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風俗探偵 千寿 理(せんじゅ おさむ):第10話「ライラ、破壊と殺戮の激走! 兄の元へ…」

ライラは走った。自分が切断したバリーの首を大切そうに胸に抱いて…

「くそ… もうバリーの生命の息吹いぶきが感じられない… でも、まだ間に合うかもしれない… チャーリーなら…」
 ライラは安倍あべの神社に止めてあった赤いピックアップトラックに飛び乗った。そして、バリーの首をそっと助手席に置いた。

「待ってて、バリー… すぐにチャーリーの所へ連れてってあげる… そうすれば、あんたももう一度…」
 ライラは助手席のバリーの首に向かって優しく微笑ほほえんでから、車のエンジンをスタートさせた。

 ギャギャギャーッ! ライラは駐車場で車を急転回させ猛スピードで車を発進させた。
すると、ちょうど駐車場に入って来た軽自動車と出合いがしらにぶつかりそうになった。
 相手が反射神経のいい人間であったのか衝突こそけたが、こちらの運転席側と軽自動車の右後部が激しく接触した。ライラの運転するピックアップトラックと軽自動車では大人と子供くらいの大きさの違いがある。文字通り軽自動車ははじき飛ばされてスピンした。
 軽自動車は抗議のためにクラクションを大きく鳴らしているが、ライラは完全に無視した。

「やかましい! 急いでなきゃバリーにその軽自動車をひっくり返して放り投げさせるところだ! ねえ、バリ…」
ライラはハッとなって助手席に置いてあるバリーの首を見た。

「バリー…」
ライラには、まだバリーの死が受け入れられないのだ。

不死身のミノタウロス… バリー…
 どんなに困難なチャーリーからの指示でも、ライラと二人で常に完全勝利でまっとうしてきた。
 ライラとバリーは双子だった。チャーリーを兄とした三人兄弟… もちろん三人とも人間では無かった。
 三人はある絶対的な存在に対して忠実に使えるしもべだった。その存在は文字通り三兄妹にとっての絶対者であり、チャーリーは今も影の様に付き従っていた。
 その兄チャーリーの手足となって働く事がライラとバリーには誇りであり、生きがいであった。

 今回のチャーリーからの指令は、川田明日香あすかという若い女を連れ帰ることだった。たったそれだけ…? ライラは不満だったが兄チャーリーの指令は絶対だった。バリーは不満など感じる事なく、チャーリーの指示には盲目的に従う。
 ライラは今回の任務に、困難な障害など微塵みじんも感じていなかったのだ。それが…あの場に獣人白虎びゃっこがいたせいで、全てが狂ってしまった。
 最初は圧倒していた不死身のバリーが、最後には反対に倒されてしまった。信じられない事だったが、バリー以外にも不死身の獣人が存在したのだ。ヤツは虎タイプの獣人で、今までにライラ達があったことの無い存在だった。

 ライラはバリーの戦いの最中さなかに不謹慎きんしんだったが白虎びゃっこが真の姿を現しその姿を目にした時、自分の秘めた女の部分がおびただしくうるおってきたのを感じた。白虎びゃっこの獣人化した姿に、自分ではどうしようもないほどの恍惚こうこつ感を感じていたのだった。
 気が付くと、ライラの右手はショーツの中にすべり込んで自分のクリトリスをまさぐっていた。彼女のちつからは大量の愛液が流れ出ていた。

「ああっ… あれは何… 男を見てこんなに感じたのは生まれて初めて… アイツが欲しい… アイツに抱かれたい…」
 ライラが白虎びゃっこに感じた激しい性欲は本能だった。メスが猛々たけだけしく強いオスに対して、征服されたいと感じる自然な欲求だったのだ。
 それはもちろん、ライラにとっての初めて感じたオスへの欲求だった。自分のしとどにれたちつを、あの白虎びゃっこ猛々たけだけしくそそり立った男根だんこんで背後から獣の体位で力いっぱい刺し貫つらぬかれたい、自分を激しく犯した白虎びゃっこの精のほとばしりを子宮で受け止めたい…
 ライラは白虎びゃっことバリーの死闘を見つめながら白虎びゃっこに犯される妄想を頭に描いて、右手で自分をなぐさめ続けた。れそぼったちつに突き入れた指を激しく抜き差しした。
 そしてライラが絶頂を迎えようとした時、バリーの背中を白虎びゃっこの両あしが突き抜け、次に白虎びゃっこがバリーの左のつのみついているところだった。

「ああっ…もうだめ、いくっ…イッくうー!」
 ライラが絶頂を迎えて果てる瞬間と、白虎びゃっこがバリーの左のつのみちぎったのとはまさしく同時だった。
 ライラはオルガスムスに達し、ヨダレをらしながら半開きのうっとりとした目で白虎びゃっことバリーを見つめたが…
 自分の血を分けた双子ふたごの兄バリーが身体中で唯一の不死身では無い部分であるつの白虎びゃっこ千切ちぎりとられるのを見たライラは、今度は絶望の絶叫を上げた。

「そこは、駄目だめえーっ!」
 バリーの他の部分なら心配はなかった。だが、最強をほこるミノタウロスのつのだけは唯一不死身の恩恵おんけいよくしていない部分だったのだ。生物の部分として普通には再生するが、あくまでも通常の速度での再生修復だった。
 バリーのつのを破壊した者など皆無かいむだったため、何の心配もしたことなど無かったのだった。

 そして、逆結界の足輪をはずされたバリーには、この領域に張られている結界の力が働き出す。そうなれば、バリーの身体の不死身の体質は結界でおさえ込まれる。
その結果は火を見るよりも明らかだった。
 いかに不死身といえど心肺の機能を損なわれた身体で、長時間生き続けることは出来ない。首を切断した今ならなおさらだった。

「早くチャーリーの元へ… バリーの首を…」
あせるライラは無我夢中で車を飛ばした。
「六本木にあるあの方のオフィスにチャーリーがいる… 一刻も早くそこへ…」

 高速に乗り六本木へと飛ばすライラ… その時、後方でサイレンの音が鳴り響いた。白バイだった。構わずに無視して飛ばし続けるライラ…
 この白バイ隊員も高度な技能を持った交通機動隊の隊員のようだった。飛ばすライラに追いすがり、ついに運転席の横に並んで並走する。
 白バイ隊員は片手で止めろというゼスチャーをしている。ライラは少し速度を落とし、運転席側の窓ガラスを開けた。白バイ隊員もライラの車に並走しながら速度を合わせた。
「ジャマするな…」 
 ライラは窓の外側からのぞき込むベテラン白バイ隊員の眉間みけんに向けて、右手で窓から突き出した拳銃をためらう事無く三発発射した。
「ドギュン!ドギュン!ドギューンッ!」

 頭部に三発の銃弾をくらった白バイ隊員はもちろん即死だっただろう、後方に倒れこんだ白バイは激しくころがっていった。さらに後方の追い越し車線を走っていた乗用車に巻き込まれた白バイは、爆発炎上した。巻き込んだ乗用車も車線横の防音壁に激突し大破したところに、後方からのトラックが止まり切れずに激突し炎上した。
 ライラが射殺した隊員の乗る白バイから始まった事故は、次々と連鎖的に何台もの車を巻き込んでいき結果的に大惨事となった。

ライラは、バックミラーでちらっと見ただけでさらに激走を続けた。
 白バイ隊員の死ぬ前の報告でライラの進行方向のインターチェンジから数台のパトカーが殺到し、高速道路の該当車線を封鎖ふうさした。
 間もなく、満載まんさいの機動隊員を乗せた大型人員輸送車両が到着して20人の機動隊員と、計6台のパトカーで駆けつけた警官の合計38名が高速道路上に展開し、逃走車両の逃走を阻止し容疑者を確保するべく大型人員輸送車を料金所300mの地点に横付けにバリケードとして駐車させ、さらに前方100mの地点に激突防止用のネットを張った。

これ以上の車両の破壊及び一般道への逃走を許すわけにはいかなかった。
 警察としては事件発生の報告を受けてすぐの現時点で、出来得る限りの予防線を張って逃走車両の到着を待ち受けた。

「ちっ!」
 ライラは舌打ちをして、横手上空から追いすがる警察の追跡ヘリを運転席側の窓から見やった。ヘリからはスピーカーを使った大音量の警告がされていた。

「そこの赤いピックアップトラック! 走行を停止せよ! その先は封鎖ふうさされている! それ以上進まずに止まれえっ!」
ライラは薄笑いを浮かべるだけで完全に無視だった。

料金所までの直線道路に突入した。
「あれか…」
ライラはドライブレコーダーの前方カメラを超望遠に切り替えた。

「いるいる… おまわりどもがウジャウジャいてやがる。」
 カーナビ上の表示では料金所までの距離約2km、その前方約500m以内に封鎖ふうさかれているようだった。
 道路を封鎖ふうさしている最大の障害物は軍事用偵察衛星で上空から得た映像では、料金所前方約300mの地点に停車された大型人員輸送バスの様だった。

「対戦車ミサイル用意…」
そうつぶやきながら、ライラはダッシュボード上のスィッチを押した。
すると、ピックアップトラックの荷台にえ付けられていた折りたたみ式アームが起き上がり、アームに取り付けられている対戦車ミサイル『FGM-148 ジャベリン』を前方に向けた。
「目標、封鎖用大型バス先頭車両。目標の前方1,500mに達した時点でミサイルを発射しろ。」
 ライラは音声入力システムを使って、攻撃システム管制用コンピューターに命令した。

「目標までの距離をナビ上に表示。」
カーナビの画面にライラの命令通り目標までの距離が表示された。

「あと500m…」
ライラはアクセルをみ込み、時速150kmまで加速した。

 すぐに発射設定地点に到達し、ライラの頭上から「バシューッ!」という音を発しながら、8.4kgタンデム成型炸薬弾頭を搭載したミサイルが発射された
 ピックアップトラックの時速150kmの速度が加わった対戦車ミサイルが、目標に向けて一直線に飛翔ひしょうした。

 こちらは封鎖用に設置された大型バス後方の指揮車両内である。突然スピーカーから前方偵察隊員の絶叫が響き渡った。
「ミサイルだあっ! 退避しろーっ!」

 しかし、命がけの退避警告は遅かった。直後に先頭に横向きに停車されていた機動隊員輸送用の大型人員輸送車両が轟音と共に爆発し、後方にめていたパトカーに向けて破片をまき散らしながら吹っ飛んできた。ミサイルの命中したバスは燃料に引火しさらに爆発を重ねた。

 炎上は2台目のパトカーに引火し誘爆ゆうばくを起こした。展開していた数十人の機動隊員と警官達はパニックを起こしながら逃げまどったが、中には車両の爆発や炎上に巻き込まれて死傷した者が多数出た。

「全員退避ーっ! 負傷者を救助して逃げろーっ!」
 指揮官がヘルメットをかぶった頭から血を流しながら大声で命令した。だが時すでに遅し…三台目のパトカーにまで引火炎上し、さらなる爆発を引き起こした。
 後で判明し発表された情報では、この作戦に参加した合計38名の機動隊員と警察官のうち死者16名に重体8名、重軽傷者は14名に及んだ。大惨事であった。

 ライラは、バンパー部に取り付けられている2連の自動小銃をフルオートで連射して、激突防止用ネットをズタズタに切り裂きながら走行し、そのまま爆発で吹っ飛んだバスの隙間を走り抜けて封鎖ふうさを突破した。
 料金所のゲートのバーをへし折りながら走り、高速道路の降り口から一般道へと抜けた。

 そして一般道に抜けたライラの目立つ赤いピックアップトラックは、信号待ちで停車していたコンテナトラックの後ろに止まった。すると片側三車線の中央に止まっているライラの車を挟むような格好で、二台のコンテナ車が停車した。奇妙な事に無茶な割り込みのコンテナ車がライラの後ろにも停車し、これでライラの赤いピックアップトラックは四方をコンテナトラックに囲まれた形になって周囲から見えなくなった。
 ここの信号は少し長いので有名なのだが、やっと信号が変わり車が動き出した。すると、四方のコンテナトラックも発車し出し間隔も開いたのでライラの目立つ車も見えてくるはずだったが、そこにいたのはやはりピックアップトラックだったが、似ても似つかない真っ白な車で、荷台には大きな可愛いホットドッグ屋のイラストが描かれ、『デリシャスドッグ』とロゴの入った白いコンテナのった車だった。
 運転していたのは女性だったが、白い帽子を目深にかぶり大きなマスクを付けて、服はパン屋さんのよく着る上下の白い服装を身に着けていた。
 一見しただけでは、とてもあのあやしくも美しいライラを想像するのは難しかった。

『デリシャスドッグ』の車は走り出したが、あの天才的な運転技術と乱暴さの入り混じったライラの運転とはまるで違って、ゆっくりとした安全運転で走行を続けた。

 六本木の街中をサイレンを鳴らしながら走るパトカーがやたらと走り回っていたが、『デリシャスドッグ』の車に対しては近くを通り過ぎても興味を示さず見向きもしなかった。
 外観以外でもう一つのきわめつけの理由は、ナンバープレートが全く変わっていたのである。個人所有の白のプレートから事業用自動車が付ける緑のプレートに取り替えられていた事だった。ナンバーそのものも全く違っていた。

 ライラの乗った派手な赤い戦闘用ピックアップトラックが、あの信号待ちでコンテナトラック4台に囲まれていた短時間で、これだけの変貌へんぼうげていたのだった。
 もちろん4台のコンテナトラックは、ライラが自分の所属する組織に連絡して救援を要請した仲間の車両だったのは言うまでもない。

 やがて、六本木のビジネスビル街まで安全運転で走行して来た『デリシャスドッグ』の車は、ビル街の中枢にそびえ立つ外資系企業であるマクガイバー社(MacGyver)の東京本社ビル(地上47階、地下3階)の地下駐車場へと入って行った。

 地下二階駐車場に駐車した『デリシャスドッグ』から降りたライラの姿は、元の妖艶ようえんあでやかなグラマーな姿態したいしみなく強調し、身体にぴったりとフィットした黒のワンピース姿に戻っていた。
 バリーの切断した首は、ブランド物の高級ボストンバッグに入れてある様だった。
 ライラは高層階への直通エレベーターに乗り込むと、42階のボタンを押した。42階はワンフロアー全体が、一つだけの会社か団体で所有されている様だった。
 『OFFICE』とだけ記載された部屋の入口に立ったライラは、この女には珍しい事に丁寧なノックをして訪問のむねを内部の人間に告げた。

「どうぞ、入りたまえ。」
中から中年男性らしい声が応答した。

「ライラです、失礼いたします…」
ライラは中にいる男性に丁重ていちょうげ、頭を低く下げるお辞儀をして部屋に入った。

「ライラか… チャーリーは所用で席をはずしている。私で良ければ話を聞くが…?」
 この広いオフィスはこの男の専用なのだろうか、豪華ごうかな応接セットの奥の窓際に設置された高級な執務しつむ机に一人のダンディな中年男性が座っていた。
 見た目は40歳といったところか、スリムでハンサムだが独特の落ち着いた雰囲気を持ち少し謎めいた印象を人に与える男だった。

「Mr.北条… 急いで兄のチャーリーに会わなければならないんです。でないとバリーが… バリーが…」
ライラは切羽詰せっぱつまった表情で、自分が北条と呼んだ男に訴えた。

「ふむ… そのバッグに入っているのはバリーの首か。あのバリーをそんな状態にすることの出来る奴は、ちょっと私には思い当たらんな。」

白虎びゃっこです…Mr.北条。あの伝説の神獣、不死身の白虎びゃっこと戦ってバリーは敗れたんです。」
ライラがここまで殊勝しゅしょうな態度で接している北条と呼ばれる男はいったい何者なのか…?

白虎びゃっこという言葉を聞いた北条の態度がそれまでと変化した。
「何…白虎びゃっこだと…? 不死身のミノタウロスを倒せる、やはり不死身の白虎びゃっこ…」

「あの…Mr.北条、本当にもう…バリーが…」
ライラはあせっていた。バリーは兄のチャーリーがいなければ二度と復活できなくなってしまう。

「そんな事はどうでもいい。白虎びゃっこのことをもっと話せ。」
北条と呼ばれた男はライラの訴えに答える事なく、冷たく言い放った。

「なにい…」
この部屋に来て初めて、ライラらしい殺気のこもった声が口を突いて出た。

「何だ…」
 しかし、ライラは北条の発したこの一言と彼の目の奥に浮かぶ光に圧倒されて二の句がげなかった。

『この私が… チャーリーの上司とは言っても、ただの人間に圧倒されるとは… どういう事だ…?』
ライラは北条のすくめるような目を見返すことが出来なかった。

「お前のバリーは死んでしまっても、私がよみがらせてやるから心配しなくてもいい。バリーは死なせるにはしいからな。
さあ、白虎びゃっこについてお前が知る限りのことを話せ。」

 『バリーが死んでもよみがらせる…? 何を言ってるんだ…この男は…?』
 ライラには、この目の前に座った人間の男が何を言っているのか分からなかった。だが…この男に見つめられさとされると、なぜかライラにはさからうことが出来ないのだ。本能的に従ってしまうのだった。

「はい…」
 気が付くとライラは従順じゅうじゅんな態度で、安倍あべの神社で今日体験した事を目の前の男に話し出していた。
 何一つ隠す事が出来ないという強迫観念に襲われたライラは、洗いざらい全てをこの北条という兄の上司にぶちまけた。

『いったい…
兄の仕事上の上司である、この北条という男は何者なのだろうか…?』

『ひょっとすると…
 このどう見ても人間にしか見えない男が、兄チャーリーと私達がつかえるべき絶対的なあるじなのだろうか?』

 ライラは頭の片隅かたすみに疑問を抱きながらも、自分のなめらかにしゃべり続ける口を止めることは出来なかった。

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