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家出したアムロが秒で見つかった理由とは?打ち砕かれた万能感とアムロの成長~機動戦士ガンダム 第18話「灼熱のアッザム・リーダー」感想

アムロの処遇

ハヤト「もし、アムロが帰ってきたらどうするんです?」
カイ「そりゃお前、脱走者は死刑に決まってらあな
フラウ「嘘!!嘘でしょ!」
ブライト「軍紀ではそうなっているがな」
フラウ「今日まで一緒に戦ってきた仲間をどうしてそんな事ができるの!?」
セイラ「必要ならばそうするってことよ」
ミライ「およしなさい、セイラ・・・ね、フラウ・ボゥ」
フラウ「アムロが出て行った訳がわかったわ。こんな所に呼び戻すもんですか」
リュウ「まあ、まあまあフラウ・ボゥ、落ち着けよ。俺達は正規軍じゃないんだからそんな事はしやしないよ」
セイラ「でもリュウ、このままアムロのわがままを通させる訳にはいかないわ」
リュウ「・・・そ、そりゃあ勝手な行動をしたんだから・・・」
ミライ「フラウ・ボゥだってそう思うでしょ?」
フラウ「それはわかりますけど・・・」

アムロの処遇についてクルーで話し合っている。いや、家出したアムロをどう連れ戻すかの相談といった方が良いだろう。

第15話で敵前逃亡が重罪ということを描いた。

敵前逃亡が重罪となっているのは(1)戦線を危険にさらしてしまうし、(2)敵方に捕えられてしまえば自軍の機密が漏洩してしまうからである。

地球連邦軍の軍紀では敵前逃亡は死刑と規定されているようだ。

カイの死刑発言を聞いてフラウボウが取り乱す。

しかし、カイも冗談っぽく言っているにすぎないし、ブライトもカイの死刑発言に対して柔らかな表情で答えている。

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ホワイトベースのクルーにアムロを死刑しなければならないと考えている者はいないだろう。

とはいえアムロの行動を不問に付すこともできない。なんせ主力兵器であるガンダムを持って行っており、ホワイトベースの戦力は大幅ダウンしているのだ。

アムロに帰ってきてもらわなければならないことには変わりない。結局フラウボウが迎えに行くこととなった。

VSOP?

カツ「へー、アムロのあんちゃんってVSOPだったのかな?」
レツ「VSOP?」
カツ「あれ、知らないの?最重要人物のことだぜ」
レツ・キッカ「ふーん」
カツ「違ったかな?」

コトバンクによればVSOPとはブランデーの等級表示のことである。

ブランデーの熟成期間の長いものに表示する等級の一つ。統一の基準はなく、熟成期間は製造所ごとにことなる。コニャック、アルマニャックではブレンドする原酒のうち最も若いものでも5年のものと定められている。◇「very superior(またはspecial)old pale」の頭文字。
飲み物がわかる辞典「VSOP」の解説

この場面は「VIP(Very Important Person)」と言おうとしたカツが、勘違いしてよく似た別の言葉であるVSOPと言ってしまったところ、それがたまたまブランデーの等級表示で「おいおいカツは子供なのにブランデーを飲んでいるのかよ」とか「ジオン勢力圏内で危機的状況にあるのにけっこういい酒飲んでるじゃないか」と視聴者が思わずつっこんでしまいたくなるとっても面白いギャグシーンである。

秒で見つかるアムロ

ミライ「みんなに馬鹿な真似はさせないわよ。あたしが責任を持つから」
リュウ「俺も保証するって」
ミライ「行ってくれるわね?」
フラウ「アムロ・・・」

ミライとリュウの声援を受けながらアムロを探しに行くフラウボウ。

ガンダムで移動しているのだからかなり遠方まで移動していてもおかしくないのに、フラウボウはバギーで出かける。

そう簡単に見つかるわけないだろうと考えていたが杞憂だった。

すぐにガンダムの足跡が見つかるし、

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それがさびれた町まで続いているし、

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その町にやってきたらアムロの持ち出した缶詰の空き缶が捨ててあるし、

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町の中にもガンダムの足跡があるしで、

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あっという間ににガンダム発見。

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つづいてアムロも発見。探し始めて1〜2時間といったところだろう。

それほど遠くに行ってもいないし、巧妙に隠れていたというわけでもない。

これはアムロの隠れ方がヘタクソだったからすぐに見つかってしまったとか、ストーリーを展開するためのご都合主義とかというものではない。

アムロは見つかりやすいようにわざと色々な痕跡を消さなかったと考えるべきだろう。

やはり、アムロはホワイトベースのクルーに探してもらいたがっているのだ。

アムロが脱走もとい家出をしたのはホワイトベースのクルー、とくにミライとブライトを試すためである。

自分を不必要といったミライとブライトが根をあげて「やっぱりアムロがいないと無理だ、帰ってきてくれ」と謝ってくるはずなので「ほーら、やっぱり自分がいないと何もできないじゃないか(ニヤニヤ)」と意気揚々とホワイトベースに戻る展開を想定している。

なので、自分を見つけてもらわなければならないのだ。そのためにわざと痕跡を残したのである。

説得失敗

アムロ「みんなが心配してるのはこいつだろ?」
フラウ「違うわよ。今帰れば許してくれるって
アムロ「許す?なんの話だい?
フラウ「だって、カイさんは敵前逃亡罪は死刑だって・・・あ・・・」
アムロ「それがみんなの本音かい。帰れ!」
フラウ「ち、違うわ。ホワイトベースのみんなはアムロの力を必要としているのよ?また逃げる気?本当はみんなに自分を認めてもらうだけの自信がないんでしょ?だから帰れないのね
アムロ「僕の気持ちがわかるもんか」
フラウ「アムロ!」

さきほど書いたように、アムロの想定では根をあげたミライとブライトが「ごめん、アムロ戻ってきてくれ」と言ってくることになっている。つまり、謝るのはミライとブライトの方である。

しかしフラウボウの第一声は「今帰れば許してくれる」だった。アムロの想定とは真逆でアムロが謝ることになってしまっている。

この発言の意味をアムロは理解できていない。いや本心では理解できているかもしれないが受け入れることはできない。

アムロは「許す?なんの話だい?」ととぼけた返事をする。

ここでフラウボウが「敵前逃亡は死刑」と口を滑らせたためにさらにややこしいことに。

アムロは「やっぱり自分は必要とされていないんだ。ガンダムが回収できさえすればそれでよしと考えているんだろ!」とますます意固地になり「帰れ!」と怒鳴ってしまう。

フラウボウは「ホワイトベースのみんなはアムロの力を必要としているのよ」というがもう遅い。この場での説得は失敗である。

ガンダムに乗り込もうとするアムロに対し、フラウボウがいう。

フラウ「また逃げる気?本当はみんなに自分を認めてもらうだけの自信がないんでしょ?だから帰れないのね」

完全に図星である。

言い返せないアムロは「僕の気持ちがわかるもんか」と甘ったるい捨て台詞を吐いてガンダムで発進する。

ソリウム?

マクベ「トンあたり2グラム。予想通り良質のソリウム鉱床です。あと5つもこの程度の鉱床を掘り当てれば我が軍は」
キシリア「ソリウムには限りません。連邦には貴重な資源を1グラムたりとも渡してはならないのです。それがこの戦いを勝利に導き、ひいてはその後の支配の確立にもつながるわけだ」
マクベ「心得ております」

ソリウムとはガンダム世界の物質で、現実には存在しない物質のようだ。現代でレアメタルやレアアースと呼ばれている物質と似たようなものと考えてよいだろう。

ジオン公国の国力は連邦軍の30分の1である。序盤こそ優勢に戦争をすすめていたジオン軍だが、長期戦に突入してしまい圧倒的な国力差の連邦軍に反撃を食らいつつある。

そこを打開する策としてジオンは地球上の鉱物資源を採掘している。キシリアのいうとおり、この資源採掘こそ「この戦いを勝利に導き、ひいてはその後の支配の確立にもつながる」唯一の方途である。

ガンダム奇襲!

アムロ「これだな、レビル将軍がオデッサ・デイで叩こうというジオン軍の鉱山って。ザクは一機も置いてないようだな。これならできる!ガンダムでここを潰せば連邦軍の軍隊が動かなくってすむ。もうブライトさんにもミライさんにも口を出させるもんか」

「偵察を続ける」と言っていたが、鉱山基地の戦力をみてこれならガンダム1機でいけると判断したアムロ。ガンダムが奇襲を仕掛ける。

この鉱山を叩けば大手柄。自分のことを不必要と言ったブライトやミライの鼻を明かすことができる。

「連邦軍の軍隊が動かなくてすむ」と連邦軍側の作戦のことを考えての行動を装っているが、アムロの本音は後半部分にある。

「自分一人でマクベの鉱山を叩いた。これでもまだ自分は不必要というのか!」とアピールすることしか考えていない。完全に視野狭窄に陥っている。

「お前がやってみせよ」

マクベ「アッザム、発進準備を急げ」
キシリア「マクベ、モビルスーツを前もって発見できなかった失敗、許しがたい
マクベ「・・・キシリア様」
キシリア「アッザムの性能テストにはよい機会です。お前がやってみせよ
マクベ「は、キシリア様、必ず」
キシリア「直接連邦軍のモビルスーツを目にするのも、今後の作戦には役に立とう」
キシリア「ガルマからのデータより性能は遙かにいいらしいな。マクベ、用心して掛かれ」
マクベ「はっ!」

アッザムというモビルスーツが初登場。

ガンダムを事前に発見できずに奇襲を受けたことを「許しがたい」叱られ、アッザムの操縦を「お前がやってみせよ」と言われるマクベ。

アッザムには担当のパイロットがいるはずなので、わざわざマクベが自分で操縦する必要はない。

この演出は、敵方ジオンの幹部が新登場のモビルスーツでガンダムと対峙するという構図を描くためのものでしかないだろう。

ガ、ガンダムがしゃべった!!

マクベ「ハッハッハ、上を取ったぞ。リーダー発射!」
アムロ「な、なんだ?うわあああっ!!表面温度4000度。さっきの砂みたいなやつのせいか」
ガンダム「パイロット及び回路保護のため、全エネルギーの98パーセントを放出中」
アムロ「98パーセント?それじゃあ動けない」

アッザムの放熱攻撃を受けるガンダム。危機的状況で初めてガンダムがしゃべった!

しゃべれるのであればアムロとガンダムの掛け合いをもっと描くという手法もあったかもしれない。

「ザクならとっくに弱っているはず」

マクベ「キシリア様、成功です。なんといってもモビルスーツの研究に関してはこちらの方が長いですからな」
キシリア「放熱磁場が弱ってきたようです、早くとどめを」
マクベ「了解しました」
ガンダム「攻撃エネルギー低下」
アムロ「動けるな?」
キシリア「避けられた?」
マクベ「ザクならとっくに弱ってるはずですが。もう一度いきます」

ほんの少し前までキシリアに「許しがたい」、「お前がやってみせよ」と激詰めされていたにもかかわらず、「なんといってもモビルスーツの研究に関してはこちらの方が長いですからな」としたり顔のマクベ。

しかしガンダムの性能を侮っていたようだ。放熱磁場が弱まり攻撃エネルギーが低下。ここからガンダムの反撃が始まる。

今回ガンダムが窮地を脱出できたのはザク以上の耐久性を備えていたからである。

マクベが「ザクならとっくに弱っているはず」というように、アッザムの放熱攻撃で並のモビルスーツなら黒焦げだったのだろう。

しかし、悲しいかな、ガンダムはザクとは違うのだよ。

ガンダムの耐久性はザクのそれを上回っているので一度の攻撃ではガンダムを仕留めることができなかった。

マクベがとどめをさそうとしたがガンダムは盾で攻撃を回避。その一瞬のスキをついてガンダムが逆襲を開始する。

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基地爆破!

キシリア「これまでのようですね。機密保持のため、基地を爆破しなさい!」
マクベ「は、しかし、あそこにはまだ兵士どもがおりますが」
キシリア「構いません。なによりも国家機密が優先します!
マクベ「は、承知いたしました」
アムロ「あっ?き、基地が、爆破?基地を見捨てたのか?」

鉱山基地を守り切れないと判断したキシリアは機密保持のため基地の爆破をマクベに命令する。

マクベが「まだ兵士どもが・・・」と躊躇するが、「国家機密が優先します」といって末端の兵士ごと基地を爆破。

キシリアの冷酷無比な性格をあらわす演出である。

思えばガルマの葬送方法をめぐってザビ家内で対立したとき、キシリアはギレンとともに国葬を提案していた。

ガルマの死を戦意高揚のために利用しようという冷淡さからして、今回の基地爆破についても、さもありなんといったところであろう。

今後も新型兵器が続々登場!

キシリア「連邦軍のモビルスーツ、噂以上の性能と見た。我らもテスト中の各モビルスーツの実戦配備を急がねばならない」

ジオン側のモビルスーツでこれまで登場しているのはザク、旧ザク、グフ、アッザムの4種類である。従来のロボットアニメからすれば登場するメカの数が圧倒的に少ない。

それはとりもなおさず「機動戦士ガンダム」がリアル戦争路線アニメを追求しているからであるが、ここにきて路線変更を予感させるセリフである。

己の無力さを知ること

アムロ「やった、やったんだ。フフッ、連邦軍が全力で潰そうっていうジオンの基地をやったんだ」
アムロ「第102採掘基地。第102採掘基地だって?僕がやったのはたくさんある採掘基地のひとつだったっていうことなのか。レビル将軍が叩こうとしてるのはこんな鉱山じゃないのか?もっとすごい鉱山のことなのか・・・ちくしょう!!」

ガンダム1機で採掘基地を壊滅させたアムロ。「やった!」と得意げだが、すぐに連邦軍の目標がここではないことを知り落胆する。

ここでアムロが落胆したのは目標を間違ったからではない。己の無力さを思い知ったからである。

アムロはレビルの目標である鉱山基地を自分一人で壊滅させたと思っていた。この時点ではアムロは自分の力を誇示できた、ミライやブライトに見せつけてやることができたと「英雄気取り」だったことだろう。

しかし、実際にはアムロが壊滅した採掘基地は小規模で戦略的価値もさほどないものだった。そして、レビルの目標が、自分一人ではどうにもならないようなもっと大きな基地であることも知った。

このときアムロは己の幼児的万能感を打ち砕かれたのだ。

こうした挫折や失敗によって幼児的万能感から脱却し、自分の限界と向き合っていくことが大人になるということであり、思春期真っ只中のアムロが乗り越えるべきハードルである。

第18話の感想

今回はアムロが脱走もとい家出をして最初のお話で、アムロの成長の過程を描くものである。

アムロはガンダム1機でマクベの鉱山基地に奇襲を仕掛ける。窮地に陥りつつも自分一人の力で敵を殲滅することができたが、その行動でかえって自分の無力さを思い知ることとなる。

自分一人ではどうにもならないことがあるという体験を通して人は自分の限界を知り、自分の限界と向き合うことで大人になっていく。その成長の過程を丁寧に描いている。

ジオン軍の事情もはっきりと描かれていた。月面に前線基地グラナダがあること、そこはキシリアの管轄となっていること、ジオン軍が戦争を継続するには地球での資源採掘に頼るほかないことなどである。

ジオン側の事情を知れば知るほどその懐事情が厳しいことがうかがえる。

他方で、ジオン側は今後続々と新型のモビルスーツを実戦投入してくる予定だ。連邦軍のモビルスーツ・ガンダムの前の旗色の悪いジオン軍だが、今後投入予定の新型モビルスーツはどうか、今後の展開が気になるところである。

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