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心優しい演劇人による「12人の優しい日本人を読む会」

 演劇をこよなく愛するジーンアンドフレッドが贈る、お家で楽しめる配信舞台作品のレビュー企画。第一回は「12人の優しい日本人を読む会」です。
 劇作家・演出家の三谷幸喜さんが主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」(現在、30年間の充電期間中)のために書き下ろした戯曲『12人の優しい日本人』を、俳優たちがオンライン会議システム・ZOOMで読み合わせするという企画。多くのサンシャインボーイズ・メンバーが参加し、かつての自分の役を演じるという、往年の演劇ファンにはそれだけでも胸が高鳴る企画です。オリジナルメンバーの誇りと気合に、初挑戦の芸達者な面々が華麗についていく様も、非常にエキサイティングでした。

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 元夫を路上に突き飛ばし、トラックと衝突させて死亡させたとして、殺人容疑をかけられている女性の陪審審理が開かれる。集められたのは無作為に選ばれた12名の男女。彼らは「有罪か」「無罪か」のジャッジをしなければなりません。
 会議室という閉ざされた空間で、面識のない12名がそれぞれの意見を表明し、有罪と無罪の間で揺れ動くうち、彼らの本性が見え隠れし始めます。“法廷モノ”のハラハラ感はそのままに、お堅いところは全くない、ナンセンスコメディです。文字通り“笑って泣ける”芝居。

 見どころは「後編」の“ジンジャーエール”! 『天空の城ラピュタ』の「バルス」に匹敵する、この単語が出てくるくだりは正に三谷演劇の真骨頂です! そして、ラストの決定的な陪審員11号のセリフも落とせません。11号を演じる野仲イサオさんが、これ以上ないというくらい完璧な間でセリフを入れてきます。それを受ける2号の相島一之さんの演技も…言葉を失ってしまうほど!

 このZOOM演劇、演じている俳優の力も素晴らしいですが、劇場で観るよりも一歩引いて冷静に見ることができるからか、『12人の優しい日本人』という脚本が類まれなる煌めきを持ったものだということがよくわかります。驚きを伴うくらいの煌めきです。
 12名の陪審員は年齢も職業も社会的地位も違い、どんなに聡明で立派な発言をする人もどこかしら欠点があり、反対に感覚だけでモノを言っている人が結果的に正しかったりもする。彼らを見ている私たちのほうに自己肯定の気持ちが生まれ、安心感すら覚えてしまう…。これを書き上げた29歳の三谷さんの人間観察力の鋭さ、人への優しいまなざしに深い感動を覚えました。

<配信情報>
「12人の優しい日本人を読む会 ~よう久しぶり! オンラインで繋がろうぜ~」サイト
※サイト内に配信リンクあり。暫定的に5月いっぱい配信予定。

<作品情報> 
作:三谷幸喜
演出:冨坂 友(アガリスクエンターテイメント)
出演:甲本雅裕、相島一之、小林 隆、阿南健治、吉田 羊、近藤芳正、
梶原 善、妻鹿ありか(Prayers Studio)、西村まさ彦、宮地雅子、
野仲イサオ、渡部朋彦(Prayers Studio)、小原雅人 ※役名順
管理人:妻鹿ありか(Prayers Studio)
発起人:近藤芳正
ピアノ演奏:佐山雅弘
バリアフリー日本語字幕制作:特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)


執筆:沼田由佳(Gene & Fred) イラスト:幸脇亜矢子(Gene & Fred)

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