「悲しいけどこれ戦争なのよね」スレッガーの特攻とドズルの矜持〜機動戦士ガンダム 第36話「恐怖!機動ビグ・ザム」感想
ミライとスレッガーが!?
いつの間にかだが、本当にいつの間にかだが、ミライはスレッガーに好意を寄せるようになっていたようだ。
スレッガー登場から今回までそれっぽい描写はなかったように思われる。ミライはいつ頃からスレッガーを意識するようになったのだろう。
ここは想像するしかなさそうだが、強いてあげるなら、第34話「宿命の出会い」のカムランとのやりとりで、スレッガーにひっぱたかれたあたりではないだろうか。
ミライは連邦軍の偉い人も知っているヤシマ家のお嬢様である。これまで男性にぶたれたことなど一度もないだろう。スレッガーに裏拳でひっぱたかれ本気のお説教を受けたミライは、一人の人間として本気で自分に接してくれたスレッガーのことが気になってしまい、それ以来・・・といったところだろう。
スレッガー着艦後、ブライトがバンマスに「ミライ少尉が気分悪いのだ。少しの間代わってやれ」と計らうところは大人っぽくておしゃれだ。ブライトの人柄が垣間見えたように思われる。心では泣いているのだろうか。
無重力で水は…
デッキでスレッガー機が燃えている。ここは重力ブロックではないので、水を撒いてしまうと水が拡散し、電子機器などに影響がでて大変なことになってしまうのではないかと心配になってしまうが、宇宙戦艦ならその対策もしてあるということか。
機動戦士ガンダムの無重力描写はきちんとしているところはきちんとしているが、そうでないところはそれなりだ。まぁこんなところもあるさ。
ミライとスレッガー
スレッガーの食べているのはハンバーガーだろうか。相変わらず美味しそうではない。
ミライが涙ぐみながらスレッガーを見つめる。「怪我はないようね」「よかった」というだけだが、スレッガーにはミライの気持ちがよく伝わっているようだ。それはスレッガーの「少尉、やめましょうや、迂闊ですぜ」というセリフによく表れている。
発進用意完了の連絡が入りスレッガーが立ち去ろうとした瞬間、ミライが「中尉!死なないでください」という。本当はもっと他に伝えたかったこともあっただろうに「死なないでください」である。ガキっぽさというか初々しさが普段のミライとのギャップを感じさせる。
スレッガーは「俺にとっちゃあ、少尉はまぶしすぎるんだ。世界が違うんだな」という。スレッガーがどういう生い立ちでどういう経歴の人物なのかは詳しくは描かれていない。しかし、言動からしてたたき上げで泥臭く生きてきた兵士であることは間違いなさそうだ。
スレッガー自身そうした自分の立場をよく理解している。スレッガーがミライのことを「俺にとっちゃあ、少尉はまぶしすぎるんだ。世界が違うんだな」と言ってしまうのももっともだ。
「ミライ少尉、人間、若い時はいろんなことがあるけど、今の自分の気持ちをあんまり本気にしない方がいい」というのもスレッガーなりのやさしさの表現である。いや、やさしさというよりもミライをひっぱたいて「勘違い」させてしまったことに責任を感じ、せめてもの罪滅ぼしをしているように見える。
しかし、ミライにはそのあたりのことがよく伝わっていない。以前も書いたが、ミライは自分の色恋沙汰となると途端に視野狭窄に陥る。育ちがよくて聡明で、完璧超人に見えるミライだが、こうしたところに未熟さが描かれており、それがミライの人間臭さを演出している。
しかし「俺は少尉の好意を受けられるような男じゃない」とかいいながら、指輪を渡したり接吻までしてしまうのはどういう了見であろうか。
さきほども書いたようにスレッガーは内心「あ~お嬢様を勘違いさせちゃったよ」的なことを考えているはずで、なんとか「今の自分の気持ちをあんまり本気にしない方がいい」とか「俺は少尉の好意を受けられるような男じゃない」とか言いながら、話しをはぐらかそうとしている。
しかし、お嬢様の真っ直ぐな気持ちの前に「こうした態度はかえって失礼では?」と思い直したのかもしれない。それでもスレッガーがミライのことをどう思っていたのかは最後までよくわからない。
なお、スレッガーが手渡した指輪は右手人差し指に着けられている。こちらのサイトによれば右手人差し指に着ける意味は、こちらのサイトによれば
ということらしい。どんな状況にあっても自分の信念にしたがって生きているスレッガーらしさが表れているといえよう。
援軍・マクベ艦隊
戦艦グワジン、久々の登場である。第18話「灼熱のアッザム・リーダー」以来だ。
「月のウラル山脈」と出てくるが、実際の月にウラルという名称の山脈はない。ただ、地球のウラル山脈を由来とする「Montes Riphaeus」という名称の山脈はある。
なお、地球上のウラル山脈はロシア西部に位置する山脈である。
ビグザム発進!
ドズルの搭乗したビグザムがいよいよ発進する。
連邦軍のジムとボールが対峙するが、まったく手も足も出ない。完全にやられ役である。ただそのやられ方がこれまでとは全く違う。ビグザムから放たれた猛烈なビームがモビルスーツを吹き飛ばしていく。
ジムもビームライフルで攻撃するが、直前でぐにゃりと曲がりビグザムには当たらない。前回連邦軍が使ったビーム撹乱膜を身にまとっているようだ。攻撃・防御ともに完璧でやりたい放題である。
なお、連邦兵が「化け物だー!」と叫んだのがアムロに聞こえている。これもアムロがニュータイプであることを示す描写である。
宇宙の兵士の気持ち?
ゼナとミネバを乗せた脱出艇がマクベ艦隊に接近、マクベ艦隊もその存在を捕捉した。しかし、マクベは「脱出ロケットなぞ構わずに・・・」とスルーしようとする。
ここでバロムがマクベをたしなめなければ、ゼナとミネバはこのまま宇宙空間を彷徨い続けることになっていたはずだ。想像するだに恐ろしい。
バロムの「このような時、仲間が救出してくれると信じるから兵士達は死と隣り合わせの宇宙でも戦えるのです」とのセリフはなかなか重い。
上官の考えがこのようだと、マクベの指揮下では兵士は思い切った行動に出られない。なんせ地球上と違い、宇宙空間では自艦に戻れなくなったら、味方の救援を待つ以外に助かる道はない。すなわち死である。
なお、ここで末端の兵士の気持ちを説明し、マクベがそれを全く理解できていないところを描く意味はこの後のドズルと対比させ、ドズルの人柄を描くためだ。
ご武運を!
連邦軍のモビルスーツをやりたい放題葬り去っているビグザムだが、ソロモン内では基地の損害が大きすぎるため、ソロモン出撃を決意。残存する戦艦もソロモンを出撃し、いよいよソロモンの戦いもクライマックスが近づいている。
ドズル特攻
ソロモンを出撃した残りの戦艦も、ソーラ・システムによりあらかた壊滅。ジオンに残された戦力は少ない。
ここでドズルが主力艦隊への特攻を決意する。と、同時に部下たちに脱出を命令する。要するに自分一人で連邦軍の主力艦と刺し違えるのでお前たちは逃げろということだ。
この決断にジオン兵たちは「し、しかし閣下・・・」とためらいを見せる。こういう描写があることでドズルが部下からも信頼されている指揮官だということがわかる。死を決意したドズルが部下たちに「無駄死にはするな」というのはなかなか重いが、人情味あふれるドズルの人柄が手に取るようにわかる。先ほどのマクベとは大違いだ。
ザク、ドムに引かれながら退避するジオン兵。特攻をしかけるビグザムに向けて手を上げドズルの武運を祈っている。やはりドズルは現場の兵士から慕われている。
そのビグザムの後をガンダム、ガンキャノン、Gファイターが追跡する。ストーリーの中に自然な流れで分かりやすい状況説明がはいることで、視聴者に負担がかからないようになっている。このあたりのストーリーテリングは非常にうまい。
ティアンム死亡
主力戦艦へ一直線に突進するビグザム。雨あられのようにビームが降り注ぐが磁界のためにまったく当たらない。
あっという間にティアンムの乗る戦艦を撃ち落としてしまった。ソーラ・システムでソロモン攻略の突破口を開いたティアンムだがここまでである。
スレッガーの特攻作戦
ビグザムの快進撃になすすべのない連邦軍。そこにスレッガーがGファイターとガンダムのドッキングを提案する。宇宙空間を高速で飛び回っている戦闘機とモビルスーツの間でこの仕草が目視可能なのかは定かではないが、アムロには伝わったようだ。
スレッガーの作戦は単純明快。磁界のためビームでの遠距離攻撃がきかないのであれば、Gアーマーでビグザムにギリギリまで接近し、ビーム攻撃をぶち込むというものだ。1段目はGアーマーのビーム、2段目はガンダムのビームライフル、3段目はビームサーベルという多段攻撃を仕掛けようというのである。
当然ながらビグザムに接近することはかなり危険であり、生還できる可能性は低い。なんせ大型戦艦すら一撃で撃沈されてしまうほどの攻撃力を有しているのだ。Gアーマーなど一瞬で宇宙のチリと消えるだろう。
アムロは作戦を聞いてスレッガーが死ぬ覚悟であることを知る。アムロは一瞬躊躇するが、スレッガーは「私情は禁物」と先手を打つ。そして「悲しいけどこれ戦争なのよね」という有名なセリフにつながる。
果たしてGアーマーの決死の攻撃はどうなる!!
Gアーマーvsビグザム
ビグザムの下方から突撃するGアーマー。
すかさずビグザムの足からかぎ爪のようなものが発射され捕捉されてしまう。
Gアーマーのビーム攻撃!
しかし、これはまだ間合いが遠かった。ビグザムの磁界に阻まれてしまう。
続いてガンダムのビームライフル!
ビグザムの足の付け根あたりに命中。しかし、致命傷ではない。
ビグザムの足の爪に両サイドから圧迫されGアーマーのAパーツが大破。
スレッガーは宇宙空間に投げ出されてしまった。
アムロは「中尉!」と投げ出されたスレッガーに一瞬気が向くが、救助に向かうのではなくBパーツから離脱し、盾を投げ捨て、ビームサーベルを大上段に構える。
ドズルのヘルメットにガンダムが映る描写は劇的で実にエモい。
ビグザムを切りつけるガンダム。スレッガーの作戦が見事決まった瞬間である。これで勝負ありだ!
ビグザムはやられてしまったがドズルは諦めない。マシンガンを手にガンダムに一人立ち向かい「やらせはせんぞーっ!」と叫びながらマシンガンをぶっぱなす。
状況は完全に蟷螂の斧だがその気迫はすさまじい。作画が乱れているのが少々残念ではあるが。
ドズルからはドラクエ3のサタンパピーみたいな憎悪がむくむくと立ち上がっている。アムロはその気迫に押されっぱなしだ。
しかし、ここで憎悪がしゅるりと消え去りビグザムが大爆発。戦いは終わった。
第36話の感想
今回はドズル・ザビの最期を描いた回だった。
ドズルのラストはこれまでに登場したジオンの将校らと比較してどうであろうか。
ドズルは最期の最期までジオンのことを思い散っていった。ここはガルマと同じである。ガルマと違うのは部下に対する対応だ。ガルマはシャアの謀略にはまりホワイトベースからの奇襲を受けた。大きく損傷したガウでホワイトベースに特攻を仕掛ける。
その際、ガルマが部下のことを慮る様子はなかった。この辺りはまだガルマが指揮官として未熟だということだ。
他方、ドズルは特攻をかける直前「無駄死にはするな」といって部下たちに退避するよう命令した。
特攻に巻き込まないよう部下を脱出させ、ザクやドムが残存しているうちに脱出させる。ジオンの脱出艇を見ても救助しようとしなかったマクベと好対象だ。
こうしたドズルの部下思いな面は第2話「ガンダム破壊命令」でも描かれていた。
口調は厳しいが、シャアのお祝いを楽しみにしていたこと、それが台無しになり心底ガッカリしていることがよく伝わってくるセリフである。
戦争で一番難しいのはどのように負けるかである。指揮官の振る舞い一つで、命が無駄に失われてしまうこともよくある話だ。その意味でドズルは多くの部下が命を失うことがないよう采配した。指揮官として優秀と言って間違いない。人格的にも優れた人物だ。
しかし、とはいっても援軍を求めるタイミングが遅れた点は否定できない。グラナダからの援軍が到着していればソロモンは落ちていただろうか。ここはドズルの言い訳できない作戦ミスだ。
そして、その原因は言うまでもなくザビ家内の不協和音にある。戦争を有利に進めていた頃にはさして問題視されていなかったザビ家内のいざこざが、戦況が不利になって無視できなくなってきている。
オデッサで敗退しソロモンも落とされて、ジオン軍には不利な状況が続く。今後も同じようにザビ家内のいざこざが戦況に影を落とす展開が続くことが予想される。
ビグザム撃破の立役者はなんといってもスレッガーである。もちろんビグザム一機のために連邦軍が負ける展開は考えにくい。しかし、スレッガーがいなければ損害はもっと甚大なものになっていたはずだ。
スレッガーの3段階の作戦をその通りに遂行したアムロもえらい。宇宙空間に投げ出されたスレッガーを救助しようと思えば救助できたはずだ。しかし、アムロはビグザム撃破に傾注した。
短い間だったとはいえ、一緒に戦ってきたスレッガーの救助を放棄することはつらい決断だ。スレッガーのセリフのように、こうした非情で悲しい決断を迫られるのが戦争なのである。
スレッガーとミライの色恋沙汰にはびっくりだ。そしてそれを見守るブライト。宇宙戦艦という狭い空間で、軍隊という上下関係の厳しい組織内での三角関係は見ているだけでも胃が痛くなりそうなくらいおもしろそうだが、今回でおしまいである。残念である。
ところで、前回キシリアの命を受けたシャアは結局登場しなかった。ララァが初出撃を果たす回かと思っていたが、なかなかもったいぶったストーリー展開である。
さて、次回はマクベがモビルスーツで登場するようだ。以前キシリアに「お前がやって見せよ」と激詰めされアッザム・リーダーに搭乗して以来である。
果たしてマクベの腕前は?
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