爆撃を受けカタパルトがやられ、コアファイターを出撃させることができない。そこでガンペリーで出撃することに。

ズゴック撃破

セイラ「うまい・・・1機撃墜!」
ブーン「ゴダールのズゴックが!」

セイラのGファイターが主砲を発射。ズゴックを撃破する。

残るはズゴック1機とグラブロだ。

ガンダムvsグラブロ

ブーン「こいつ、水中戦闘用の武器に何を持っているのだ?見ていろ!」
アムロ「うっ・・・(駄目だ、海の上におびき出さない限りガンダムに勝ち目はないぞ)」
ブーン「このグラブロに対して迂闊に海中に入ったのがお前のミスだよ!」
アムロ「うっ、速い!・・・やはり、ビームライフルのパワーは水中では半分も出ない」
ブーン「おーら、捕まえたぞ、ガンダムゥ」

ガンダムとグラブロの水中戦である。

前回、前々回とゴッグ、ズゴックと水中戦を展開してきたガンダム。しかし、ガンダムは水中戦用の武器は持ち合わせていない。

ビームライフルを発射するがグラブロが左手でこれを受け止める。左手が溶けるが致命傷ではない。

そこにグラブロが右手でガンダムの右足を掴む。このまま水中戦を続けてもガンダムに勝ち目はなさそうだ。果たしてガンダムの運命は!?

ミハル参戦

カツ、レツ、キッカ「わーっ!!」
カイ「大丈夫か?」
レツ「だ、だ、大丈夫だよ、このくらいさあ」
カイ「よーし、お前らは強えんだ、頑張れよ!!」
ミハル「カイ、私にも戦わせて。弟達が助かってあの子達が死んでいいなんてことないもん!」
レツ「キッカ、しっかりしろよ」
カツ「キッカ、まだ火が出てんだぞ」
ミハル「このままだったらまたジオンに利用されるだけの生活よ。それにもう、ただ見てるだけなんて私たまんないよ!」
カイ「だってなあ、お前は・・・」
オムル「カイさん、発進してください!」
カイ「ああ。ジョブはどうした?」
オムル「機銃から手が離せません」
カイ「一緒に来い。爆撃手はいるんだからな」
ミハル「えっ?」
カイ「ミサイル撃つぐらいできんだろうが」
ミハル「う、うん、教えて」

ミサイル攻撃を受けて吹っ飛ぶカツ、レツ、キッカ+ハロ。映像はコミカルだが状況はシビアだ。

カイについてデッキまできたミハル。カイに「私も戦わせて」と懇願する。

「このままだったらまたジオンに利用されるだけの生活よ」と感情を吐露する。考えてみれば、ブーンは自国のスパイが乗り込んでいるホワイトベースを撃沈しようとしているわけで、ミハルのことは完全に捨て駒と考えている。

ミハルも自分がただの捨て駒になっていることに当然気づいているはずだ。ホワイトベースを危険に晒してしまった罪悪感、自責の念、そしてジオンに対する失望や憎しみからミハルはカイに懇願する。

カイもついに「ミサイル撃つぐらいできんだろうが!」と折れてしまった。

おもちゃみたいなガンダム

ブーン「はははははっ、モビルスーツといえどもどうだ、グラブロのパワーの前には赤ん坊同然よ」
アムロ「クッ、このっ!」

あいかわらずグラブロに右足を掴まれたままのガンダム。グラブロにいいように振り回されている。子供に無邪気にぶんぶん振り回されるおもちゃのようだ。

「レバーはひとつずつ押すんだ。」

ハヤト「弾もミサイルもなくなった。カ、カイさん、頼む!」

ここにきてハヤトのコアファイターは撃ち止め。Gファイターも攻撃を受けすでに着水。残るはカイのガンペリーだけだ。果たして・・・。

カイ「レバーはひとつずつ押すんだ。落ち着いてな」
ミハル「う、うん」
カイ「はずれ、次!」
ミハル「ん・・・」

カイの指示通りレバーを押すミハル。しかし、水中の敵を狙うのは困難なのか、2発発射して当たらない。

決めきれないところにズゴックからの反撃ミサイルがガンペリーを直撃する。

カイ「うわっ!」
ミハル「わあっ!」
カイ「ミハル!撃て!撃てっ!!」
ミハル「・・・カイ、レバー押しても発射しないよ」
カイ「なんだと?こんな時に!だ、駄目だ。今の攻撃で電気回路がやられたな。チッ」
ミハル「どうしたらやっつけられるの?」
カイ「カタパルトの脇にあるレバーが動かせりゃいいんだが。ミハル、どこに行くんだ?」
ミハル「カイ、カタパルトの脇にレバーがあるんだろ」
カイ「ミハル、危ねえぞ。うわっ!」
ミハル「あっ!こ、これか」
カイ「ミハル、いいか、ちゃんとやらねえといけないんだぞ。わかってんのか!?うわっ!!」

この攻撃で電気回路が故障。手元のレバーでミサイルを撃てなくなった。

カイが「カタパルトの脇にあるレバーが動かせりゃいいんだが。」とつぶやくように言うや否や、ミハルがカタパルトに向かう。これが悲劇のもとだった・・・。

ミハル「カイ、当たるように飛行機を!ハハッ、カイ、むこうから来てくれたよ!」

「むこうから来てくれたよ」とミハルは言うがズゴックの姿は見えない。

よく見ると画面右上に白波が立っている。そこにズゴックがいるということだろう。

ミハルがミサイル発射のレバーを押す。

ミサイルの爆風でミハルは吹き飛ばされ大西洋に消えていった。

カイ「やったあ!!ミハルー!やったぞ!!」

ミハルの死に気づかず無邪気に喜ぶカイ。映像や構図は綺麗だ。しかし、それがかえって悲痛さを強調する。

グラブロ撃破

ブーン「フフフフッ、もう一息で。む、もう一機のズゴックもやられたのか?チッ」
アムロ「(ガンダムの足をちぎったのが間違いだったよ。動きやすくしてくれた!)」

グラブロにいいようにされていただけのガンダムだが、右足が千切れ自由に動けるようになったタイミングを逃さなかった。ビームサーベルを構えてグラブロに突っ込み、グラブロを撃破。戦いは終わった。

「いつまでもこんな世の中じゃないんだろ?」

カイ「(嗚咽)」
アムロ「密航者だったんです・・・」
フラウ「密航者?」
ブライト「知っていたのか?」
アムロ「いえ。カイさんの部屋に女の人が入るのを見たんですけど、すぐ敵が来たもんで」
カイ「・・・ミハル、いなくなっちまって・・・(嗚咽)」

ホワイトベースに帰艦したガンペリーの前でカイがへたりこんで泣いている。いや「泣いている」というよりも、涙を必死でこらえているように見える。

カイは自責の念でいっぱいだろう。

カタパルトに行かせなければ、ガンペリーに乗せなければ、士官室で見つけたとき独房にぶち込んでおけば、そもそも自分なんかと出会わなければ・・・。

自分がどこでどう行動すればミハルは死なずにすんだのか。それとも、戦争という未曽有の事態にあってミハルは死ぬ運命にあったのか。であればこの戦争とは何なのか。そんな状況で残された弟達はこのあとどうやって生きていけばいいのか・・・。

そんな思いが脳内をぐるぐるぐるぐる回っているであろうカイにミハルが声をかける。

ミハル「(あんたと会えてよかったと思うよ。ジルとミリーかい?はははっ、あの子達なら大丈夫さ。私達よりずっとうまくやっていけるって。いつまでもこんな世の中じゃないんだろ?ね、カイ)」

このシーン、映像もなにか宗教画を思わせる構図と不思議な雰囲気である。

かつてホワイトベースのクルー達は似たような状況を経験した。リュウの死である。

ブライト「か、勘弁してくれ、リュウ、勘弁してくれよ。な、お、俺達こ、これからどうすりゃいいんだ?え?リュウ、教えてくれ。教えてくれんのだな・・・もう・・・」
セイラ「・・・ブライトさん、やめましょう。ジオンを倒すしかない。戦争が終わるしか
アムロ「そ、そうさ、そうですよ・・・。それしかないんですよーっ!!!それしかないんですよーっ!!」

ブライトは「俺達、こ、これからどうすりゃいいんだ?え?リュウ、教えてくれ。」ともういないリュウに問いかける。しかし、答えは自分で見つけるしかない。

今回のカイも同様である。ブライト同様、カイもミハルに「俺はどうすればよかったのか、どうすればいいのか」と問いかけたはずだ。

しかし、ミハルはもういない。自分が何をなすべきかは自分で考えて見つけるしかない。

リュウの死によってクルー達はそれぞれに自省し「こんな戦争さっさと終わらせなければ」と決意を新たにした。

カイの中のミハルは「いつまでもこんな世の中じゃないんだろ?ね、カイ」と声をかける。いつまでもこんな世の中であっていいわけがない。

このミハルのセリフは「こんな戦争さっさと終わらせてやる!」というカイの決意の表れである。

しかし、戦争が終わったとしてもその世界にミハルはいない。なぜミハルが死ななければならないのか、そんな世界で生きる意味はあるのか、やはり疑問は尽きない。

頭の中の疑問を振り払うかのようにカイは最後、「何で死んじまったんだ~!!」と叫ぶ。

第28話の感想

今回はミハルの最期を描いた回だった。

ここまで第26話、第27話と2話かけてミハルとカイの関係を描いている。マチルダの死もそうだったが、その人物の内面やこれまでの人生を知れば知るほど、人はその死に心を動かされる。

ミハルの死によって心がざわつくのは3話かけてミハルという人物を丁寧に描いてあるからだ。私の心も大いにざわついた。

ラスト、カイが「何で死んじまったんだ~!!」と叫ぶシーンは実にエモい。この記事を書くために第26話から第28話を何度も見返しているが、その中で涙した回数は第1話から第25話の比ではない。

ミハルはなぜ死んだのか。

ミハルがカタパルトでミサイルを発射するレバーを下ろすシーン、よく見るとミハルは3つあるレバーを全部一気に押している。

さらによく見ると、カイは「レバーはひとつづつ押すんだ」と言っており、コックピットではミハルはこの指示通り一つづつレバーを押していた。

1発目
2発目

しかし、カタパルトにおりたとき、ミハルは「むこうから来てくれたよ」とチャンスが到来したことに気を取られ、カイの「レバーはひとつずつ」という指示を忘れていたのだ。

直前の「ミハル、いいか、ちゃんとやらねえといけないんだぞ。わかってんのか!?」というカイの言葉も果たして聞こえていたのかどうか。

3つのミサイルが一度に発射されその強烈な爆風でミハルは吹き飛ばされてしまった。これがアニメ上のミハルの死の原因である。

ただここはガンペリーの設計上の欠陥なのではないかという気がしないでもない。そもそもミサイルの位置が発射レバーに近すぎる。

再掲

この距離なら3発いっぺんだろうが1発ずつだろうが操作者はただではすまないだろう。

ただ、一番外側のミサイルを発射していれば、それならそこそこ距離があるのでミハルは爆風に巻き込まれることなく死なずにすんだ可能性はあるかもしれない。それでもガンペリーの設計上の危険性は払拭はされないが。

さて、ミハルの死についてもう一つ考えてみたい。

ミハルはスパイ活動を行い、ホワイトベースを危機に陥れた。実際に戦闘行為でホワイトベースのクルーが吹っ飛ぶ姿も複数回描かれている。

この意味でミハルは倫理的な問題(自らの行動が原因となって人を死に追いやった)を抱えたキャラクターである。このままミハルがホワイトベースに残り、南米まで向かうというストーリーはあり得ないだろう。

上述のように、ミハルのスパイ活動が今回の戦闘の直接的な要因というわけではないとしても、ミハルの行動が遠因となったことに変わりはない。

その意味でミハルの死は、第4話「ルナツー脱出作戦」で描かれたパオロの死と同様の物語上の必然である。

さて、次回いよいよホワイトベースが連邦軍本部ジャブローに到着する。サイド7を出港してから本当につらく険しい道のりだった。

そこでマチルダの許嫁が登場するという。はたしてアムロは耐えられるのか。そこに注目したい。

この記事が参加している募集

#アニメ感想文

12,326件

よろしければサポートをお願いします。いただいたサポートは動画配信サービスの利用料金、他のクリエイターへの投げ銭にあてさせていただきます!