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ニケ… 翼ある少女 : 第16話「BERSとの激突… そして現れた不思議な少年」

 一瞬にして神社の上空高くに舞い上がったニケは、神社から自分達の通う中学校までの道筋を目で追った。ニケの目は数km離れた地点の人物の顔まで見分けることが出来るのだ。

「いた!」

 神社から100mほど離れた地点にゴミ処理場の施設しせつがあるのだが、その敷地しきち内に黒色の大型バンが止まっていた。今まさにそのバンの中へぐったりとしたセーラー服の少女を、黒い服を着た大男がかついで運び込むところだった。

「今助けるわね、愛理あいり…」

 ニケは超音速は使わずバンのそばに静かに舞い降りた。ここで再び超音速によるソニックブームを巻き起こすことはけたかったのだ。大型バンは愛理あいりを乗せたまま発車しようとはしなかった。神社にいる仲間たちを待っているのだろう。このゴミ処理場を出られて街中まちなかでの追撃になる事は危険だしけたい。ニケは車が走り出せないように目からニケの青い炎青いレーザー光線を放出して、ニケの方を向いている運転席側のタイヤを前後二個ともパンクさせた。片側がパンクで沈み込んでしまった大型バンの運転席からあわてた大男が飛び出して来た。

「これで、しばらくの間はあの車で愛理あいりを乗せて逃げ出す事が出来ないわね… 早く愛理あいりを助け出さないと、神社にいた連中がやって来ちゃう。」

 ニケは音も無く、パンクを調べる男の背後に飛んだ。男はニケに気付いていない。ニケは男の背後から首筋に死なない程度に手刀しゅとうたたきこんだ。ニケは華奢きゃしゃな身体つきをしているが、常人男性の数倍の力を出すことが出来た。今の手刀しゅとう手加減てかげんをしたが、いくら大男でも昏倒こんとうしたまましばらくの間は起き上がってはこれまい。

 「ぐっ!」というくぐもった声を出して倒れ込むと思われた次の瞬間、男は振り向いてニケの右腕をつかむやいなや、恐ろしい力でめ付けてきた。

「うっ…痛い! どういうことなの…これは…?」

 ニケは万力の様な力でめ付けられる右腕の痛みにえかね、右膝をついてしまう。ニケは咄嗟とっさに自分の腕を握った男の右腕に、目から放出するニケの青い炎青いレーザー光線で一瞬にして穴を穿うがった。これにはたまらずに男はニケの右腕を離した。

「痛あい… 何てことするのよ、か弱き乙女おとめに対して…」

 握られていた右腕を左腕でさすりながら、ニケは男を見て文句を言った。するとどうだろう…男の右前腕部にニケが開けた穴が見る間に閉じていくではないか… 驚いて見つめるニケの目の前で、すぐに腕の穴はふさがってしまった。

「くっ! こいつも化け物なの…?」

 穴がふさがったばかりの右腕で、男がニケに対して大柄な身体に似合わぬ目にも止まらぬ速さの右フックをり出して来た。軽く後ろに飛んでかわすニケ。かわされた男の右フックは大型バンの運転席の後ろのドアに当たったが、そのままドアに穴をあけて手首までめり込んだ。男は手を引きこうとしたが、なかなかけずにそのままドアを引きちぎってしまった。ドアが無くなったおかげで、ニケには後部座席で眠る愛理あいりの姿を見ることが出来た。

「今、助けてあげるからね…愛理あいり、待ってて。」

 男の方に向き直ったニケは、背中に折りたたんでいた銀色のつばさを大きく広げて男に対して数回羽ばたかせた。するとすさまじい風が巻き起こって、男を数m後方まで吹き飛ばした。しかし、ころがった先で男がすぐに立ち上がろうとしている。

「化け物め! もう容赦ようしゃしないわっ!」

 そう叫んだニケは、青く美しい目からほとばしらせるニケの青い炎青いレーザー光線で男の右足首を焼き切った。さすがの怪物も片足で立っておられず倒れ込み、地面にころがった。

「それぐらい、あんたなら平気でしょ! 悪いなんて思わないわよ。さあ、愛理あいりを助け出さないと…」

と言いながらニケが大型バン内に入ろうとしたその時、

「ビシッ!」

 鋭い音と共に運転席のドアに穴が開いた。狙撃そげきされたのだ。振り返ったニケが見たのは神社で襲ってきた5人のBERSバーズ達が走ってくるところだった。例の蛇の様な顔をした男がライフルでこちらをねらっていた。蛇顔の男は驚くことに走りながら狙撃そげきしてきたのだ… まだ100mは距離があるだろうに、何という正確な狙撃そげきなのか。ニケは急いで愛理あいりを抱き上げ、車の外に運び出した。BERSバーズはあと20mほどの所までせまっていた。

「くっ… 愛理あいりを抱いたまま超音速では飛べない…かと言って、遅く飛んでいたら狙撃そげきされちゃう。どうすればいいの…?」

 もう、あと10mの所までBERSバーズ達がせまったその時、突然にすさまじい突風が吹き荒れた。まるで超大型台風の様な風だった。先ほどのニケのつばさが起こした風の数倍は威力があっただろう。あっという間にBERSバーズの大男達全員を数十mも吹き飛ばした。ニケでさえ目をつむるほどのすさまじい嵐だったが、風は吹き出した時と同じ様にすぐにおさまった。さすがのBERSバーズ達も、全員がはるか数十m向こうにころがって倒れていた。

「何、今のすさまじい風は…?」

まわりを見回すニケの耳に頭上から声が聞こえてきた。

「ふふふ、こっちだよ…くみちゃん。今の風は俺が起こした。さあ、急いでそのを抱いて逃げるんだ。今なら大丈夫だから…」

 声のする方を見たニケは仰天ぎょうてんした。なんと上空に一人の少年が浮かんでいたのだ。しかも少年には自分の様なつばさは無かった。なのに十数mも上空に浮かんだまま静止していた。

「早くしないと、アイツらが立ち直ってせまってくるぞ。」

「うん…分かった。誰だか知らないけど、助かったわ… どうもありがとう。」

「礼なんか後でいいから、さあ早く!」

 空中に浮かぶ少年にかされて、ニケは愛理あいりを抱いたまま舞い上がった。同じ高さまで飛ぶと少年が言った。

「さあ、行こう。とにかく君達の学校まで行けば、アイツらもさすがに手は出せないと思う。俺も一緒に行くよ。」

「わかった、私達の学校ね!」

 ニケと少年は学校に向けて飛んだ。ニケは並んで飛ぶ少年を見た。スリムな体形でりの深い美しい顔立ちをした少年だった。見たところ、自分とさして年の変わらない少年のようだ。こざっぱりとした服装をしている。その辺を歩いていても何の違和感もなさそうな普通に見える少年が、自分の様なつばさも無しに空を飛んでいるのだ。ニケには不思議で仕方がなかった。だが、とにかくこの少年が自分達二人を助けてくれたのは間違いないのだ。敵では無さそうである。

『信じてみよう、この少年を…』

 ニケはそう思いながら愛理あいりを抱く両腕に優しく力を込めて、少年と共に学校を目指して飛び続けた。

 これがニケこと榊原さかきばらくみと彼女の初恋の相手となる少年、ひょうとの運命の出会いだった。

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『次回予告』
ニケと彼女の拉致らちされかけた親友の少女を、突然に現れて救った少年…ひょう
果たしてこの少年の正体とは…?
くみの祖父、安倍賢生あべの けんせいが明かす衝撃の事実…!

次回ニケ 第17話「運命の出会い… 少年の名はひょう
にご期待下さい。

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