妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「伴天連の吸血鬼…」
あれか…
代官から依頼のあった
キリシタンの教会は…
四半里ほど向こうの林の中に
一軒の南蛮風の教会がポツリと佇んでいた
あそこに数年前より
妖が棲むと云うのだな
ここ数年…教会周辺の集落に
若い女子の神隠しが異様に増えたと聞いた
代官所から差し向けた
何名もの捕り手が帰って来ぬと云う
裏の噂では幕府の放った隠密も
同じ目に遭ったという事らしいが…
それにしても、この辺り…
いやに蝙蝠が多いな…
あのキリシタン教会に近付くほど
増えてきおった…
ふむ…
『斬妖丸』が震えておる
妖がいるのに間違いない…
代官の話では
吸血鬼と呼ばれる妖は人の心を操り
人の生き血を啜ると云う
そして、血を啜られた者は
永遠に妖の言いなりになるという事じゃ
『斬妖丸』よ
お前に少し似ておらんか…?
お前は妖の生き血を啜り
その妖の妖力を我が物とする
ふふふ… 怒るでないわ
お前は拙者の愛刀であり
これ以上ない相棒よ…
むっ…?
向こうから歩いて来るのは
キリシタンの伴天連か…
もし…
伴天連どの…
この様な夜半にどちらに
行っておられた?
この辺りは夜な夜な
吸血鬼なる妖が出ると云う
一人歩きは危のうござる
拙者は伴天連どのの教会に
用のある身でござる故
教会まで其方を送って参ろう
********
何だこの男は…?
私の教会に用だと…?
ふっ…
まあよいわ…
どうせ生かしては帰さぬ
私の夜食となり
永遠の下僕となってもらおう
力はありそうだ…
いえ…
何でもありません
送って頂けるのでしたら
願っても無い事です
この辺りはあなたの仰った
吸血鬼とやらが夜にうろつくとか…
実は一人で心細くて堪らなかったのです
私はキリスト教を伝えるために
この日本へ参った宣教師です
この地で暮らして数年になります
そうですか…
ご浪人様は今宵
私の教会に御用でいらしたと…
狭い所でございますが
どうぞお立ち寄り下さいませ
********
伴天連どの…
其方、嘘を付いておるな…
拙者が捜しておる吸血鬼…
それは…ひょっとして
其方の事ではないのか…?
ふふふふ…
何も驚く事はあるまい…
其方の身体から漂う人の血の匂い
そして、それ以上に…
其方自身から強く漂う妖の匂い
何より拙者の愛刀が反応しておる
其方の血を飲ませろと
己が刀身を震わせるのじゃ…
そういう訳で
伴天連の吸血鬼どの…
もう正体を現すが良かろう
拙者とこの愛刀『斬妖丸』が
二度と人の血を吸えぬようにしてくれるゆえ
覚悟致せ…
貴様の国ではあずかり知らぬが
この日本には拙者
妖狩りの侍と我が魔剣『斬妖丸』がおる
貴様の様な毛唐の妖風情に
この国の人々の命を自由にはさせぬ!
貴様の汚れた血!
一滴残さず『斬妖丸』に吸わせてくれん!
********
ふふふふふ…
気付いておったか…
妖狩りの侍とやら
自己紹介の手間が省けただけだ
どの道、お前を生かして帰すつもりは無い
私の血をその下賤な刀に吸わせるだと…
血を吸い尽くされるのはお前の方だ
我が名はノスフェラトゥ…
不死者だ…
人間の生き血を吸い
永遠に生きる者なり…
お前は面白いから
私の付き人にしてやろう…
我がためにしっかりと働いてもらうぞ
その代わりお前には
私の僕として永遠の命を与えよう…
ただし…
昼間は行動出来ぬがな…
ハッハッハッハ…
言っておくがな…
私は刃物などでは倒せぬぞ
私は不死だ…
人間如きに勝てる見込みなど
全く無い…
ほう…
それでもやるというのか?
どうやら
言っても分からんらしいな
痛い思いをする事になるぞ…
お前はそれでも良いのだな…?
よろしい…
生きながら地獄を味わうがよかろう
では、始めようか…?
妖狩りの侍どの…
********
ふふふふ…
正体を現したな…
吸血鬼よ
それでよい…
妖は妖らしく牙を剝くがよい
では、貴様の言う様に
始めようぞ
ここなら気兼ねなく戦える…
『斬妖丸』よ…
南蛮の吸血鬼めは
太陽に弱いと古い書物で読んだ…
一気にヤツの弱点を突く…
この夜空に人工の太陽を打ち上げるぞ
そうじゃ…
使うは初めてだが
『天翔日輪剣』を用いる!
吸血鬼よ!
冥途への土産に
貴様に最初で最後の太陽を拝ませてくれん!
やるぞ『斬妖丸』っ!
出でよ、太陽っ!
喰らえっ、吸血鬼っ!
天翔日輪剣っ!
********
な、何…?
太陽だと?
貴様…
どうしてそれを…?
しかも太陽を作り出すだと…
そんな事が貴様ら人間如きに
出来るはずが…
うっ…何だ?
花火…?
おお…
空へ昇って行く…
うおおおうっ!
何だこれは…?
まっ、眩しいっ!
何も見えん!
ぐわああああっ!
や、やめろ…!
やめてくれえ!
あっ、熱いっ!
や…
焼かれるうぅぅ…!
………
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