「今後は手段を選べぬということだ」ジオンとニュータイプとシャアの目的~機動戦士ガンダム 第38話「再会、シャアとセイラ」感想
にらみ合い(その1)
今回は前回のラストシーンのすぐあとから始まる。
ギャン撃破による大爆発でコロニーの壁が破壊された。コロニーの壁が爆発で壊れるシーンからそのまま映像は宇宙空間を動いていって、コロニーの外で繰り広げられているホワイトベースとマクベ艦隊との戦闘に場面が移行する。
コロニー内の戦闘から宇宙空間での戦闘へ自然に場面移行する。非常にうまいやり方である。
さて、ホワイトベースとマクベ艦隊の戦闘はにらみ合いの状態だ。お互いに漂流物に身を隠し、自分の位置が敵方に把握されないようにしている。
小惑星にホワイトベースの影が落ちている描写など、状況描写も非常に細かいところまで行き届いていて物語のリアルさを醸している。
アムロとララァはお互いに誰かが自分のことを見ているような感覚を抱いている。ニュータイプ同士が接近するとこういう現象が起こるようだが、ララァもアムロもお互い何が起きているのか状況が理解できていない。
前回、ララァをギャンの爆発から身を挺して守ったシャア・ゲルググ。ここでもシャアは「ララァはただの戦士ではない」と特別視する発言をしている。そのララァだが今回もあまり出番はない。いつになったら出撃するのか。
にらみ合い(その2)
ふたたび場面は宇宙空間へ。ホワイトベースはウラガンのムサイ艦隊とにらみ合いを続けている。どれくらいの時間膠着状態が続いているのかはわからないが、後ほど描かれるフラウボウの様子からして、ソロモン攻撃から戦闘続きで休む時間はほとんどなかったと思われる。
ここでフラウボウが「なぜそんなことが言えるんですか?」と立ち上がって声を荒げるシーンがあるが、かなり唐突な印象を受ける。
フラウボウが他のクルーに対してきつく当たるシーンはこれまでにも何回かあった。一例を挙げれば第14話「時間よ、とまれ」で、ガンダムに仕掛けられた爆弾の解除作業中に「ブライトさん!なんでみんなで助けないんですか?一緒にやればもっと早くすむのに」と詰め寄るシーンがあった。
ここでフラウボウが語気強めにブライトとミライに「どうして?」と問うのはフラウボウの過労を表現するものであろう。肉体的な疲労から精神的な余裕がなくなり、安易に「アムロは大丈夫」と判断するミライ達にイラついてしまったといったところだろう。
均衡状態が続くホワイトベースとムサイだが、この後ジオン軍、連邦軍共に援軍の到着により一気に事態が動き始める。
アムロvsシャア(9戦目)
アムロがララァの車に気を取られて油断している隙にシャアがガンダムの後方からビーム発射!
しかし、ガンダムがギリギリでかわす。
これを見たシャアがガンダムのパイロットもニュータイプと気づいた。ただし、まだパイロットがアムロ(=サイド6で出会った少年連邦兵)というところまでは気づいていない。
ガンダムがゲルググを捕捉できていないことを利用し、いろんな角度から攻撃を仕掛けるシャア。しかし1発も当たらない。こうした状況からシャアはガンダムのパイロットがニュータイプであることを確信する。
このシーン、ガンダムの動きが素晴らしい。空中でゲルググに接近しながらビーム攻撃を最小限度の動きでスレスレをかわしていく。
シャアも「私の射撃は正確なはずだ、それをことごとくはずすとは」とニュータイプの能力に感嘆する。
しかし、シャアも手練れである。ガンダムの背中のバックパック部分に見事命中。アムロも思わず「さ、さすがだなシャア!」ともらす。お互いに認め合ったライバル同士だからこそのセリフ回しである。
ガンダムがゲルググの姿を捉えた。ガンダムがジャンプして一気に間合いを詰め、ビームサーベルがゲルググの右手をクリーンヒット。
ゲルググもガンダムを蹴り飛ばし双刃刀で攻撃するが、地面を転がって回避する。
最後、ビームサーベルがゲルググのわき腹にヒットし、ゲルググは撤退を余儀なくされる。
ガンダムが地面を転がりながらゲルググの刀を避けるシーンは、チャンバラ映画やカンフー映画、ウルトラマンシリーズ等でよく見るシーンの引用である。機動戦士ガンダムもこうした格闘ものの系譜に位置付けられる作品ということだ。
さて、シャアはガンダムの攻撃を受けてあっさり撤退しているが、そもそも今回のシャアの戦闘目的はララァが避難するまでの時間稼ぎであり、ガンダム撃破は目的に入っていない。偽の爆発も時間稼ぎの一環だ。
援軍の到着とあっけない幕切れ
場面は再度宇宙に移ってワッケインのマゼランである。マゼランはホワイトベースと接触するためテキサスコロニー付近を探索中だ。しかし、ミノフスキー粒子が濃く、さらに漂流物も多いので、作業が難航している。
マゼランがこの領域を航行しているのは、ソロモン攻略後の掃討作戦の遂行中だからということでよいだろう。
そんな中、バロムの戦艦に接近しそのまま戦闘に入る。
バロムは第36話「恐怖!機動ビグ・ザム」でソロモンの援軍として月面基地グラナダから派遣された将校である。しかし、到着前にソロモンは連邦軍の手に落ち、バロムはグワジンで残党兵の救出活動にあたっていた。
バロムはマクベ艦隊の救援に向かっていたところにワッケインのマゼランに遭遇したということだろうか。このあたりのバロムやマクベの艦隊の行動理由がいまいちよくわからない。
ウラガンのムサイ艦隊がバロムの救援に向かう。しかし、動き出した瞬間をホワイトベースは見逃さなかった。すかさずセイラがGファイターで出撃、ホワイトベースも主砲とミサイルで総攻撃を仕掛ける。後方から仕掛けられたウラガンの部隊はあっという間に壊滅。
その後、バロム艦もワッケインによって撃沈。均衡が崩れてから一気にジオン側は壊滅してしまった。
ワッケインと接触したホワイトベースはそのままテキサスコロニーに進入。ガンダムの回収作業に入る。
ルナツーでブライト達を拘束したり、民間人を門前払いしたりした頃のいや~な感じは一切ない。ブライト達を同じ軍人として対等に扱っている。「ホワイトベースか。たくましくなったものだ」とつぶやくワッケインには急成長を遂げるホワイトベースに対する期待まで感じさせる。
お疲れのフラウボウとドラマ作り
テキサスコロニー内に着地したホワイトベース。ガンダム捜索のためにバギー3台を出動させる。
ここでフラウボウが疲労困憊でぼーっとする様子が描かれている。
これを描く意味は、一つは、先ほど書いたようにソロモン攻撃から戦闘続きでクルー達には休む暇があまりなかったことを表現すること。
そしてもう一つは、この後のシャアとセイラの会話をブライトに聞かせるドラマ作りのためである。
ブライトは過労気味のフラウボウを見て、ハヤトの容体を見てくるように指示するとともに、サブブリッジのバンマスにブリッジに上がるように指示した。この交替の間、ブライトがバギー隊と直接通信することとなり、シャアとセイラの会話を耳にすることとなったわけだ。ドラマの作り方が実にうまい。
ジンバ・ラル
セイラのバギーにシャアが乗り込む。ここが今回のハイライトである。
ジンバ・ラルの名前が久しぶりに登場した。前回登場したのは第20話「死闘!ホワイト・ベース」のランバ・ラルのセリフである。
このジンバ・ラルのセリフからジオン公国建国の経緯が明らかになった。
まず、シャア(キャスバル)とセイラ(アルテイシア)の父親ジオン・ダイクンがジオン共和国を建国。建国理念の根幹には「ニュータイプ」概念が深く関わっている。なお、ニュータイプの語が登場するのはこれが最初である。
その後、デギンがジオン・ダイクンを暗殺。臨終の際、ジオン・ダイクンはデギンが黒幕だと知らせたかったようだが、それを逆手にデギンは「自分が後継の首相に指名されたぞー」と吹聴して首相に就任。政敵となるべきジオン・ダイクンの息のかかった者を次々と殺害し、国家体制も公国(君主制)に変更。キャスバルとアルテイシアは名前を変えて地球で亡命生活を送るようになる。
このあたりの経緯を見るにつけジオン・ダイクンの無念は察するに余りある。シャアがザビ家への復讐を考えるに至ったのも頷けるというものだ。
シャアの目的は何か?
シャアはザビ家への復讐のためにジオンに入国、ハイスクールから士官学校へ進む。連邦軍との戦争が始まって、ガルマを亡き者にすることに成功した。
しかし、すでにシャアの目的は別のところにあるらしく「ザビ家を連邦が倒すだけでは人類の真の平和は得られないと悟ったのだ」という。そしてその理由として「ニュータイプの発生」を挙げる。これはどういう意味だろうか。
シャアが「ジンバ・ラルの教えてくれたことは本当のことかもしれない。」といっているところを見ると、シャア自身ニュータイプの能力を持った人間が本当に存在しうるのか半信半疑だったのだろう。ジオン共和国建国の理念であるニュータイプの存在が疑わしい中で、当面シャアはザビ家への復讐に力を注ぐ。
しかし、ララァの存在を知りシャアはようやくニュータイプの存在を確信する。シャアはザビ家を打倒し、父ジオン・ダイクンの悲願であるニュータイプによるニュータイプのための国家であるジオンを再建しようとしていたのではないか。
ところが、ガンダムとの戦いの中で連邦軍にもニュータイプがおり、さらにニュータイプがすでに実戦投入されていることを知る。つい先ほどのことだ。もっともこれは連邦軍が組織的に研究していることではなく、まったくの偶然なわけだが。
連邦政府の圧政から逃れるためにニュータイプの国家を建国したとしても、連邦政府側にもニュータイプが存在するのであれば、ニュータイプは分裂状態でお互いに殺しあうことになるし、連邦政府の支配のもと戦争の道具として利用されるだけの存在になってしまう。それはジオン・ダイクンの掲げた建国理念と相容れない。
しかし、そうだとして、ではどうすればシャアやジオン・ダイクンの理想は実現できるだろうか。シャアの言う通り「ザビ家を連邦が倒すだけ」では不可能だろう。
シャアは「今後は手段を選べぬということだ」という。シャアがどのような未来を描いているのか、どう振舞えばいいのか。そこは語られなかったが、状況は混迷を極めている。
一つ言えることは、シャアの目的をこのように解釈するとララァはやはりシャアにとって一つの駒に過ぎないのではないかということだ。
ジオン・ダイクンの理想をシャアが受け継いでいるのだとすればニュータイプであるララァのことをシャアがむげにするとも思えないが、他方で「今後は手段を選べない」とも言っている。
シャアは狡猾な人物で誰かを利用することをなんとも思わないし、常に何かを企み腹の中をなかなか明かさない。他方、ララァはシャアを完全に信頼している。
ララァの立場はなかなか不憫だ。
シャアの置き土産
シャアとララァのザンジバルがテキサスコロニーを出港する。外にはワッケインのマゼランが待機しており、ザンジバルと交戦状態に。ホワイトベースもガンダムを回収後援軍としてザンジバルを追撃する。
ホワイトベースがテキサスコロニーを出港する。ホワイトベースが出港する様子はさきほどザンジバルが出港する様とまったく同じ構図である。ホワイトベースがザンジバルを追っていることが視覚的にも容易に理解できるようになっている。
ところが、そこに発信物体キャッチの報が入る。爆発物の可能性も考えて詳細をチェックするようブライトが指示を出す。このチェック作業のためにホワイトベースの出港がわずかに遅れたことがマゼランの運命を左右することとなる。
なお、このとき回収された物体は金塊の入ったトランクで、先ほどシャアがセイラに「金塊を残していく」と言っていたものだ。このあたりもドラマの作り方が自然で非常にうまい。
ワッケインの死
ホワイトベースの眼前には撃沈されたマゼランの残骸が広がっている。
ホワイトベースは間に合わなかった。ホワイトベースが戦闘に間に合わなかったのは、テキサスコロニーを出港しようとした際にシャアの残したトランクの確認で出港に手間取ったからである。このあたりのストーリーテリングやドラマの作り方がストーリー的にも自然で非常にうまい。
ザンジバルがマゼランを撃破する瞬間を描くのではなく、ホワイトベース目線で戦闘の終わった戦場を描くことで戦闘行為の無情さ、あっけなさが強調されている。
マゼランに向かってブライトが敬礼をする。このブライトの敬礼はいわゆる海軍式と言われている形式のものである。
敬礼の仕方は陸軍と海軍で異なっており、陸軍式の敬礼は肘を横に張り出す形になるのに対し、海軍式の敬礼では肘を張り出さず脇を締めるコンパクトに行う。これは空間の狭い軍艦内でも他者にぶつからないようにするためと説明されることが多い。機動戦士ガンダムの世界の宇宙空間を航行する戦艦は海軍式にならっているということだろう。
ただ、こちらのサイトの記載によれば、海軍式敬礼なる特別の形式のものはそもそも存在せず、終戦近くに一部で指導された敬礼の形式が戦後になって海軍の「正しい」敬礼として流布されたと指摘している。
こうした一部で流布していた「海軍式敬礼」が映画・アニメの製作者によって摂取され映像表現に取り入れられていき、映画・アニメを通じて一般にも流通するようになり、「海軍式敬礼」が実体のあるものとして扱われるようになったということらしい。
ことの真偽は定かではないが、なるほど、なかなか説得力のある説明である。
なお、ガンダム世界の戦艦が海軍を模倣していると考えられる表現は第4話「ルナツー脱出作戦」でも見られた。第4話ではパオロの遺体が宇宙へ放たれるシーンがあるが、これは宇宙で行われる「水葬」である。長期間の航海が予定されている軍艦では遺体を長期保存することができず、やむを得ず水葬をしていたという歴史がある。遺体を宇宙へ放出するのは軍艦で行われてきた「水葬」を宇宙空間に応用したものだ。
セイラの告白
トランクについてセイラを尋問するブライト。セイラの口から「シャア・アズナブル」の名を聞いた時のブライトの心境はいかばかりだろう。信頼していた部下が実はジオン軍のスパイだったのかもしれない。
ラストでセイラは自室で泣き崩れるシーンでこの回は終わるが、普通に考えてスパイ容疑のある兵士は即座に身柄を拘束し独房入りである。次回以降のセイラの処遇が気になるところである。
第38話の感想
今回も実に濃厚な回であった。
まず、ニュータイプ・アムロの成長が著しい。ゲルググとの戦闘はスピード感にあふれていて見応え十分である。戦闘中、アムロが「も、もう少し早く反応してくれ!!」というシーンはおそらくはアムロの反応速度にガンダムの性能が追いついていないことの表れと捉えてよいだろう。当初ガンダムの性能に助けられてばかりだったアムロが急成長を遂げ、ここに至ってガンダムの性能を凌駕するようになったわけだ。なかなか感慨深いものがある。
また、ワッケインの描かれ方の変化も気になるポイントだ。第4話で登場したワッケインは徹頭徹尾官僚主義的・権威主義的で終始いや~な感じの付きまとう融通の利かない軍人として描かれていた。それが今回はそういった印象はなく優秀な指揮官として描かれている。こうした視点から第4話をもう一度見直してみるとまた違った解釈ができるかもしれない。なかなか深掘りさせる作品である。
そして何といってもシャアとセイラである。二人の会話からジオン建国の経緯が明らかになった。そしてそこにニュータイプが深く関わっていることも明らかになった。シャアにしてみればザビ家を打倒し、ララァとともに理想のジオンを建国しようと思っていたのだろうが、連邦側もニュータイプを実戦投入していることを知って計画の根本的な変更を余儀なくされたといったところだろう。
敵方にもニュータイプがいることを知りシャアは「今後は手段を選べぬということだ」とつぶやく。シャアの関心はザビ家の打倒からニュータイプへと変化した。今後のシャアの行動にも目が離せない。
次回予告を見て、いよいよララァが出撃するようだ。またシャリア・ブルというニュータイプも登場するらしい。
いよいよニュータイプ同士の戦闘が始まる!
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